ナツメとキャロ 1
陰鬱な暗闇。湿度の高さで、そこかしこの岩にコケがびっしり生えている。松明の光で僅かに灯された洞窟内に、ツルハシの音が鳴り響いた。
「ナツメ!ナツメー!見て、これー!」
振り返ると、亜麻色の髪を腰丈に伸ばした少女が、こちらに向かって手を振っている。
「キャロル。何か見つけたのか?」
ナツメと呼ばれた少年は手に持っていたツルハシを地面に置き、少女に近づいて行く。
「うん、これきっとレア物だよ!僕の目に狂いはない!」
キャロルは白骨化した頭蓋骨をナツメの眼前にかかげた。
「うぎゃああああ!」
ナツメが悲鳴を上げた。
叫声が薄暗い洞窟内に反響する。
「ナッちゃん。どうしたの?」
キャロルは大きくぱっちりした淡褐色の瞳をまばたかせ、不思議そうにナツメを見つめた。
「どうしたの?じゃねーよ。お前……それ、人骨だから!」
「人骨?」
彼女は首を傾げながら、手のひらに乗せた髑髏を、しげしげと眺める。
「いいから貸せ!!」
ナツメはキャロルから髑髏をひったくると、地面に置き、手を合わせ拝み始めた。
「このたびは、ウチのバカ妹がご無礼を致しました!どうかお許しください。お願いですから、呪わないで下さいぃ!」
その様子を横で見ていたキャロルが、お腹を抱えて笑い出した。
「お兄ちゃん、相変わらずビビりだなぁー。そんなの気にしなくて大丈夫だよ」
「べ、別に、怖いとかじゃないよ。死者への最低限の礼儀っていうか——」
ナツメは、バツが悪そうに後頭部をかきながら、キャロルを見据える。
「いいか、キャロ。今日、昼飯食べてから俺たちは、まだ一個もめぼしい遺物を発掘出来てない。ということは、本日は収入ゼロ!このままじゃ、晩飯は抜きになるんだぞ。それでも良いのか?」
キャロルの顔から、一斉に血の気が引くのが見て取れた。
「やだ!絶対にヤダ!!」
「だろ?だったら夕刻までに一つでも多く、金目になる遺物を発掘するんだ」
ナツメの放った『晩飯抜き』ワードが余程こたえたのか、キャロルは目の色を変えてツルハシを振るい始めた。
現金な奴だなと、ナツメは苦笑しながら、自身も作業に戻る。
しばらくの間、二人の間に沈黙が流れる。——が、それも三十分と持たなかった。
「ねぇ、ナッちゃん。ナッちゃん!」
——今度は何だよ。ナツメは少しゲンナリした気分に陥る。
「キャロ。次もまた人骨だったら、俺、マジに怒るからな」
そう言いながら再度、ナツメはキャロルの元へ寄って行った。
「違うよ!ほら、これ」
キャロルが泥にまみれた、長方形の物体をかかげる。
手のひらサイズの物体をキャロルから受け取ったナツメは、手袋越しに泥をこすり落とす。珍妙な遺物だ。