ゆりんぐ・りらっくす・きっちん
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「……本当にすみません」
妹の頭を下げさせて、私、倉田邑はそれ以上に頭を深く下げる。
「……もういいわ。邑ちゃんの声も、さすがに聞き飽きちゃった」
「本当にすみません」
「……あんまり奇声とか出さないようにね。壁が薄いわけじゃないけど、一応マンションなんだから」
ため息の混じった声と連動して、扉が閉まっていく。
その直後、妹の倉田楓に左手を払われた。
「楓、ご近所さんに何度も言われているんだ。もう暴れたりは…………」
「誰がお姉ちゃんの言うことなんて」
「……すまない」
「謝るくらいなら死んでよ。死んで、わたしを楽にしてよ」
「……」
「お姉ちゃんがわたしのお姉ちゃんなせいで、わたしはいっつも比べられる。お姉ちゃんのせいで。お姉ちゃんが出来すぎるせいで。妹の迷惑になってるって、自覚あるの?」
私は、その質問に返答することができなかった。
◆
「倉田さん、コロッケの追加お願いします」
「わかりました」
私は、母の貯金を切り崩しながらスーパーのアルバイトで生活費を稼いでいる。私のせいで元気をなくしてしまった母と特別学級に通っている小学生の妹を養うためには、自分の学校生活を削っていくほかない。まわりに頼み込まれて生徒会に所属しているが、正直に言えばその時間をバイトに充てたいくらいだ。
「コロッケ、できました」
「はーいじゃあ陳列に回しますねー!」
「いやぁさっすが倉田さん。手際いいなぁ」
「俺らおっさんには、このスピードは出せないよ」
「……ありがとうございます」
「妹さん大きくなったら、ぜひこの惣菜コーナーに誘ってほしいね。倉田姉妹でフルスピードになるんじゃないの?」
「さすがにそんなに惣菜作ったら余るだろー」
「そうだな、いっけね。アハハハっ!」
「……それは、本人に聞いてみないと」
妹に惣菜は作れません、なんて言える雰囲気じゃなかった。
「このまま社員になっちゃいなよ」
「ばか、社員になったら現場からいなくなっちゃうだろ。もし倉田さんいなくなったら、厨房はおっさんばっかりになる。こういう紅一点は必要なんだよ」
「紅二点なんじゃが? あたしじゃ不満かねぇ?」
「ババアより若い子の方がいいに決まってるだろ!」
「「「ははははははは!」」」
「………………」
せっかくパートの人が明るく話してくれているのに、私は満足な返事ができない。
「…………まあ、あれだ。大変だろうし、俺らじゃなにもできないけど、バカな話くらいならできるからさ」
「ばか、このタイミングで暗い話してどうすんだよ」
「いっけね。アハハ…………」
「その流れはさっきやったよ、このバカタレジジイ共が。ほれ、さっさとフライの仕込み!」
「「へーい」」
「ごめんねぇ倉田ちゃん。あとでこいつら大人しくさせとくから」
「………………どうも……?」
私が星花女子を卒業してここを辞めるまで、この三人の笑い声が止むことはなかったのだった。