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空に悠然と光輝する月が湖面に映し出されている。風がそよそよとミアの外套を揺らす。
彼女は、村で一番高く隆起した小島にいた。
前回、フライスネークとの戦闘で小島に建てられた木造の小屋は破壊され、見るも無残な状態だ。
きっと、ここに住んでいた住民は「ミアのせいで、とばっちりを受けて家を失った!」と村中の人間に言いふらしているだろう。
だが、そんな雑言などどうだっていい。今日で、それも終わるのだから。
ミアはニーベルングの指輪から、無数の呪符が吊り下げられた糸を湖面に向かって放った。そして右手の人差し、中指を立て「滅!」と叫ぶ。糸に吊り下げられた呪符が一斉に爆発し、湖面に激しい水飛沫を発生させた。
「こい、私はここにいるぞ!決着をつけてやる!!」
ミアは小さな体から想像もつかないほどの声量ある声をあげる。数秒か、数分か、彼女は湖面を凝視していた。
やがて湖に波紋が生まれ、大きな泡を立て始めた。
ミアは、湖に放っていた人差し指の糸を収縮させ、元に戻すと臨戦態勢をとる。
直後、湖面が爆発したかのように水滴が飛び散り、巨体をくねらせながらフライスネークがその姿を現した。
大蛇は脇目も振らず、ミアのいる小島に突進する。
ミアは糸を隣の小島にある木樹に放つ。そして糸を巻き上げながら、自身を隣島へと移動させた。
——フライスネークは強靭な外皮で守られている。外側から攻撃しても致命傷を与えるのは不可能だろう。だったら内側から攻撃すればいい。チャンスは一度きり。しくじる訳にはいかない。
ミアは隣島の大地からフライスネークを睨みつけた。
「さあ、こい!私は、逃げも隠れもしない!私を食えるものなら食ってみろ!」
言葉が理解できたのか、定かでは無いが、大蛇は「ギョエアアアアアア!」と耳障りな雄叫びをあげて返した。そして空中でとぐろを巻いた後、鈍く光る鋭い牙を剥き出しミアに向かって一直線に向かってくる。
「そうだ!私を食いたいなら食え!」
——そうだ、外からの攻撃がダメなら内側から呪符付きの糸を叩き込む。自分が奴に喰われようとも、相打ちは覚悟の上。寧ろ、本望だ。彼女は左手に力を込め、糸を打ち出すタイミングを計る。
だが——ミアの予想していなかった自体が起きた。フライスネークが口から赤黒く長い舌を伸ばし、彼女の体を縛り上げたのだ。
「——なっ!?」
ミアの思考が刹那、停止した。生暖かく強烈な悪臭を放つ大蛇の舌が、彼女の体を拘束する。
ニーベルングの指輪を発動しようとするが、大蛇の舌に締め付けられ指一本動かせない。
「く、そ……くそ!」
ミアは憎悪に燃えた瞳をフライスネークに向ける。このまま、私はアイツに喰われるのか?刺し違えることも出来ずに?
彼女はこれまでフライスネークへの復讐を唯一の生きる理由としてきた。それが叶わない——という想いが過ぎった時、彼女の両目から、自然と涙が流れて落ちていた。
「お爺ちゃん……お婆ちゃん……ごめんなさい。私……しくじったみたい。仇討てなかったよ。本当に、ごめんね……」
大蛇は、ミアの心境などお構いなしに、舌を伸縮させ口元に運んでいく。ミアは瞳を閉じた。




