2
表面はガラスで、背面は金属のような材質で出来ている。ガラス面の下に丸いボタンが付いていたので、押してみるとカチカチと音がした。
「それって、もしかしてオーパーツかな?」
キャロルが瞳を輝かせながら、ナツメに問いかける。
彼女の言うオーパーツとは、トレジャーハンター用語で『お宝』を指す。
または『謎の古代遺物』のことをオーパーツといったりもするが、キャロルが見つけた、この遺物が果たしてそうなのかは、ナツメにも判断しかねた。それでも、収穫には違いない。
「遺物管理所で鑑定してもらわないと、何ともいえないけど……いずれにせよ、出来したぞ。キャロ」
ナツメは彼女に向かって賛辞を送る。キャロルは嬉しそうに、満面の笑みを浮かべながら尻尾をぶんぶんと振った。
——そう、いつの間にか彼女のお尻付近から、綿のスカートをなびかせフサフサした《《茶色い犬の尻尾がのびて》》いた。
頭頂部から、同じく犬の耳が、絹糸の髪をかいくぐって顔を覗かせている。
キャロルは、いわば人間と犬のハーフ的な存在だった。そうした動物や別の生き物が混ざった人間のことを、人々は通称『異人種』と呼んだ。
「ナッちゃんに褒められると、ボク。照れちゃうよ!」
彼女は余程嬉しかったのか、その場でしばらく小躍りしていたが、ナツメが持っていた先ほどの遺物に、目を止め「あっ!」と叫んだ。
「どうした?」
「その遺物さ、果物みたいな絵が描かれてるよ」
「果物?」
ナツメは手に持っていた遺物を眺めた。
言われてみれば確かに、ガラス面の裏側に果物っぽい模様のロゴが刻印されている。
「それってもしかして、レモンかな?うーん……いや、違う。あ、分かった!ツチリンゴだ!」
キャロルは、自信満々に言い放った。
「いや……レモンはともかくツチリンゴは違うだろ。あれ、長細いからな」
ツチリンゴというのは、パラメリア王国の特産品でもある野菜だ。木の根っこに実をつける事から、その名前で呼ばれる所以となった。
見た目はゴボウと大根を、足して二で割った感じだ。味は淡白で少し苦いが、栄養価は高いとされる。
以前、キャロルが「お腹が空いた」とツチリンゴの木の根元を素手で掘り返して採っていたのを、ふと思い出した。
「そっかぁ……まぁ、何でもいいや」
キャロルは特に固執することなくナツメに遺物を手渡す。
正体不明の遺物をナツメは布袋に入れた後、自前のリュックサックにしまった。ついでに懐中時計を見る。
——もうすぐ、遺跡管理官が見回りに来る頃合いか。
洞窟内での長時間の作業は、酸欠を引き起こす危険があるため、定期的に遺跡管理の担当者が巡回しにくるのだ。