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「覚悟しろ!」
ミアは懐に忍ばせていた短刀を、フライスネークの眼に突き立てた。
——やった!と彼女が思った矢先、ダガーの切っ先が砕け散る。フライスネークの瞼にある鱗に弾かれたのだ。
この異形種の外皮は鋼鉄よりも硬く、並みの銃剣では歯が立たないことをミアは知っていた。
だからこそ、唯一の弱点である奴の瞳を狙ったのに——。
ミアは歯ぎしりする。
彼女の目論見を察したのか、フライスネークはミアを振り落とそうと、空中を激しく旋回し始めた。
ミアは激しい風圧に耐えながら、フライスネークの口を括り付けた糸で、必死にしがみついている。
「ミアちゃん!」
私の名を呼ぶ声が、風に乗って鼓膜に響いた。ミアが目をやると、小島の橋を省略しながら、こちらに飛び跳ねてくる女性が見えた。
「あの人は……」
確か今朝、私が村人にちょっかいを出されている所を助けてくれた美しい女の人。
キャロルは長く絹糸のような亜麻色の髪とスカートをなびかせ、ぐんぐん自分とフライスネークとの距離を縮めてくる。
「——助っ人参上ぉ!そして喰らえ!彗星の一撃!!」
キャロルは常人を遥かに超えた脚力で、数十メートルの高さまで飛ぶと、フライスネークの胴体に右ストレートをぶち込んだ。
「ギエアアアアァァッ!」
フライスネークは吼えたきり、身をよじらすと湖面に向かって落下し始めた。ミアは突然の事態に困惑していた。
——この人の動き、それにさっきの攻撃はどう考えても普通の人間には出来ない所業だ。
もしかして、この人も私と同じ『宝具』の使い手なのだろうか?
ミアの思考を遮るように、キャロルが「——やばい!落ちる!」と悲鳴をあげた。ミアはフライスネークの口を縛った糸を解くと、胴体の上を駆け抜けキャロルの身体を抱き抱えた。
そして指輪から糸を放ち、小島の岩壁に打ち込む。ミアはキャロルを抱きかかえたまま、小島の陸地に降り立った。
フライスネークは、大きな水しぶきと音を轟かせ、湖に落ちていった。
「あの……。大丈夫ですか?」
私は困惑した表情を浮かべながら、キャロルに声をかけた。
「ミアちゃん、助けてくれたんだね!ありがとう!」
キャロルはいきなりミアを強く抱きしめて、頬ずりし始めた。
「ふにゃ!?」
ミアは小さく悲鳴を上げたが、キャロルは一向に離れる様子がない。
「ねぇ、ミアちゃんの左手の指輪って『宝具』なの?凄いね!なんか糸みたいなの出して、飛び跳ねてたじゃん!」
キャロルは親しげにミアに笑いかける。
「え……?あ……。は、はい。い、一応……」
ミアは紅潮しながら、か細く呟く。
「やっぱり!そうだと思った!何を隠そう、僕も宝具使いなんだよね。ほら、この首につけてるチョーカーがそうなんだ」
キャロルは誇らしげに、人差し指を自身の首に指し示した。
そして「ミアの宝具って指輪型なんだね。綺麗な装飾!」と勝手にミアの左手をさすり出した。
「あ……あの、キャロル……さん?えっと、あの」
「どうしたの?ミアちゃん」
「いえ……ここはとても危険です。早く……離れた方が、いいです」
ミアの声は小鳥の囀りのように美しかったが、如何せんか細い。
「大丈夫だよ!あのフライドチキンとかいう異形種は、僕の彗星の一撃で沈めたから!」
——フライスネークですよね、と私は内心で突っ込んだ。




