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7

 空に悠然《ゆうぜん》と光輝《こうき》する月が湖面に映し出されている。風がそよそよとミアの外套を揺らす。

 彼女は、村で一番高く隆起した小島にいた。

 前回、フライスネークとの戦闘で小島に建てられた木造の小屋は破壊され、見るも無残な状態だ。

 きっと、ここに住んでいた住民は「ミアのせいで、とばっちりを受けて家を失った!」と村中の人間に言いふらしているだろう。

 だが、そんな雑言などどうだっていい。今日で、それも終わるのだから。

 ミアはニーベルングの指輪から、無数の呪符が吊り下げられた糸を湖面に向かって放った。そして右手の人差し、中指を立て「滅!」と叫ぶ。糸に吊り下げられた呪符が一斉に爆発し、湖面に激しい水飛沫《みずしぶき》を発生させた。

「こい、私はここにいるぞ!決着をつけてやる!!」

 ミアは小さな体から想像もつかないほどの声量ある声をあげる。数秒か、数分か、彼女は湖面を凝視していた。

 やがて湖に波紋が生まれ、大きな泡を立て始めた。

 ミアは、湖に放っていた人差し指の糸を収縮させ、元に戻すと臨戦態勢をとる。

 直後、湖面が爆発したかのように水滴が飛び散り、巨体をくねらせながらフライスネークがその姿を現した。

 大蛇は脇目も振らず、ミアのいる小島に突進する。

 ミアは糸を隣の小島にある木樹《もくじゅ》に放つ。そして糸を巻き上げながら、自身を隣島へと移動させた。

 ——フライスネークは強靭な外皮で守られている。外側から攻撃しても致命傷を与えるのは不可能だろう。だったら内側から攻撃すればいい。チャンスは一度きり。しくじる訳にはいかない。

 ミアは隣島の大地からフライスネークを睨みつけた。

「さあ、こい!私は、逃げも隠れもしない!私を食えるものなら食ってみろ!」

 言葉が理解できたのか、定かでは無いが、大蛇は「ギョエアアアアアア!」と耳障りな雄叫びをあげて返した。そして空中でとぐろを巻いた後、鈍く光る鋭い牙を剥き出しミアに向かって一直線に向かってくる。

「そうだ!私を食いたいなら食え!」

 ——そうだ、外からの攻撃がダメなら内側から呪符付きの糸を叩き込む。自分が奴に喰われようとも、相打ちは覚悟の上。寧《むし》ろ、本望だ。彼女は左手に力を込め、糸を打ち出すタイミングを計る。

 だが——ミアの予想していなかった自体が起きた。フライスネークが口から赤黒く長い舌を伸ばし、彼女の体を縛り上げたのだ。

「——なっ!?」

 ミアの思考が刹那《せつな》、停止した。生暖かく強烈な悪臭を放つ大蛇の舌が、彼女の体を拘束《こうそく》する。

 ニーベルングの指輪を発動しようとするが、大蛇の舌に締め付けられ指一本動かせない。

「く、そ……くそ!」

 ミアは憎悪に燃えた瞳をフライスネークに向ける。このまま、私はアイツに喰われるのか?刺し違えることも出来ずに?

 彼女はこれまでフライスネークへの復讐を唯一の生きる理由としてきた。それが叶わない——という想いが過ぎった時、彼女の両目から、自然と涙が流れて落ちていた。

「お爺ちゃん……お婆ちゃん……ごめんなさい。私……しくじったみたい。仇《かたき》討てなかったよ。本当に、ごめんね……」

 大蛇は、ミアの心境などお構いなしに、舌を伸縮させ口元に運んでいく。ミアは瞳を閉じた。


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