2-3 @ 最初の喪失-ザワザワ
彼らが割と全力で走って「押して」10分ぐらいで原因を見つけた。
林の木々が生い茂っているところにさっきの王国の軍団が止まっていた。ただ止まっているだけなのだが、明らかにざわついている。
軍中の人が冷めきったような顔をしてザワザワ、
「はぁ、はぁ、どうしただべさ。ぜーぜー」
おじいさんが上がっている息を混ぜながら1人の兵士にたずねた。
「どうやら、バリオンリンス様の馬車が襲撃を受けて、バリオンリンス様が大けがを負ったらしいのだ。」
「おい、そんなこと一般人に行っていいのか。」
「いいんじゃね、どうせ、こんな話すぐに広まるだろうし。」
兵士間での動揺もかなりのものであるらしく、情報の統制も取れていない。
「その馬車はどこかわかっぺか。」
「あっちのほうだけど……」
「あんがとな。ヒデオ、いくべ」
「え、ちょっと」
おじいさんはヒデオの腕を引っ張ってそのほうへ進んでいく。
「あっ、おい、おじいさん。かってに行くなよって、聞いていないな…」
もちろんおじいさんは兵士のそんな声なんて聞いていない。
進んでいくヒデオたちの前にひときわ大きな馬車を見つけた。ただ、さっきヒデオが見た時より穴があいていて汚れもついており、同じものとは到底思えないほどである。
「ちょっとあなた、誰ですか。止まってください。ここは王国の一群の一隊ですよ。」
「うるせんだべ、ここは通さんか。負傷者がいんじゃろ。」
おじいさんは見かけに反して、すごい力の持ち主である。
止めにかかる兵士を次々とどかして前に進んでいく。
そして進んでいって横たわって苦しそうな表情を浮かべている人の前で止まる。
「あんたが、バリオンリンス様だべな。おらは医者だ。ちょっと見せてもらうべ」
「はぁぁ、はぁぁ、うっ!?…はぁ、はぁ」
バリオンリンスは苦しんでいる。息をするのもやっと、時々息を詰まらせては戻してしまいそうだ。
「こりゃひどい、矢が刺さっているだけならどにかこにかなんども、体中に毒が回っているべ。たぶん傷から侵入してんべ」
おじいさんはバリオンリンスに刺さっている矢に手をかけた。
「なにをするんですか?」
「こうするんじゃけん」
「グハッ!!!!」
刺さっていた2本の矢を勢いよく抜き去った。
それと同時にバリオンリンスは悲鳴とも聞こえる叫びをあげる。
「貴様何をしている!?バリオンリンス様を殺すつもりか!」
「そんなつもりはあんません。この矢を抜かんとこの矢にかけられた魔法でこの人の命が削られるだけだべ。それを抜いてやっただけだべ。
バリオンリンス様、あと少しじゃけん我慢してんくんべ。
あとは毒をどうにかすだけだけども…これしかねぇべ。」
そう言って、バリオンリンスの体の前にかざす。
「なにをしているのだろうか?」彼はそんな心境であった。だが、そんな気持ちをおじいさんが知るわけもなく、何かを唱え始めた。
「アブラカタブラ、・?><*」!“#$~」
最初のほうは彼も聞き取ることができたが、記憶をなくしている彼にはこれが魔法の呪文だとはわからない。
バリオンリンスの傷口が緑色に発光している。周りで様子を見守っている兵士たちも何が何だか理解できないようである。
「とりあえず あと70分はバリオンリンス様は無事じゃけん、今のうちには設備の整っている病院に急ぐべ、」
おじいさんの言葉などいつもの兵士なら軽く無視していたに違いない。しかし、横たわって
いるバリオンリンスから出血は止まり、
“ス―――、スー――”
寝息のような音が聞こえてくる。苦しそうな表情は寝顔に変わっていた。
「あなたは…一体?」
兵士の一人がそう言ったのだが、
「そんなことはどうでもいいだべ、でも70分後にはこのお方の命の保証ができないけん、急いで連れて行ってくんべ。」
「……っは、助力に感謝する。 バリオンリンス様!?」
バリオンリンスが夢から覚めた。だが、体力は弱り切っていて満足に体を動かすことのできないようだ。
「目が覚めてんだべな、バリオンリンス様や」
「お前は…さっきのヒデオとやらの隣にいた…ご老人。 そうか、…あなたが私を…感謝する。」
「感謝されることなんて何もしてないべ。おらは血を止めて、一時的に魔法の毒の効力を止めているだけだべ。あと70分もしたらまた体中に魔法が回ってしまうけん、急いで設備の整った病院で摘出しなきゃいけねぇ。」
「 そうか、まだ、生かされているのだな。」
それだけ言ってバリオンリンスと彼とおじいさんを載せて、馬車は急いで発進する。なぜ彼もついていくことになったのか、バリオンリンスが彼を見つけて連れて行くようにしたとだけ書いておこう。