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ぼくらの無人島開拓ライフ!  作者: えっくすせりあ。
一章 一週間目
5/12

四話 職

「……あれ?」


 徳海は突然目が覚めた。

 テントから外を覗き込んでも、外はまだすっかり暗かった。


「……?」


 目が覚めた原因もわからないまま、再びテントに戻ろうとした自分の視界にふと何かが映った気がして、徳海は外をもう一度よく目を凝らした。


「……ひぃっ!?」


 遠くの木々のあたりに、よくマンガや小説で見かけるような、いわゆるゴブリンのような生き物がいた。

 想像よりは少し小さめな、大体小学校一年生ぐらいのおおきさ、しかし、その人型でありながらおおよそ人とはかけ離れた顔立ちと、なによりそいつの手に持っているものが、彼をビビらせるには十分だった。


 剣を持ったゴブリンのような生き物は、近くにいたもう一匹のゴブリンのような生き物と、まるでチャンバラごっこのようなことをしていた。


 幸い、こちらには気づいてはいないようだった。


「おい! 魁人! 起きろ! 嘉山も! ……嘉山?」


 小さな声でテントの中の二人を呼んだ徳海は、しかし嘉山がその布団にいないことに気が付き、震えだした。


「……っっあぁ。どうした? 雅人? なんかあったのか?」


 自分を起こした徳海が一切動かないのを見てその視線をたどった虎島は、嘉山がいないことには気づいた。しかし、なぜ徳海がここまで恐怖を感じているのかがまったく理解できなかった。


「おい、どうしたんだよ雅人? 嘉山はちょっと外に出ているだけじゃないのか?」


 その言葉でようやく視線を虎島に動かした徳海は、震える声で言った。


「外にゴブリンみたいなやつがいるんだよ」


「はぁ? 何言ってんだよ」


「ちょっとこっち来て、外見てみろよ」


 徳海の言葉を完全に疑いつつ、テントの外を見た虎島は、遠くにぼんやりと小さな人が見えた。


「小さな人にしか見えねえんだけど、お前にはあれがゴブリンに見えるのか?」


「あぁ」


 徳海の目の良さを知っている虎島は、その言葉にそうかとだけ答えて、しばらく考えた。


「嘉山を探しに行くのは後だ。遠くにいるゴブリンらしきやつが俺たちを見つけてないようだから、とりあえず朝まで待つ。多分、あれが魔物ってやつなんだろ? 最高神の言う通りなら、やつらはきっと朝になればどこかに行くはずだ」


「そんな、今嘉山は危険かもしれないんだぞ?」


「……運がなかった、としか言えないな」


「そんな……」


 虎島の意見を、しかし素直に受け止めた徳海は、外のゴブリンらしき生き物を警戒しつつ朝を待った。


 やがて、ゴブリンらしき生き物が森の奥深くへ入っていくのを見ると、その数分後には外が明るくなり始めた。




「虎島くん! 大変なの!」


 朝になり外に出た虎島と徳海の背後から、急に慌てた様子の桐原が現れた。


「どうしたんですか? 先生」


「テントに羽葉ちゃんがいないの!」


「はぁ?」

「本当ですか!?」


「二人も消えたのは流石にまずいな」


 虎島は、すぐに各テントの皆を叩き起こし、全員を集合させた。


「えー、この一晩で嘉山と羽葉がどこかへ行ってしまったんだが、何か知っているやつはいるか?」


 帰ってくる言葉はなかった。


「それなら、今から嘉山と羽葉を探しに行く。二人一組で島中を探してくれ。……ただ、森の中には入るな。あそこは迷いやすいから、俺と雅人が行く」


 砂浜から二人が帰って来たのは、二人一組のペアを組み、いざ探しに行こうと言う時だった。


 嘉山が平然と砂浜を歩いていて、羽葉はそんな嘉山の服を掴み、背後をこそこそと歩いていた。


「ねぇ皆! あれ奏ちゃんと嘉山くんじゃない! おーい!」


「夕葉ちゃん!」


 嘉山の後ろに隠れていた羽葉は、楽宮を見つけて彼女に飛び込んだ。


「どこ行ってたの? もー」


「ごめんね、夕葉ちゃんー!」


 羽葉は、楽宮に泣きついていた。


 誰もがその光景に少し口が綻んだが、その空気はすぐに消えた。


「おい! 嘉山! てめぇ何処へ行ってたんだ!? 羽葉もつれやがって!」


 平然と、まるで何事もなかったかのように戻って来た嘉山が、虎島の癪に障った。


 虎島のその言葉に理由を言おうとした羽葉を、手と目で押さえた嘉山は、まるでそんな大したことじゃないといった風に話し始めた。


「俺が外を出歩こうとしたら、偶々起きていた羽葉が心配だからってついてきてくれていたんだよ。それからは、ちょっと話をしていたら長引いちゃってこんな時間になった」


「そんな……」


 羽葉がそんな声を漏らした。


「こんな時間まで帰ってこなかったのは大体予想がつくからそんな嘘はつかなくていいぞ」


「そうか……」


「で、お前はなんで突然外を出歩こうと思ったんだ?」


「……なんとなく」


「はっ! そうかよ!」


 さらに問い詰められた時の言い訳を考えていた嘉山だったが、その必要はなかった。


「おいお前ら! この話は無しだ! とっとと飯食って最高神とかいうやつを待つぞ!」


 虎島は嘉山を問い詰めるのをやめた。無駄だと思ったからだ。


 誰もがまったく納得しない会話だったが、虎島の言葉で皆動き出した。


 遠桃と華乃伊が野菜を採ってきて、皆が食べる。

 昨日とまったく同じ出来事だったが、誰も顔が明るい人も、しゃべりだす人もいなく、ただただ無言で食事が進んだ。


 やがて、食事後もひたすら無言で、動き出すことのなかった場に、明るい声が響いた。


「ふぉっふぉっふぉ。皆の者昨日はすまなかったの。今日こそ職を授け……」


「おい、最高神」


「なんじゃ?」


 突如現れた最高神の言葉を虎島は途中で遮った。


「この無人島にも魔物がいる」


「なんだと!?」


「「「え!?」」」


 虎島の言葉に、最高神を含む多くの人が大きく驚いた。


「夜の時、森の方で、小さいがまるでゴブリンみたいなやつがいたんだ。あれって、この異世界ファンタジーワールドとやらの魔物なんじゃないのか?」


「……」


 最高神は言葉が出なかった。

 ここに王都の人々の避難拠点を造る予定だったのに、ここに魔物がいるならばそれも叶わない。

 最高神はしばらく絶句した。


 虎島は言葉をつづけた。


「おい、最高神さんよ? 魔物とかがいるってことはよ、その職ってやつは、魔物と戦う職もあるんじゃないか?」


「あ、あぁ。職は大きく分けて魔物たちと戦う冒険職と、ものや建物を造る生産職の二種類があるが……」


「それじゃあ、俺たちの半分が冒険職になって魔物と戦って、もう半分がお前の言う新しい異世界ファンタジーワールドを創ればいいんじゃないか?」


「なるほど……」


 最高神は、確かにいい話だとは思った。


 ただ、


「他の人はそれでいいのか?」


 最高神が虎島以外の人に目を向けたが、殆どの人が最高神から目を逸らした。


 やがて、


「俺、出来れば戦うなんて嫌なんだけど……」

「私も、半年だけ神の力ってやつで王都を建てるだけだって話だったじゃん」


 ぽつぽつと虎島の意見に反対の言葉を出す人が現れた。


 その光景に虎島は舌打ちした。


「おいお前ら。なに甘えたこと言ってんだよ。勝手に自分たちで行きたいって言いだして、それからちょっと小さい生き物が現れたら帰りたいだと? ふざけんなよ? どうせ俺たちはしばらく帰れねえんだ。ビビってるやつは仲良くこそこそ王都造りしてろ」


 反対の意見を出す人々は、すぐに縮こまった。


「どうせ俺たちは王都を造るまで帰れねぇんだ。……おい、とっとと職授けろ最高神さんよ。時間がもったいねぇ」


「……わかった」


 誰も、虎島の意見に口を出すことは無かった。


 職は、冒険職も生産職も二つずつあるようで、


 魔物を簡単に倒せるようになり、魔物からの攻撃もあまり痛くなくなる前衛職には、守山、虎島、徳海それと楽宮が。


 全体的に素早くなり、魔物を遠くからでも簡単に倒せるようになる後衛職に、球弥、嘉山が。


 石を金属に変えられて、武器防具など金属類のものを簡単に作れるようになる鍛冶師に、桐原が。


 木を材木に変えられて、速築(一軒家を一人で三日間でつくれる)になり、木製のものが簡単に作れるようになる建築家には、残りの野村、歌海、羽葉、遠桃、華乃伊がなった。


「建築家になったものには頭に王都の建物全ての設計図を入れといた。造りたいものからどんどんと造ってくれ」


  最後に最高神は、それぞれの職業に必要な装備道具を砂浜に落とし、消えた。


 虎島の指示は迅速だった。

 すぐに建築家には、三人一組で一軒家を一日で造り、残りの一人が飯と道具作りするように命令し、残りの人は虎島と一緒についてくるようにと伝えた。




「虎島くん。私ってついて行く必要あったのかな?」


「桐原先生、いいですか。最高神は馬鹿なのかなんなのか知りませんけど、俺たちが昼間散々森の中を出歩いていても見つからなかった魔物が、夜になると簡単に現れたっていうのはどういうことかわかりますか?」


「え?」


「間違いなく、例えばダンジョンとか洞窟とか、そういう魔物の巣が何処かにあるはずなんですよ」


「なるほどー。魁斗くんってやっぱ頭いいよね」


「そうですか……。それで、そこの場所は間違いなく地下にあるはず。鍛冶師の力は、石を金属に変えるというものらしいですからね。桐原先生には、石を鉄に変えてもらって、それでまず鍋とかそういう金属の日用品を作って下さい」


「なるほど、分かったわ。でも、鉄って重いからそんなにたくさん持てないわよ?」


「桐原先生はたくさん石を金属に変えてくれれば、あとは自分の持てる分だけ持って帰ってくれて大丈夫です。あとは俺たちが帰りに運びますから」


「分かったわ。無理しない程度でいいのよ?」


 そんな話をしつつ7人は森の中を歩き回った。


 やがて、


「虎島、モンスターの声が聞こえた」


「はぁ? 何言ってんだよお前?」


「こっち」


 嘉山はそういうと、森の更に深いところへと歩き出した。


「おい、一人で行動するな! おい! とまれ!」


 叫んでも止まりも振り返りもしない嘉山に、虎島は舌打ちをして後を付いて行った。


 やがて、一つ階段らしきものを見つけた。


 森に綺麗に溶け込んでいて、注意して見ないと近くでも分からない程だった。


 その階段は奥深くまで続いていた。


「おい、行くぞ」


 虎島が、その階段を躊躇なく下り、他の6人もそれに続いた。


「うわすっげぇ」


 球弥が思わず口を漏らす。


 階段を下るとそこには、洞窟のような広間が広がっていた。


 洞窟は、天井についている鉱石のようなものが淡い緑色の光を放っていて、足元から遠くまでよく見えた。


 そして遠くに、4匹の小さなゴブリンの後姿を見つけた。


 ゴブリンは、低い唸り声でなにか会話をしているようだった。


「桐原先生はすぐそばの壁を鉄に変えたらすぐにここを離れてください」


「わかったわ」


 そういうと桐原は、すぐ真横にあった石の壁に触れた。


「いいか? 見た目で敵は判断するなよ。嘉山と球弥には牽制射撃をしてもらうつもりだが、そこから混戦になったときは自分と味方の安全が確実な時以外は手を出すな」


「おーけー」

「わかった」


「よし。前衛職の俺たちも、絶対に命第一に考えろ。一撃ももらわないように。守山先生も、あと何よりお前だ楽宮。なんでお前冒険職に、しかも前衛職になったんだ」


「大丈夫、大丈夫。わたしそこら辺の男よりは力あるから!」


「そういう問題じゃねぇよ……」


「まぁいい。それじゃあ嘉山、球弥、弓であいつらを頑張って……」


 頑張ってどうにか当てろと言おうとした虎島の言葉は、突如背後から聞こえた轟音に遮られた。


 見れば、桐原が触れていた石の部分が半径一メートル程で円状に削れ、その衝撃であたりの壁が壊れたようだった。


 桐原先生は、その新しくできたくぼみに倒れていた。


 そして、向こうにも轟音は聞こえたようで、奥にいた小さなゴブリンたちはこちらを向いた。


「仕方ねえ。おい皆! さっきの言葉通りあいつらの攻撃に気をつ……け……て……」


 虎島は直感的に危険を悟った。


 ゴブリンたちは、さっきはなかったはずの、前衛職よりも頑丈そうな防具を着て、恐ろしいほどの速さでこちらに向かってきていた。


 徳海は、そのゴブリンたちの手に、明らかに触れただけでも血が出そうなほど鋭利な剣を持っているのが見えた。

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