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雨の日のランニングはいかがですか?

作者: 大橋 秀人

瞬くと、遠くにある分厚い雲の間から、微かに晴れ間が覗いた気がした。


雨は強弱こそあれ、朝から降り続いている。


6月になったら必ず週1で走るって決めたんだ。


これまではなんとかそのペースを守っていた。


でも、第三週。


梅雨が本格化し、週の大半が雨降りだった。


実際はリミットの今日まで、降らなかった日もあった。


そんな日は仕事が忙しかったり、お誘いがあったり、気分が乗らなかったりで、なんやかや走らなかった。


今日は休みだし、走れると思っていた。


でも雨だしなー。


でも、一週間目だしなー。


雨強いしなー。


と、しばらく俊巡している時に限って雨は弱まったりした。


今日がリミットだから。


思い切ってスパッツを履き準備運動をしていると、また雨足は早くなる。


降ってきたな。


アキレス腱を伸ばしながら窓外を眺めては途方に暮れる。


空は一面雲に覆われていたが、遠くは案外、明るかったりする。


とりあえず外に出ようと、帽子をかぶり、イヤホンを付ける。


ドアを開けたら、勢いで雨の中を歩き出した。


雨は思いの外、感じられない。


走り出すと、さらに雨の気配は薄まる。


それより、体が使われる喜びが軋みを伴い沸き上がってきた。


息が上がると、息をしていると確認できる。


拳を握り絞めたり、腹筋に力を込めたり、足を慎重に上げたりして、色んなことを確認しながら走る。


大きな河に掛かる橋を渡る。


水の流れは雨で増量している。


木々はじっとりと濡れ、垂れかかっている。


まとわりつく空気を胸一杯吸い込んで走る。


疲れては速度を落とし、イヤホンから新しい曲が流れてくると、そのリズムに歩幅を合わせられるか試みた。


そんなことを繰り返すうちに、景色は巡り、スタート地点に戻ってくる。


いつの間にかウィンドブレーカーはずぶ濡れになっていたが、体は熱く、かえって雨が心地良い。


音楽を止めると、激しくなった自分の息づかいが聞こえてくる。


ひどく静かで、体の中心に音が吸い込まれていく。


歩みを緩め、気付くと晴れ間が頭上にあった。


眩しくて目を細める。


そしてイヤホンをそっとはずすと、一気に雨音が耳に飛び込んできた。


これまで遮断されていた世界が、一気に開かれたようだった。


これ、良いかもーーー。


雨の日のランニングに味を占めた瞬間だった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公と一緒に走っているような気分でした。 ダイレクトに伝わってくる描写がとてもよかったです。 [一言] いろいろと理由をつけて先延ばしにしてしまう気持ち、よくわかります(笑) でもいざ行…
2019/06/28 15:03 退会済み
管理
[良い点] さわやかな文体が気持ちよかったです。雨の日はだるくなりますが、外に行きたくなりました。
感想一覧
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