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「いや。悪い、悪い。おぬしの気持ちは、よう伝わったきたわ。さっきはああ言うたが、わらわも簡単に死ぬつもりは無い。箱を封印するという目的を達成するまではな」
マリーはそこまで言うと、咳払いをしてディオーネを頭上で一回転させた。
「長話が過ぎた。さあ、望みどおり島へと繋がる転送装置を起動させる。おぬしらは下がっておれ」
マリーはディオーネの先端を地面に刺し、ゆっくり瞳を閉じた。
「エラ・ソクド・ムエルカスル・アプトリスシス」
彼女はナツメ達が理解不能な言語を唱え始める。
しばらくすると、ドーム中央に居座る金属の円筒が、次々と黄金の微光を帯び始めた。
同時に地面に光り輝く五芒星が浮かび上がり、空洞内を照らし出す。
そして——次の瞬間、ナツメ達四人はドームから姿を消した。
ナツメが目を開くと、そこには青々とした草原が広がっていた。足元には、五芒星の描かれた転移装置が淡い光を放っている。
「ここが天空の島、スイフト……?」
にわかには信じられず、ナツメは周りを見渡す。
草むらの所々に壁が灰色の建物が散見できる。が、どれも全壊か半壊状態で原型を留めていない。
「すごい!スゴイ!!」
キャロルが走り出した。
「おい!キャロ」
ナツメの制止も聞かず、キャロルは猛スピードでダッシュし、やがて立ち止まった。
「みんな、見て見て!地上が見えるよ。僕ら、ホントにスイフトに来たんだ!」
キャロルが大声を上げ、ナツメ達に手を振る。キャロルの元まで辿り着いたミアが絶句した。
「地上があんな小さく見えるなんて……それに雲。この島は雲より高い位置に浮かんでるんですね」
ミアが言う通り、俺たちが住んでいるパラメリア王国の領土はおろかヨルゲン大陸が手掴み出来るほどのミニチュアに見える。
そして白く空に浮かぶ雲母が、視界を時折さえぎるように流れていく。
「どうじゃ。お主らには信じ難き光景じゃろう?わらわは何度か様子見の為にスイフトに来とるし、さして感慨も湧かんが」
マリーは淡々としていた。
「マジで信じられないよ!ナッちゃん。トレジャーハンターがみんな、指をくわえて見上げてる伝説の島に僕達は今いるんだよ?」
キャロルは興奮覚めやらぬ様子でナツメの方を向く。
ナツメも同様の気持ちだった。
——すげぇよ、本当にあのスイフトに来ることが出来るなんて……。
しかし、おのぼりばかりもしていられない。この島に来た目的を果たさなければならないからだ。
「マリー。パンドラの箱は間違いなく、この島にあるんだな?」




