6-2 @町で 町喧嘩
場夜が変わって、バリオンリンス邸の近くの町の一角。
そこには若い青年と若いメイドのほかにたくさんの人がいた。
「この町、人かなり多いですね。この国でも栄えているほうなんじゃないですか?」
そう尋ねたのは標準体型の体格に新しくこの国らしい近代風(日本)の角ばったボタン止めのシャツに腕を通した青年だった。
「いえ、そうでもありません。
ただ、明日はこの町にとって年に1回の町の誕生祭に値する”ウヨジンタチマ“の日なんです。なので、それ合わせるように街の外からもこの町の関係者やそうでない人もこの町に集まってきています。
ちなみに、いつもは過疎化が激しくて、こういう日ぐらいしか若者を呼べないので、町の年寄りたちも張り切っているから、こんなに活気があふれているのではないでしょうか。」
彼の質問に対し、ここまで完璧に答えたのは、バリオンリンス邸のメイドであるシャンプトであった。
シャンプトはたびたび町に降りてくる。バリオンリンス邸から町までは馬車で一時間ぐらいの割と距離がある。しかし、バリオンリンス邸に必要なものは、町にしか売っていないものも多いので、こうして町へやってくるのだ。
こんな感じで、町の疑問に思ったことをシャンプトに質問しながら彼らは楽しそうに買い物を続けていった。
その様子を長々と書くのには自信がないので、ここで町について説明しよう。
先ほど述べたとおり、この町は過疎化が激しくいつもは多くの年寄りと少しの若者・こどもしかいない。
この町はこの国でも割と北のほうだが、夏になりかけである今は過ごしやすい街としてこの辺りは避暑地に人気である。
と言いたいが、実際は若者が多い隣町のほうに別荘がたくさん立っており、この町はやはり活気がない。だから、村人一同この誕生祭にかけている。
一年を通して涼しげな気候だが、それが災いしてか作物は夏に育ちきらず、あまり育たない。
そのため、寒さに強くいつまでも頑丈な木質が自慢のガジアルの木材加工品が特産として出回っているが、若者たちはいつ伐り切ってしまうかわからない木材加工品より、近くの町の産業系に行きたいようだ。
さて、そろそろ彼らも買い物を大体終えたようである。
いまは、休憩に町のカフェでbreaktimeだ。
「じゃぁ、この黒い硬貨を4枚そろえれば、一枚の銅製の硬貨と同じ価値があるんですね。」
「そういうことです。なかなか理解がいいですね。」
今はシャンプトが彼にこの世界のお金について教えている。
まだまだこの国の文字も一切わからない彼でも、この世界のお金は理解することができた。
「それじゃ、この銅色の硬貨4枚と銀製の硬貨一枚。銀製の硬貨4枚と金製の硬貨一枚が、同じ価値なんですね。」
「はい!、ヒデオ様は理解するのが早いですね。」
「えへへ、」
シャンプトにヒデオが褒められるのはこれが初めてではないだろうか?
「ヒデオ様、そろそろ帰りましょうか。私の買い物は済みましたし、ヒデオ様のほうは収穫がなかったみたいですし。」
そう、シャンプトの買い物はもちろん終わらせ、そのあとにヒデオは町の人に、夢の中の謎の少女について誰か知っている人はいないか聞いてまわっていた。
しかし、ヒデオが夢の中で見た容姿を伝えるだけでは、誰なのか気づく人がいるわけもなく、どうやら無駄足で終わったようだ。
「そうですね。」
そう言って、ヒデオがカフェの席を立ちあがったとき…。
「お父さんのバカ! 私一人でどうにかする。」
カフェの奥のほうの席でそんな大声が店内に響いた後。
店から出ていこうとした。
ドン、 ガッシャん
肩と肩がぶつかる音がした。
「す、すいません。」
当たったのは、席を立ちあがりかけていたヒデオとその少女であった。
「もう、気を付けてよね。」
少女は不機嫌そうにそう言い、店外に走って出て行った。
そして、ヒデオは気づいた。
「あっ、やばい。」
コーヒー(?)の入っていたカップが地面に砕け散っていた。
不機嫌な少女と肩が当たった時に、落としたようだ。
「大丈夫ですか、ヒデオ様」
シャンプトがヒデオに安否の確認をする。
「俺は大丈夫ですけど、コップが…。やっぱり弁償ですかね、でも俺お金持ってなくて。」
心配そうに割れたコップをヒデオが見つめる。
「お客様、大丈夫ですか? お怪我はありませんか。」
店の人がやってきた。
「すいません、コーヒーのコップ、割っちゃって…」
頭を下げながら、謝罪をする彼。
「いえ、いえ、今回は相手のお客様の不注意が原因でしたので、お客様に責任はありません。安心してお食事をお続けください。」
そう言って、店員が割れたコップを慣れた手つきで片づけ始めた。
「いや、いや、私の娘が申し訳ないことをした。」
店員の様子をションボリしながら見ていたヒデオの頭の上からおじさん声で降りかかってきた。
「あなたは?」
「わたしは、マード・ルサレと申します。先ほど、皆様にご迷惑をかけていることを気にせず出て行ってしまったのが、私の娘のメイ・ルサレです。
娘と言い合いになってしまって、その結果、あなた様に必要のなかった心配をかけさせてしまって、本当に申し訳ございませんでした。」
「いえ、とんでもない。俺のほうこそ注意が足りなかったので。」
ヒデオとマードがお互いに自分の罪を見せ合いながら、どちらが謙遜できるのか勝負を始めてしまった。あぁ~いるよね、謙遜しかしない話の根本がどこか行っちゃった会話の持ち主たち。
「あれ、マードさんではありませんか。」
「おぉー。これはシャンプト様、いつもお世話になっております。」
「こちらこそです。」
今度はシャンプトとマードが話を始めた。
「シャンプトさん、この人と知り合いなんですか?」
「このお方は、この町の町長です。そのため、バリオンリンス様とお会いする機会も多く、私とも面識があったのです。」
シャンプトが説明する。
このマードとかいう、若干横太りの中年っぽい男性は何とこの町の町長だった。
アフロまではいかなくても、くるくると巻いた丸い髪の毛、どちらかといえば黒っぽい肌、この男がこの町の町長のマード・ルサレである。
「シャンプト様、この青年はバリオンリンス様とどんなお関係なのですか?」
今度はその町長からシャンプトに質問が言った。
全くシャンプトさんも疑問の仲介点にさせられて、大変だ。
「ヒデオ様は、今はバリオンリンス様のもとに客人として招かれているお方です。」
「なんと、その若さでバリオンリンス様への使者であるのですか。それは、大変失礼なことをしてしまいました。」
なんか勘違いをしているようだ、けど。
「そういうわけでは…」
「そういうことです。ヒデオ様にご無礼の内容に。」
「は、はー」
シャンプトはまだ幼い女の子のようだ。
「ちょっと、シャンプトさん!どういうことですか?」
ヒデオがシャンプトに小声で問い詰める。
「こっちのほうが、説明が楽ではありませんか。なので、そういうことでよろしくお願いします。」
「ちょっと!」
ヒデオの小声の叫びをシャンプトは知らんぷりするのであった。
「マードさん、失礼でなければ先ほどの言い合いの原因を教えていただけないでしょうか?」
シャンプトが話を切り替えるためにその話題を持ち出した。
「実は、今朝…」
マードが言うことはこういうことらしい。
今朝、家にメイが一人の見慣れない女の子を連れてきた。
メイが言うにはケガをしてるからしばらくの間ルサレ家に泊めてあげたい。
しかし、町長といえども町は過疎化が激しく生活に余裕がないルサレ家ではその子を泊めることもできないから帰ってもらうように言った。
それに怒ったメイがその子を連れてどこかに行ってしまい、その後昼の終わりかけの時にこのカフェで休憩をとっていた私のところにメイが今度は一人で直談判しに来た。
だが、ルサレ家の財政が変わるわけでもないので当然のように断られ・・・
「先ほどのように出て行ったと。」
「そういうことです。お見苦しい話です。」
果たして、メイが連れてきたその見慣れない女のことは誰なのか。ヒデオは知っているのかもしれない、いや、分からないだろう。
「とりあえず、私たちもメイちゃんに説得に行ってみます、いいですよねヒデオ様」
シャンプトがヒデオに確認をとってきた。
「もちろんいいですよ。シャンプトさんさえよければ。」
「ありがとうございます、シャンプト様、ヒデオ様。」
深々と頭を下げるマード。
シャンプトはヒデオに会計をまかせ、ヒデオは先ほど覚えたばかりの知識をフル活用して、レジ打ちさんに協力してもらいながら、会計を済ませたのだった。
そのまま、カフェを後にした。




