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ナツメとキャロルが暮らすパラメリア王国は、ヨルゲン大陸の西方に位置していた。
パラメリアの領土は、非常に緩やかな丘陵地帯で形成されている。
首都ロザリアは領土のほぼ中央、平原部に位置し人口の約七割が集中する城下町だ。
領土の北部にはイエラ砂漠、西部はドロバ湿原、東部はヴィエジャ森林地帯、南部はカルバディ山脈からなる、山岳地帯で構成されていた。カルバディ山脈には、パラメリアで最も標高の高いリバ山がある。
ナツメとキャロルは、リバ山の麓にあるキーロフという街で生活していた。だが、生まれも育ちもキーロフという訳ではない。
五年前までナツメ達は、パラメリア王国より遥か東の地にある、通称『シェルター』という施設で過ごしていた。
シェルターは地下壕のように地中深くに造られ、その地下空間に、五百人ほどの人間が居住していた。
施設はそれ自体が『超古代文明の遺物』、すなわちオーパーツで建造されたものらしい。
らしい、というのはナツメ自身、両親から詳しい説明を受けたことがなかったからだ。
ナツメが物心つく頃、両親がキャロルを居住区に連れてきた。
シェルターからほど近い、廃墟と化した街で、一人泣いている彼女を見かねた両親が助けたらしい。
以来、ナツメとキャロルは兄妹同然に育てられ、両親、祖父母と共に慎ましくも穏やかな生活を送っていた。
そんな日常がある日、突然崩れ去った。シェルターが何者かに襲撃されたのだ。
施設の人達は次々に殺されていった。
父と母は、俺とキャロルを逃す際に『宝具』と呼ばれる遺物を手渡し「キャロルを守ってやってくれ」「二人とも生き延びて幸せになってね」と言いながら、脱出口へナツメ達を押し込んだ。
隔壁が閉まる瞬間、両親を切り裂く黒い影と「パンドラの箱を探せ!」という、男の声が聞こえた。
ナツメはハッと我に返る。嫌な過去を思い出した。
——やべ、吐き気がする。
時々、なんの脈絡もなく、思い出したくもない記憶が蘇り、しばらくすると忘れてしまう。
——記憶って消去出来ないのかな?
丸太小屋の壁に据え付けられた鏡に、ナツメの顔が映っていた。凡庸な顔だと思う。特に不細工でもなければ、ハンサムなわけでもない。
ショートボブの黒髪を、綿のタオルでドライしながら、ナツメは小屋にある棚に置いていた洋服に着替える。
白色のシャツに濃紺のズボン。腰に牛革のベルトを巻く。ベルトの左大腿部には、十字型の短剣を収めた鞘。
右足側には、黒金のように鈍く光る、リボルバー式の銃が入った、ホルスターが取り付けられていた。
リボルバーの銃身には、華美な紋様が施されており、グリップには獅子の顔が刻まれてる。
ナツメは、なめし皮を三重にした頑丈なブーツを履いた後、オリーブ色のケープを羽織る。首には革紐のネックレスがかかっていた。
ネックレスには宝箱のデザインが刻まれた、円形のペンダントがついている。
このペンダントこそ、トレジャーハンターであることを証明するものだった。