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ぼくらの無人島開拓ライフ!  作者: えっくすせりあ。
一章 一週間目
6/12

五話 ダンジョン

今更ですが、島と言ってもかなり広いです。王都と呼べるような大きな建物を造れるほどの広さをもつ平原と、それより少し狭いぐらいの森が島にはあります。

 やって来たゴブリンは、その素早さと体の小ささに似合わぬ鎧と、自分たちのものよりも遥かに鋭利な剣で襲ってきた。


 近づかれる前に一発放った嘉山の矢が、運良くゴブリンのうちの一匹に上手く刺さり倒れたが、そのうちに三匹が前衛職の四人に近づく。


「俺と雅人が一匹づつ引き付けるから! 先生と楽宮は一体を片付けてくれ!」


「おっけー」

「……」


「先生?」


 守山からの返事が無いことを不審に思い振り向けば、守山は足を震えさせ、がくがくとなっていた。


「くそ!」


 守山が自分の後ろ付近にいた魁人は、数歩前に出て守山から離れたところでゴブリンを構えた。


 その直後やって来たゴブリンは、猛スピードのダッシュから大きくジャンプし、その鋭利な剣を上から振りかぶり、魁人はそれに上手く剣を合わせる。


 魁人のおおよそ半分くらいの大きさだが、勢いだったり、剣の鋭さだったり、そして何よりゴブリンの圧倒的な力の強さで、初撃から魁人は劣勢だった。


 サバイバル部でナイフを使いこなしていた魁人は、たとえ剣だとしても目の前の魔物にやられることは無いだろうと考えていた。


 しかし、その考えはすぐに無くなった。


 単純な力の強さはお互い五分五分だったが、ゴブリンはその上体の小ささと素早さがあった。


 ゴブリンが魁人の周囲をぐるぐる回り、少しでも油断を見せた隙に素早く近づき剣を振りかぶる。


 魁人はもう、自分の戦いの、それも守ることだけで手いっぱいだった。


 やがて、同じことしかしてきていないことに気が付いた魁人は、気を抜いたふりをし、近づいたゴブリンの強烈な一撃を紙一重でかわし、ゴブリンの背後に剣を振る。


 これで一体目だと心の中で叫んだ魁人だったが、その期待はすぐに裏切られる。


キンッ!


「なっ!?」


 魁人の剣が、構える時間が無く速さが足りなかったせいだろうか。


 ゴブリンの鎧をうまくとらえた魁人の剣は、しかしゴブリンの鎧に弾き返されてしまった。


 魁人が態勢を崩している間に、ゴブリンは次の攻撃態勢に入る。


「こうなったら……!」


 もう一度気を抜いたふりをし襲ってきたゴブリンに、今度は真正面から剣を突き出した。


 魁人の剣は上手くゴブリンを貫き、しかしゴブリンの剣は長さが足りずに魁人のもとまでは届かなかったようだった。


 斜め上に突き上げられているゴブリンから血が流れ、剣を伝っていく。


 魁人は、剣を勢いよくふり、ゴブリンを剣から投げ飛ばした。


「まずは一体目!」


 ようやく周囲に視線を巡らせた魁人は、まだみんな大きな被害を受けていないようで少し安堵する。


 徳海は、魁人と同じく防戦一方に見えるが、しかしゴブリンの攻撃を上手くかわしていた。


 楽宮は、ところどころ隙を見せてゴブリンにやられかけていたが、そのぎりぎりで嘉山の放った矢が鎧にあたり、弾かれはするがゴブリンは態勢を崩し、楽宮を仕留め損ねていた。


 魁人は、まず近くにいた楽宮のもとへとダッシュで近づき、三対一の状況にした。




 それからの展開は早く、魁人が加わったことで人数の差で上手く相手を翻弄できないゴブリンがあっさりやられ、すぐに最後の一体もやられた。


「あぁー。これで全部か?」


 しばらく周囲を警戒していた魁人だったが、すぐに力を抜き、その場に座り込んだ。


「いやー、にしても危なかったねー。嘉山くんが初めに一体倒してくれてなきゃ私たち全滅だったよねー!」


 楽宮は、そんなことを言いながら怖かった怖かったと笑っている。


 魁人は、楽宮のことを少し運動のできるただのクラスメイトとしか見ていなかったが、なかなか肝が据わっているようだと見直した。


「いやまぁ……」


 徳海がそう言いつつ守山を見た。


 守山はもう動けるようになっていたが、戦闘が終わり胡坐を組んで下を向いてから、まったく動きがない。よく見れば、小刻みに震えていた。


「この人がもうちょっとしっかりしてくれればもっと楽だったんだけどね……」


 その言葉に、守山がビクンッと体を震わせる。


「ご、ご、ごめん……」


 その言葉に、球弥以外の誰もがため息をついた。


「俺も、何もできなかった……ごめん……」


 球弥が、そういって皆を向いて頭を下げる。


「おい球弥、もう顔上げろ。何もできなかった分次戦いがあったときに活躍しろ」


 その言葉に、球弥の顔が明るくなる。


 魁人は今更桐原の開けたそこそこ大きな穴を見て、周囲に桐原がいないことを確認した。


 どうやら、すでに鉄を集めて帰っているようだった。


「それじゃあ、この洞窟もうちょっと先進むぞ」


「えー!? さっきあんなに苦戦したのに!」


 魁人の言葉に、楽宮が嫌そうな反応を見せた。


「当たり前だろ? 少なくとも今日中にこのあたりのモンスターを倒しておかなきゃ夜にまた外に出てくる。昨日は偶々見つからなかったが、今日は家も建ってだろうし確実に見つかる。それなら、今日のうちにこの狭い場所で始末したいからな」


「そっかぁ……わかった!」


「なら行くぞ」


「うん!」


 それから6人は、何度かゴブリンの群れと戦った。どれも、装備は6人よりも優れたものだったが、数がいつも三匹ずつだけだったので、苦戦はするが、最初よりは楽に皆撃退していた。


 そして、ずっと平坦だった道のほかに、下り坂になる道を見つけた。

 道はそれほど入り組んでいなく、すべての道を通ったはずなので、残る道はこの下り坂だけだった。


「これっていわゆるダンジョンでさらに下層に降りる階段的なやつなんじゃね?」


 球弥が少し興奮気味にそういった。


「今日はこのぐらいにしよう。また明日になったらここから下へ降りる」


「えー、ちょっとだけ先進んでみようぜ」


「だめだ。それに恐らくもうすぐ日が暮れる」


「虎島くんってそんなこともわかるの!」


「サバイバル部で鍛えたからな」


 虎島が反対を向き歩き出す。


 それに続き4人が歩き出したが、嘉山だけは一つの壁をずっと見つめたまま動かなかった。


「おい! 行くぞ嘉山!」


 一人ついてきていない嘉山に気づき、虎島が声を掛ける。


「……」


 嘉山からの返事はない。


「もういい! 俺たちは先に帰るからな!」


 虎島はまたすぐに歩き出した。


 皆も少しの間、まったく動こうとしない嘉山を見ていたが、すぐに歩き出した。


 不思議と声を掛けてはいけないような気がした。




 嘉山は、ある壁一点をずっと見ていた。


 壁の奥から、岩が崩れる音が聞こえたのだ。


 皆がいなくなるのを待った嘉山は、その壁を力強く蹴った。


 そこには小さな部屋があり、その真ん中には、何やら光る玉を持った無装備のゴブリンがいた。


 ゴブリンは、嘉山を見ておろおろとしていたが、すぐに嘉山の矢に仕留められた。


 嘉山は部屋を歩き、光る玉を拾った。


「……なんだこれ……」


 大体顔の二倍くらいの大きさの玉を、嘉山は上に持ち上げた。


 すぐに玉が光り始め、部屋一帯をまぶしい光で包み込んだ。


 やがて光が消え、気づけば嘉山の手には何も残っていなかった。


「……?」


 何があったのかよく分からないまま、嘉山は部屋を後にした。




 外はもうすぐ暗くなるといったところで、一応まだ明るかった。


 5人がもと居た砂浜に戻ると、そこには看板だけが残っていた。


 看板には、


「家はこっちに建てました!←」


 と書かれていた。


 看板に指示されていた方向へ歩くと、そこには広い平原が広がっていた。


 そしてその一角にぽつんと、木造の大きな家が建っていた。


 近づいてみれば、小さいが一日で造ったとは思えないほど、綺麗な一軒家だった。


「あ、みんなー! お帰りー!」


 家の屋根の方から声が聞こえ、皆が上を向くと、そこには制服の袖をまくった羽葉がいた。


「羽葉ちゃん! ただいまー!」


 楽宮が羽葉のすぐ真下まで近づくと、羽葉は、よっと言って7メートルほどあるはずの屋根から飛び降りた。


「えっ!? 羽葉ちゃん痛くないの!?」


「聞いて聞いて! なんか凄いの! いざ一軒家建てようって考えたら、自然に王都ってところの地図みたいなのが頭に浮かんできてね! 木を採ろうとした時も、手を軽く当てただけで材木になっちゃって! 家を建てる時には体が勝手に動くような感じでね! 建築に関することだったら体がバリバリ動くし、全然痛くないの!」


「へ、へぇ……」


「羽葉ちゃん! ちょっとそこにある木採ってきてくれへん?」


「わかったー!」


 羽葉はそういうと、身長の倍くらいありそうな木を軽々持ち上げて、7メートル上の屋根に悠々と飛び乗った。


「えぇ……」


 楽宮は言葉が出なかった。


 楽宮があたりを見渡しと、もう外には軽く屋根を手直ししている羽葉と華乃伊しかいなかった。


「私も中入ろっとっ」


 楽宮が部屋の中に入るとすぐに、美味しそうな匂いが伝わって来た。


「これ……鍋?」


「あっ! 夕葉ちゃんお帰りー! そうだよー、野菜鍋! 桐原先生が鍋作ってくれたの!」


「へー」


 楽宮の独り言に、遠桃が反応する。


 左の方にテーブルが出来ていて皆が食事の支度をしていた。


 ひとり、桐原だけが新しく道具を作るためか鉄をハンマーで叩いていた。


 やがて、何事も無く平然と帰って来た嘉山を加え、12人で二回目の夕食が始まった。


「……でね! 私がゴブリンにやられそうになったら嘉山くんが助けてくれて! 最後は魁人くんが倒してくれたの!」


「おぉー! 二人ともすごいじゃん!」


「「……」」


「もぉー! 二人ともそんなに恥ずかしがらなくてもいいんだよ?」


 その日の食事は、昨日よりも明るかった。


 会話があり、笑いがあり、何より12人みんなの顔が昨日よりも断然明るかった。


 誰もが初めて無人島に来てよかったと心の中で思っただろう。


 楽宮は、ようやく自分の家に帰ってきたような気がした。


 その夜、虎島と徳海が交代交代で見張りをしていたが、ゴブリンが外に現れることは無かった。

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