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トレジャーハンターとは、森林の奥深くや砂漠のど真ん中にある、人の立ち寄らない廃墟や遺跡におもむき、そこに遺された『お宝』を探し出すことを主な目的とする職業だ。
お宝とは金銀で出来た装飾品や宝石を指すのだが、それ以外にも骨董品や希少価値の高い品物なども対象になる。
ちょうど一年前、ナツメとキャロルはシャルターからいくつもの国や集落を転々としながら、パラメリア王国に流れ着いた。
パラメリアは、これまで見聞したどの国よりも国民への福祉が手厚く、その対象は難民も含まれていた。
国が施行する難民救済法により、俺とキャロルは一定期間の生活資金を支給されることになった。
おかげで俺たちは、最低限の人間らしい暮らしを取り戻すことが出来たが、あくまで支給は一定期間であるため仕事を探さねば当然、食べていけなくなる。
ナツメは、ある人物との出会いが後押しとなり、トレジャーハンターという職に就くことを決意した。
首都ロザリアにあるトレジャーハンター協同組合に入会し、数週間の基礎トレーニングを受けた後、試験に合格したことでナツメは晴れてトレジャーハンターとなる。
といっても、俺が授与されたペンダントは三級のハンターを意味する銅製のものであり、いわば駆け出しだ。
二級に昇格すると銀、一級だと金のペンダントが組合から与えられる。ランクを決めるのは経験と実績、ただそれだけだ。
またトレジャーハンターは、兵士や郵便屋と違い固定給などは一切出ない。完全に歩合制だ。
当たればデカイが、外れれば生活苦に陥りかねない、問答無用でハイリスク・ハイリターンの商売である。
ナツメがわざわざ、そんなリスクの高い職業を選択したのには、理由があった。
それは、故郷であるシェルターを襲った連中が叫んだ「パンドラの箱」というワードだ。この国に来てナツメが知ったのは、パンドラの箱とはトレジャーハンター達が探し求める、最上級の至宝であること。
ならば、自分がハンターとなりパンドラの箱を探索していれば、いつか故郷を破壊し、両親を殺した奴らに出くわすのではないか。
そして出会った暁には、奴らに報いを受けさせたい。
その一念から俺は安定した職ではなく、ハンターになることを選んだのだ。もっとも、安定した職業など、混沌とした今の時代にあるのか疑問ではあるが。
「ワンワンッ!」
突然、背後から犬の鳴き声が聞こえた。ナツメは「うわっ!」と小さな叫び声をあげる。
振り向くとキャロルが、愛嬌に満ちた表情を浮かべて、ナツメの顔を見つめていた。
「どうしたの?ナツメ。呼んでも返事しないしさ」