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ぼくらの無人島開拓ライフ!  作者: えっくすせりあ。
一章 一週間目
7/12

六話 生活

ぎりぎりセーフ。

 次の日、冒険者組は昨日探索した一層目をもう一度探し回ったが、下り坂付近に、奥に広い空間がある穴が開いていたくらいで、ゴブリンも一匹も見つけられなかった。


 6人は下り坂を下って二層目に来た。


 二層目は、道はいくつも分かれていたが、どこへ行っても大した場所も見つけられず、魔物もゴブリンだけで、一層目とほとんど変わらなかった。


 6人は、変わらずゴブリンの群れと、一歩間違えればたちまち大怪我になる危険な戦いを繰り広げ、それでもいつも無傷だった。


 昨日あまり役に立てなかった球弥と守山だったが、慣れたのか、今日はゴブリンの血や死体を見て気分が悪くなることもあったが、戦闘ではしっかりと活躍した。


 6人は二層目を探索中に三層目へ行けるのであろう下り坂を見つけ、そのまま引き返した。


 嘉山はまた小さな部屋の空間を一人見つけ、光る玉の光を浴びて帰った。




 その頃の生産職の6人。


 今日は、桐原が昨日持ってきた鉄を使って、さらにさまざまな家具作りを。


 野村と羽葉と遠桃が、昨日と同じような家をもう一軒。


 華乃伊は食事係。


 歌海は、華乃伊と建築組と、両方の手伝いが出来るように待機だった。


「ねぇ羽葉ちゃん」


「どうしたの?」


 土台ができ壁を作り始める工程になったあたりで、遠桃が羽葉に話しかけた。


「この無人島でさ、風呂に入ったりってできないのかな?」


「そういえば……」


 羽葉はすっかり忘れていた。


 風呂なんて今まで毎日欠かさず入ってたのに。


 昨日まで身近の危険やこれからの不安でいっぱいだったからかな?


 そういえば昨日の夜は、久しぶりに心から生活が楽しいと思えたかもしれない。


 夕葉ちゃんたちが魔物を倒してくれたし、私たちの体が信じられないくらい俊敏に動いて、一日で立派な家を一軒建てられたし。


 そんなことを考えた羽葉に、気づけば笑みがこぼれていた。


「羽葉ちゃん!」


「なにー?」


「最高神って呼べば反応してくれるかな?」


「え?」


「もし来てくれたら、風呂とかそういうのって作れないのかーって聞いてみたいんだけど……」


「それはわからないけど……。じゃあちょっとやってみよ?」


「えっ?」


「ちょっとうるさいから平原にからちょっと離れた場所でやるけど、一緒に、おーい! 最高神様ーって! って、きっと来てくれるよ!」


「わかった! じゃあ、せーのっ!」


「「かっこいい最高神様ー!」」


「どうしたのかね二人とも!」


 最高神は飛んで自分たちの前に現れた。


 あまりの速さに、二人は顔を合わせてお互い笑い合う。


 最高神は意識だけしかこの異世界ファンタジーワールド来てはいないが、話しやすくするために、最高神本来の見た目を意識がつくり出して2人に見せている。


 そんな最高神が、どうしたんだろうと首をかしげるのを見て、二人はまた笑い出した。


「そんなに笑うでない! 用がないならわしは帰るぞ? わしは忙しいんじゃ」


「あはははっ、あっ! ちょっと待って! 聞きたいことがあるから」


「……なんじゃ?」


 二人の笑いはようやく治まった。


「えっと、最高神さん。この世界に風呂ってつくることが出来ますか?」


「そのぐらいなら建築家はできるぞ?」


「「ほんとに!?」」


「あぁ、木の浴槽なら建築家が簡単に作れるし、金属製のものを作りたいんじゃったら鍛冶師がすぐに作り出せるぞ? お湯は、確か森のどこか入口付近に池があったはずじゃから、そこの水を使うといい」


「池の水って大丈夫なの……」


 遠桃が不安そうな視線を最高神に向ける。


「もちろんじゃ、この世界(ファンタジーワールド)の水は、汚そうとしない限りはすごくキレイじゃからな。多少の汚れなら浄化もしてくれるぞ」


「へぇ……」


「ついでに言うと、池の水も木と同じように取ったらその分湧き出てくるから、枯渇の心配もいらないぞ」


「なるほどー」


 遠桃が関心を示して頷く。


「ねぇ最高神さん。風呂で思い出したんだけど、洗濯とか、あと着替えの服とかも……できればほしいんだよね。それでさ! なんか解決案はない?」


 羽葉がそう最高神に聞いた。


「もちろんあるぞ。洗濯は、手洗いじゃが池の水を使えば石鹸なんかよりも綺麗になる」


「そっか、なるほどー。それでそれで?」


「着替えの服についてじゃが、実は衣類含めて様々なことは建築家でも鍛冶師でも、生産職であればできるんじゃ」


「えー!? そうなの!?」


「建築家だったら木を、鍛冶師だったら金属を持って、道具や家具を作るときみたいに頭の中でイメージすると、それが作れるようになるぞ」


「へー」


 羽葉が最高神の話に耳を傾けている間に、遠桃が木を持ってきた。


「遠桃さん準備早!」


「ふっふっふ、見ててね羽葉ちゃん!」


 そういうと遠桃は、木を両手に持ちながらしばらく目を瞑った。


 やがて、


「できたぁ!」


 遠桃の両手には、メイド服があった。


「それ!? 遠桃さんそんなにメイド喫茶やりたかったの?」


「ふっふっふー。メイド喫茶はやりたかったけど、今回作ったこれは私用じゃないよ」


「え?」


「よく見なさいこのメイド服を! 私にしては小さ過ぎるでしょ!」


「あぁ……なんかごめんね? 言わせちゃって……」


「謝るんじゃない! ……ふふふ、羽葉ちゃんまだ気づいていないようね?」


「え?」


「この服……着るのはあなたよ羽葉ちゃん!」


「えーー!?」


「さぁ、早く! 早く着るのよ羽葉ちゃん!」


「いやぁ、今はほら、皆家作りとかいろいろ頑張ってるから」


「すぐ終わるから!」


「いやでも、今は最高神もいるか……ら……」


 ふと最高神を見ると、最高神は体を舐め回すような無遠慮な視線を羽葉に向けていた。


「きゃあっ!」


 羽葉は思わず飛び退り、頰を紅潮させながら両手で胸を隠す。


 その反応を見てようやく、最高神は無意識に無遠慮な視線を羽葉に向けていたことに気がつく。


「おっと、これはすまないの」


「…………仕事離れ過ぎてたし、野村くんのところに戻ってるね」


 一応の謝罪は取ったつもりの最高神だったが、羽葉はすぐに遠くへ行ってしまった。


「あーあ。最高神さんそれはさすがにダメだよー」


「まぁ、あんな無遠慮な視線をあの人に向けていたわしが……」


「いやいやそうじゃなくてさ、まぁ確かにそれもダメだったよ? でもさ、そのあとの謝罪、あんな言葉でそう簡単に許してもらえるわけないじゃん?」


「むぅ、なるほど」


「最高神さんってさ、よく知ってるわけじゃないけど結構自分のことばかりだからね? もうちょっと相手の立場になって考えてみなよ」


「なるほど、良いことを聞いた。ありがとう」


「いやいや、最高神っていう凄い名前持ってるくらいなら、もうちょっとしっかりしてよね?」


「ははは、まだ新米だからね、でも頑張るからの」


「うん! 頑張ってねー」


 遠桃がふと気づいて辺りを見回したが、そこに最高神はいなかった。




 羽葉が平原に戻ると、野村一人だったがなんとか仕事を続けていてくれていたみたいで、壁が少し出来上がってきていた。


「野村くんごめんねー? 一人でやらせちゃって……」


「ん? 別にそれは構わないけど、唯那となんの話ししてたの?」


「うーん……秘密!」


「へー? 秘密の内容は……まあどうせ教えてくれないしいいか」


「そうしてくれるとありがたいかな……」


「みんなー! うどん出来たでー!」


 話をしていた二人の耳をに、そんな声が届く。


 見れば、鍋を持った華乃伊が、昨日建てた家の中から現れていた。


 その鍋の中には、うどんが入っていた。


 それを見て、いつの間にか戻ってきていた遠桃が華乃伊に問う。


「ねぇ杏菜ちゃん?」


「どうしたん唯那?」


「うどんの小麦粉ってどうしたの?」


「作った」


「え!?」


「なんかな、最高神に小麦粉が欲しいー言ったら、森の中に小麦が生えてる場所があるー言うてな? それで小麦を見つけて採って、そこから生産職の力を使って小麦粉を作ったんや」


「あぁ、なるほど」


 先ほど似たような行動を取っていた遠桃は、なんとなくその場の様子が頭で再現出来た。


 鍋にあったはずのうどんはすぐに消えた。


「かあー、食った食ったー! っとぉ、それじゃあ午後も頑張りますか!」


「「「おー!」」」


 野村の言葉に皆が反応し、午後の行動に移ろうとしたが、そこに、少し小さな、弱々しい声が響く。


「あの! みなさん!」


「ん? どうしたの歌海さん?」


「あの……みんなで、歌を……歌いませんか?」


「え?」

「急にどうしたの翠ちゃん?」


 歌海の途切れ途切れのその言葉に、その場にいる誰もが驚きのこえをあげた。


「あの、みんな忙しいし、今魔物と戦っている人たちには、悪いかもなんですけど」


「昨日、二日目のここでの生活を過ごして、初めてここでの生活が楽しいって思えて、今日も、私は大したことはしていないけれど、みんなが頑張っているのを見て、すごくいい気分になったんです」


「それで、楽しいなって考えてたら、急に歌を歌いたくなって……」


 普段ほとんど話すことのない歌海が、ここまで一度にたくさん言葉を発するのは初めてだった。


「あの……、ダメ……ですか……?」


皆、初めてここまで自分のことを話す歌海にしばらく驚いていたが、


「そんなのいいに決まってるだろ!」

「いいじゃんいいじゃん! 私も折角だし歌いたい!」

「せっかくだったらここじゃなくて砂浜の方に行って歌わない?」


 皆歌海に反対することなく、歌海の意見を快く受け入れた。


 その日から、食後に砂浜で歌を歌うことが生産組6人の日課になった。


 皆、歌を歌うときは笑顔だった。

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