7
ナツメは噴水の縁から立ち上がった。
——俺も何か買い物でもしよう。贅沢は出来ないが、報奨金を手に入れたことで気持ちにも余裕がある。中央広場に向かって歩き出そうとしたナツメの背後から急に声が聞こえた。
「そちか?パンドラの箱を探しているという小僧は」
ナツメが振り向くと、金色の髪に青い眼をした女性が立っていた。プリーツ加工された白いロングスカートに濃紺のコートを羽織ったその女性はナツメが言葉を失うほど美しかった。
ミアと引き合いに出すのもアレだが、彼女は美少女で可愛いという表現が的確だ。が、今、眼前にいる金髪碧眼の女性は『絶世の美女』『大人っぽい雰囲気を醸しだすお姉系美人』といった表現がもっともふさわしい。
「おい、そち。話を聞いておるのか?」
思わず見惚れていたナツメは美女の声で我に返った。
「は、はい?俺ですか?」
「お主以外、この場に誰がおるのじゃ?」
彼女が言うように噴水周辺には二人以外、人影は見えない。
「い、いない……ですね」
ナツメは後頭部を無意識に掻いていた。
「わらわは二度同じことを言うのが嫌いじゃ。じゃが今回だけ特別に申してやる。お主、パンドラの箱を探しておるのか?」
——はい、と言いかけてナツメは言葉を喉に詰め込んだ。何故、この女がパンドラの箱のことを知っている?しかも俺が探していることすら把握している。ということは、さっき俺が訪れた、あの店の男とグルの可能性も有り得る。
ナツメは左右に目を配りながら注意深くブルーアイズの美女を見据えた。とっさに警戒をしたのは経験からくるものだった。
パラメリアに流れ着く道中、美女を囮にしたハニートラップに引っ掛かり盗賊に襲われたのだ。俺の軽率な行動で結果としてキャロが危険な目に遭う羽目になった。以来、ナツメは人を容易く信じないことに決めた。
「なんじゃ、警戒しとるのか?」
金髪美女は目を細める。そして形の整った唇を曲げ、妖艶さを放ちながら微笑んだ。
「まぁ、無理もないかのぉ。無理に信じろとは言わん。じゃが、わらわはそちが探しておるパンドラの箱の所在を知っておる」
「あんた……何者なんだ?さっきの店の男とグルなんじゃ——」
ナツメ言いかけた時、先端が円形の渦状になった木製のロッドが脳天に降ってきた。
「痛ってえええぇぇ!!」
激しく頭を打ち付けられ、涙が出そうになる。
——この女、杖なんて持ってたか?ていうか、なんでいきなり殴られたんだ……。
「目上の者に対して『あんた』とは無礼にも程があるぞ。小僧!」
女はクルクルとロッドを回しながら氷のような視線を投げつけてくる。
「いや……目上って。多分、そんなに歳変わらないですよね?」
ナツメは先ほど殴られたショックからか、恐々としながら尋ね返した。
「ふん、相変わらず人間は見かけだけですぐ相手を判断しよる。わらわはお主より、軽く五百倍は生きとる犬神。マリーじゃ。」
「……五百倍?犬神……?」
何言ってんだこいつ、というのが正直な感想だった。もしこいつが言ってる事が真実だとすれば、千年近く生きている計算になる。
——スッゲェうさんくせぇ!




