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「皆、無事ですか?」
レオンの声に、周囲の木々がざわめき、数人の男達が飛び出してきた。
「ああ、大丈夫だ。全く、墓地がめちゃくちゃだぞ」
上背の高いエルフがレオンに、愚痴を漏らす。
「手加減できる相手ではなかった、とはいえ先人達に無礼千万ですね。次の満月に日は、ぜひ鎮魂祭を開きましょう」
レオンと、セイリュウの異次元の死闘は、数分とはいえ、半径百メートルに存在した、あらゆる万物を灰塵に帰していた。
その時、エルフの少年が、レオン達の傍に駆けてきた。
「大変だ。伝書鳩がさっき届いて——集落が、巨人どもの襲来を受けてるみたいだよ!」
エルフの男達が、ざわつきだした。
「マズいな。この地点からだと、集落まで、どんなに急いでも一時間はかかるぞ」
「女達だけで、その時間を持ち堪えられるとは思えない」
「まず、移動しながら話そう。時間が惜しい」
議論が飛び交う中、一人のエルフが手をあげる。
「時空瞬間移動の魔法を使用する」
レオンが心配げに
「アルフォン、その魔法は君の身体に。負担が掛かり過ぎる」
「大丈夫さ。いざとなったら長老に治癒してもらう。さぁ、みんな集まって
くれ」
アルフォンは、長文の詠唱を開始する。闇の森に住むコガネフクロウが、天空に向かって飛翔していった。
「勇者様!?イヤイヤ、無いって!俺は——」
——ただの、駆け出し底辺のトレジャーハンターだから!それに勇者が『冥王の咆哮』なんて、おっかない名称の技使うの!?
エルフの老婆に向かって、ナツメは全身全霊で、否定のポーズを取る。
「ナツメが……ドワーフ王の侵攻を退けた王子様……?」
当惑しながらアリアが、ナツメの顔を食い入るように見つめた。
「いや、さ。ほら、アリアだって、俺のことディスりまくってたじゃん!?」
「確かに……。貧相な顔立ちで可哀そうだな、とは思ってたけど、何となく、育ちが良くて、聡明な雰囲気を隠し持ってたような」
「褒めてんのか、蔑んでるのか、どっちでしょうか!?」
そんな勇者認定の押し問答に、新たな巨人BとCが、出現という横槍を入れる。
「そんな!まだ巨人がいるなんて」
アリアの母の悲痛を、エルフの老婆が、
「大丈夫じゃ!今、この集落には、残虐非道な憎きドワーフの軍勢を蹴散らした暗黒の勇者様がおる」
「だーかーらぁ。違うんだって!大体、なんだよ。暗黒の勇者って!?そいつホントに善人ですか!?」
巨人B、Cが、こちらに地鳴りを打ち立て、向かってくる。
——マズい。勇者うんたらより、こいつらをまず、どうにかしないと。だが……。エリュシオンの銃身の砕けっぷりを鑑みて、とても冥王の咆哮とやらを撃ち出せる状態じゃない。
突然、巨人Bの動きが静止した。数秒後、十五メートルのサイクロプスは胴体を真っ二つにして、大地に伏した。
「……はい?」驚嘆するナツメの視界に、緋色のマントを靡かせた男が立っている。
ブラウンの髪と、同色の瞳。彫りの深い美男子だ。胸当てのプレートアーマーには鷲のような装飾が施されている。
巨人Cが敵討ちとばかりに、男を踏みつける。石畳にヒビが入った。
が、信じられないことに男は、片手で巨人の足を止めている。
「レオン!」アリアが、目の端に涙を溜めながら、歓喜していた。
「間に合ってよかった。すぐに終わらせるから、みんなは下がってください」
レオンは眉一つ動かさず、巨人を紙屑のように投げ飛ばす。
「天翔龍牙連槍!」
パルチザンを、空中の巨人に構えた瞬間、切っ先から閃光が放たれた。空間が歪み、彼の周囲にある、家の屋根瓦、樽、花瓶もろもろが衝撃波で吹き飛ぶ。
胴体に、超特大の風穴を開けた巨人が、白目をむいて落下する。一部始終を拝見したナツメは思う。
——俺の中でこの人、たった今、勇者認定されました。マジ、ぱねぇ過ぎです。
ユーザーの皆様へ
小説家になろうサイト様で、小説を投稿させていただいております、綾瀬まひろです。
早いもので本年も残すところ、あとわずかとなりました。
当小説『犬と猫とトレジャーハンターの異世界物語』に関してですが、目安としていた10万字を超えたため、
小説家になろうサイト上での更新は終了させて頂きます。(他の小説投稿サイトでも同様)
これはコンテストに受かろうが受からまいが、無関係となります。
今まで、小説を見ていただいた380名ほどのユーザ様の方々に、心より感謝いたします。
本当にありがとうございました。
では、よいお年をお迎えください。
2019年12月30日




