6
「あ、あぁ……ごめん。ちょっと考え事してた」
キャロルはいつの間にか、紺色の長袖シャツに七分丈のベスト、膝丈のスカートに着替えていた。靴は、ナツメと同じなめし皮で出来た重厚なこしらえの物を履いている。
まだ乾いていない亜麻色の髪の天辺には、フサフサした茶色い耳が伸びていた。
そして首には——洞窟内で青白い光を放ち彼女に岩を砕く『力』を与えた首輪型の宝具ヘリオスがかかっている。
「ねぇ、早く帰ろうって言ったのはナッちゃんでしょ。僕、もうお腹ペコペコだよ」
彼女は、そう言いながらお腹をさすった。
「悪い……そうだったな。それじゃ、下山して街に戻るか」
ナツメは、発掘道具を詰め込んだリュックサックを背負う。
「うんうん!」
キャロルは嬉しそうに頷く。
今日、リバ山に遺物の発掘をしに来ているのは俺たちだけっぽい。
日中、遺跡管理者が待機している天幕にも、人影が見当たらない。もうとっくに帰ったのだろう。
ナツメは彼女と肩を並べながら、山を下山し始めた。
「なぁ、キャロ」
「何?」
「洞窟内でヘリオスを発動して、岩盤を砕いただろ?もし……洞窟が崩落して生き埋めになったら、どうするつもりだったんだ?」
ナツメは諭すような口調で、キャロルに言った。
「んー、それは無いから大丈夫!」
キャロルは、あっけらかんとしている。
「なんで、そう言い切れるんだよ!」
「僕の動物的な勘かな!結局、崩落なんてしなかったし、エレメント原石も収穫できたじゃん」
俺はぐうの音も出なかった。実際、キャロルの自負する勘のおかげで、今までどれだけ助けられたか分からない。
彼女がいなければ、ナツメはシェルターからパラメリア王国に辿り着くことすら出来なかっただろう。
それほど、道中の旅路は凄惨で過酷なものだった。
人間としての尊厳すら捨てざるを得ない生活を切り抜けてこれたのは、ひとえにキャロルがそばに居てくれたおかげだ。
「それにさ。僕、彗星の一撃打つとき相当、手加減したんだよ?これでも、ちゃんと気を使ってるんだよ」
キャロルは口を尖らせた。
彼女が首につけたチョーカー型の宝具『ヘリオス』は、身に着けた者の身体能力を、飛躍的に上昇させることが出来るらしい。
硬い岩石を拳で砕けたのも、ヘリオスの力によりものだ。
両親から託された宝具をキャロルは、すぐに発動させ使用できた。
比べて俺の宝具は——
ナツメは腰のホルスターに収まったリボルバーに目をやる。拳銃型の宝具『エリュシオン』。
両親に託された、この銃をナツメは、いまだに発動できないでいた。
——過去一回を除いて。
「まぁ、その件はもう良いとして……なんでパンチ繰り出す時、彗星の一撃って叫ぶんだよ?わざわざ、そんな事言わなくてもヘリオスの力は引き出せるだろ?」
「そんな事ないよ。必殺技の名前はちゃんと言わないと力出ないもん」
「嘘つけよ!前にお前がヘリオス発動させて、道を塞いでた大岩砕いた時『うおりゃあああぁぁっ!』しか言わなかっただろ!」
「そうだっけ?」
ナツメの突っ込みに、キャロルは惚けた顔で返す。