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「必殺技の名前はあったほうが、なんていうか……カッコいいし、より威力が出る気がするんだよね!」
俺は少し呆れた気分になったが彼女が、気に入って満足しているなら水を差すのは野暮だと感じ、口をつぐむ。
山道を数分おりた辺りで、麓に赤茶の屋根、黄土色に塗られた煉瓦造りの建物が姿を現した。キーロフの街だ。
街の外周を取り囲むように、先端が尖った丸太で出来た塀が見える。
ふと、キャロルを見ると、先ほどまで頭とお尻から生えていた犬の耳と尻尾が消えていた。
他の異人種はどうか知らないが、彼女は耳や尻尾を自由に出し入れ出来るのだ。
キャロルのような、他の動物と混在したような存在を人々は『異人種』と呼んだ。異人種が何処からきて、いつから存在したのか、といった起源は一切わからない。
唯一、判明している事といえば、異人種は他の生物と実際に交配して生まれた訳ではないという事くらいだ。
異人種のルーツについては、
「人間が何らかの突然変異を起こし、他の生物の特徴を有するに至った」と主張する者。
「動物が人間の姿を得て化けているのだ」と主張する者に分かれていたが、いずれにせよ証明するに至らず、議論は平行線のままらしい。
俺から言わせれば、そんな事は、どっちでもいいし、どうでもいい。むしろ、異人種を差別する為の詭弁にしか聞こえない。
パラメリアに来る途中で立ち寄った国や集落でも、異人種を偏見の目で見る連中は大勢いた。その度にナツメは、腹わたが煮え繰り返ったものだ。
「ナッちゃん!あれ見て!」
不意にキャロルが、残照に染まる雲に向かい指をさす。彼女の指差す先。そこには雲の切れ間から覗く『島』があった。
「……天空の島スイフト」
リュックからガリレオ式双眼鏡を出し、空に浮かぶ島に向かいレンズをかざす。
「僕にも見せて!」
横からキャロルが、せがんできたので、双眼鏡を貸してやった。
「うーん、これでも良く見えないな……いつも霧みたいなのがかかってるよね。あの島」
キャロルは少し不満げに、双眼鏡をナツメに返す。
確かに彼女の言う通り『天空の島スイフト』は、視認しようとしても、霧のようなものに包まれて、明瞭としない。