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夢見客人飛翔剣  作者: 解田明
宵の影
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夜更けて乱迫り

「――針一貫がやられたのう」


 妓楼の屋根瓦の上に、腰を下ろした忍者がなんとはなしに呟いた。

 背の小さい老人である。

 忍び装束さえ纏っておらねば、目を細めた好々爺といった風にも見える

 しかしまた、この老人も逆卍党忍群のひとり。

 名を、佐取明玄(さとり みょうげん)という。


「明玄翁の見立通りか。一貫め、おのれの忍法を過信しおって」


 その呟きに答えたのは、糸巻随軒である。

 逆卍党頭目、榊世槃からの命を受け、千鶴姫の身柄を抑えるために手勢を率いてやってきたのだ。

 吉原は、夜ともなると外界から遮断される構造である。ここに千鶴姫を匿った夢見客人という浪人は、やはり只者ではない。

 暇人長屋なる長屋に差し向けられた滅法衆三〇人も返り討ちとなっている。

 ゆえに、尋常ならざる忍法を体得した針一貫、糸巻随軒、佐取明玄の三忍が選ばれ、下忍を率いて吉原に襲撃を仕掛けた。

 しかし、針一貫は、おのれの忍法に叶う敵なしと慢心し、策を講じようとする明玄たちに先んじて千鶴姫を追った。そして死んだ。

 佐取明玄は、直後にその死を()()()

 実際に、針一貫の死の光景をその目で見たわけではない。

 塀で仕切られた吉原の中での範囲であれば、見ずして何が起こったのかを悟ることができる。明玄は、そういう忍法を体得している。


「夢見客人とやらの佩刀が、まことにあのお世継ぎ殺しの村正であれば、なんとしても手に入れたいところじゃて」

「いかにも。公儀も目をつけておるゆえ、わしらの手でご党首に差し上げねばな」


 その佩刀、お世継ぎ殺し村正――。

 柳生の刺客たちも目的とした、切れ味抜群なる妖刀。

 その一振りを、何故幕府の目付役を務める柳生が狙うのか? また、柳生の動きを伊賀忍者でもって監視する土井大炊頭の思惑は何か?

 そしてまた、逆卍党も謎をはらんだ夢見客人が持つ妖刀の争奪戦に加わったのである。


「ふうむ、下忍どももやられたようじゃ。いやいや、聞きしに勝る腕前じゃわい」

「如何にする、明玄翁? わしとともに夢見客人に当たるか」

「いいや、そうも言っておられぬようじゃ。遊里に乗り込む忍びが二〇、それと二本差しの武士がひとり……」

「ほほう、公儀の犬どもか」


 随軒の胸に呼び起こされた感情は、名づけるとしたら歓喜であろう。

 身も心も非人間的な随軒であるが、徳川幕府に対する憎悪は唯一人間らしいものと言えるだろう。

 その憎悪は、殺意へと変わって歓喜へと転じる。

 幕府の者が関わるときのみ、気が(はや)る。


「おそらくはのう。彼奴(きゃつ)らの狙いも、お世継ぎ殺しじゃ」

「ならば、そちらはわしに食い止めさせてもらいたい。翁には、夢見客人と千鶴姫を任せよう」

「そうじゃな。徳川ゆかりの者となればおぬしも殺し尽くしの甲斐もあろう。それに――」


 佐取明玄が細い目をさらに細めて言う。

 好好爺然とした老人忍者に、ひどく冷たいものが宿った。


「お世継ぎ殺し村正と夢見客人には、わしも用があるでのう」

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