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「アイツは、あれぐらいのダメージでは倒せません。きっとすぐに……」
案の定、湖が大きくうねり波紋を作ると、フライスネークが勢いよく湖面から飛び出してきた。
「げ!また出てきた!」
キャロルの顔が青ざめる。フライスネークは彼女たちが居る小島まで上昇すると、獲物を狩るような視線をキャロルに突き刺す。
ミアはすぐさま、キャロルを守るように前方に移動しながら、左手を掲げた。
「キャロルさん、こいつは私が仕留めます。あなたは早くこの場所から退避して下さい」
「退避なんかするわけないじゃん!ミアちゃん一人じゃ、あんなバケモン倒せっこないよ!」
二人の押し問答を遮るように、銃声が辺りに鳴り響いた。ナツメが少し離れた小島からライフルを構えている。
「キャロ!大丈夫か?」
ナツメは声を張り上げた。
「お兄ちゃん!」
ミアは大きな瞳を瞬かせ、黙ってその様子を眺めている。
ナツメはフライスネークの胴体に狙いを定め、ボトルアクションのライフルを撃つ。
しかし銃弾は、フライスネークの鱗にやすやすと弾かれた。
「くそ!通じないか……」
ナツメは橋を渡りここに着く途中、キャロルが右ストレートをあの異形種に打ち込むのを視認していた。
だが奴を見る限り、ほとんどダメージらしきものを受けていない。フライスネークの表皮は、並大抵の硬さではないという証拠だ。
俺の銃など、撃っても無意味だろう。しかし銃が通用しなくても、奴の注意をこちらに向けることは出来るかもしれない。
ナツメはライフルの弾を込め直し、銃口を再びフライスネークに向ける。
しかしナツメは引き金を引かなかった。フライスネークの胴体に、護符のような札が巻きついていたからだ。
ミアが指輪から札を吊り下げた糸を放出し、異形種を拘束している。
札には、何かの術式の様な模様が描かれていた。
「これで——最後!」
ミアは右手を胸元に持ってくると、人差しと中指を立て「滅!」と唱えた。途端に糸に吊り下げられた札が一斉に起爆する。
激しい煙が立ち込め、フライスネークの姿が見えなくなる。
「ミアちゃん、凄いじゃん!」
キャロルはミアの技に感心したのか歓声をあげた。ミアは横目でキャロルを見ながら、どう反応したら良いのか分からず沈黙している。
ナツメもキャロルと同意見だった。あそこまで宝具を使いこなせるなんて。




