三話 無人島
ようやく本題です!
学生なので、とりあえず夏休みの間は毎日投稿するつもりです。
ふと気づけば、彼らは砂浜の上に寝転がっていた。
「うっわぁ」
「すげぇ……」
「綺麗……」
目を覚まし目の前の景色を見たものは皆、その場から動けずにいた。
皆最高神からの話はちゃんと聞いていたから、気づけば無人島にいるんだろうと感じていた。
ただ、彼らの目の前には、想像していたよりずっと綺麗な大自然が広がっていた。
彼らの目の前に広がる木々も、手に触れる砂の粒一つ一つも、背後から感じる海風ですら、今まで感じたこと、見たことのない神秘的なものに感じられた。
だからこそ彼らは、今いるこの場所が、もう今まで自分たちが過ごしてきた世界ではないのだと直感的に悟った。
だれもが一歩も動けずにいた。
「ふぉっふぉっふぉ。異世界はどうじゃ? 驚いたかの?」
無事転移させることができて、最高神はすっかり口調が偉い人のそれになった。
やがて聞こえた最高神の言葉で、数人の気が元に戻った。
あるものはそれでもなお、目の前の光景に目を奪われ続ける。
あるものは次のの最高神の言葉を待った。
あるものは、興奮が爆発して騒ぎ出した。
「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ! すっげえええぇぇぇぇ!」
野村は立ち上がると、ダッシュで砂浜を走り、制服のまま勢い良く砂浜へダイブした。
「っぶはあぁ! すっげぇ! なんかただの砂一つでもすっごい新鮮に感じるぞ!」
その言葉を聞いて、皆それぞれはしゃぎ始めた。
砂浜に寝転がるものもいれば、目の前の神秘的な草木へ向けて、歩き出そうとするものもいた。
「しばらくこの無人島を楽しんでいても良いぞ?」
「「うおおおおおおおぉぉぉぉ!」」
「「やったああああぁぁ!」」
はしゃいでいる彼らを見て、最高神はついそう言ってしまった。
そこからクラスの皆は、もう無人島に遊びに来たただの高校生だった。
「なぁ蘭馬! 一緒に海泳ごうぜ!」
「はぁ? 何言ってんだよ。今海に飛び込んだら制服濡れちまうじゃねえかよ。俺たち替えの服持ってねえんだぞ?」
「なぁ唯那! 唯那! あれ! あそこの木! なんか生えとるけど、あれってもしかして」
「え? どこどこ? ……!? あれ……私の見間違いじゃなければキャベツに見えるんだけど……」
「やんな! やんな! うちの見間違えじゃないよな! 木にキャベツが成っとる! 木にキャベツが成っとる!」
「守山先生ー? 守山先生ー? 一体何が起きているんでしょうか?」
「さぁ、私にもわかりません。いったいどうしてこんなことに……」
「はうぅ暑い……日陰、日陰に行かなくちゃ……」
「……」
皆各々、異世界を創るという本来の目的を忘れて好き勝手動いていた。
昼になると、調理部である遠桃と華乃伊が、木に生えているキャベツやキュウリ、トマト、ナスなどを採ってきた。
虎島の毒味の上で、皆野菜を生でかぶりついた。
どうやらこの世界の野菜は甘味たっぷりで、そのままでもすごく美味しいようだ。
昼ごはんを食べ終わった皆は、またはしゃぎ始めた。
無人島を散策するものもいた。
その間最高神は王都の現状維持のため奮闘していて、時間を忘れていた。
最高神が戻って来たのは、世界がオレンジ色に包まれた夕方ごろだった。
各々自分のやりたいように行動していた皆の頭上に、突如声が聞こえる。
「ただいま君たち。とりあえず最初にいた砂浜のところまで戻ってきてくれ」
最高神の言葉には、もうだれも驚かなくなっていて、10分もしないうちに全員がもといた砂浜まで帰って来た。
「えー。まず、どうじゃ? この異世界は。満足してくれたかの?」
「めっちゃ広かった!」
「マジ楽しかった!」
「野菜が木から生えてた!」
「材料がないけんうどんが作れんのやけど?」
「そうかそうか。みんな満足みたいでよかったよかった」
今最高神は分身を使っておらず、最高神を真ん中に、他の12人が最高神を囲う様になっている。
「この世界の木や野菜は、切っても採ってもすぐ同じ場所に生えてくるし、野菜は生でも食えて美味しいから、是非活用してくれ」
「とまぁ一旦話はここまでじゃ、本題に入るぞ。今からおぬしたちに、わしの神の力、職を授ける。
「待ってました!」
「俺その職で勇者になるわ!」
「魔物って言うのとは戦わないと思うけど……?」
誰もが、その神の力という言葉に期待し、胸を膨らませる。
やがて、最高神がぶつぶつと小言をしゃべり始めた。
いわゆる詠唱というやつなのだろうと、誰もが思った。
やがて、小言が止み、帰ってきた言葉は、皆の予想外のものだった。
「皆、すまない。最高神の急用でしばらくここを離れる。テントを置いておくから、一晩だけこのまま過ごしてくれ」
そう言って最高神は、皆の視界から消えた。
すぐに、先ほどまで最高神のいたところからテントが4つ落ちてきた。
誰もがテントを見つめてぽかんとしている中、虎島が皆に声をかけた。
「おい、お前ら。ぼーっとしてないでテント張るぞ。早くしねぇと日が暮れる」
気づけばもう、あたりは暗くなり始めていた。
皆、頭が正常に働かないまま、ただただ虎島の言う通りに動き、3人ずつ4人のグループに分かれテントを立て、同じく虎島の指導の下、夕食や焚き火を済まして、皆それぞれのテントに戻った。
「ねぇ、桐原先生。私たちどうなっちゃうの?」
夕食を済ませてテントに戻ってからしばらくして、羽葉は小声で話し始めた。
「……わからないわ」
このテントにいる人は、羽葉、桐原、歌海の三人で、もう皆テントにあった寝袋に顔以外の全身をうずめていた。
「皆、異世界とか王都を造るとかでわいわい騒いでたけどさ、私これからどうすればいいかわからない。あの最高神って人は悪い人じゃ無いと思ったから皆と付いて行こうと思ったけど、なんか騙されているような気がして……」
「私……怖い……お家……帰りたい……」
「……」
桐原は、何とか羽葉と歌海を慰めたかったが、何も言葉が浮かばなかった。
桐原本人も、何が起きているのか分からないまま、生徒の間だけの話で気づけば異世界とやらに飛ばされてしまっていたのだ。
「とりあえず、今日は寝ましょ? 明日になったらきっと最高神様がまたやってくるわ。だから、とりあえず今日は寝て、ゆっくり休んで、気持ちを落ち着かせるの」
そう言いつつ桐原も、果たして最高神は来るだろうか。自分たちはどうなるのだろうか。そんな不安でいっぱいだった。
「おやすみなさい。先生」
「私も……もう寝ます……おやすみなさい……先生……」
「二人とも、おやすみなさい……」
桐原も、自分がこれからどうなるのか考えるだけで不安になったから、生徒二人とともにすぐに眠りについた。
「おい、魁人。大丈夫なのか?」
「何がだ? 雅人」
「いろいろだよ。まず、あいつの新しい異世界を創ってほしいって話から怪しい。あいつは悪いやつでは無さそうだし、殆ど嘘はついてなさそうだった。でもさ、偶にあいつの様子がおかしくなってただろ。それに、神様があんなた頼み方するのもおかしい。俺たち、王都を造るってこと以上にもっと大きなことに巻き込まれている気がするんだ」
「あぁ、それはわかる。確かに危険だと思った」
「じゃぁなんで……」
「雅人。ここがどこかわかるか?」
「……無人島だろ? それがどうし……」
「そう、ここは無人島なんだよ! 俺たちサバイバル部の大会の舞台! 無人島だ! そこでもとの世界の時間はほとんど変わらずに半月も過ごせるんだ! それならば行かない他ないだろう!?」
魁人は、両手を広げ、笑いながら大声を出した。
「落ち着け魁人。皆寝始めるころだぞ。確かにここは無人島だが、俺たちの求めている無人島とは全く違う。木からキャベツなりなすなりバナナなりパイナップルなり変なもんばっか生えてるし……」
「あぁ、確かにそれは計算外だった。でも、無人島で過ごすことには変わらない。それに、クラスの皆も上手くまとめながら、王都を造りながら半年も過ごせたら、俺たちにはいい経験になる」
「そうだけど……。でも、この島はなんかおかしいんだよ。他に人はいないはずなのに、森の中には何かがいたような跡があったし、時々誰かに見られているような気もしたんだ」
「ただの動物だろ?」
そう言う虎島に対し、
「いや、僕もこの島はおかしいと思う」
先ほどまで無言で寝袋に入っていた嘉山が、初めて声を出した。
「嘉山……お前も気づいたか?」
「視線はわからないが、森に明らかに動物のものではない足跡が、それもたくさんあった。それも、すべて小学生ぐらいの小さいやつが」
「何?」
魁人が眉をひそめた。
「それにな、聞こえたんだよ」
「き……聞こえた?」
雅人が怯えた声で嘉山に聞く。
「そう。 偶に少し耳に入ったぐらいだが、何かの呻き声のようなものが確かに……な……」
「おぉおい、やめてくれよ嘉山。本当だとしてもそういういい方はするなよ」
雅人はもうすっかり怯えて、寝袋に全身、頭まで全部隠してしまった。
「……明日、最高神とかいう奴が来た時に聞けばいい」
そういって虎島も、寝袋に身をひそめた。
嘉山は、夜に目が覚める人ではない。
なのに、なぜか焚き火も消えてまだ外がすっかり暗いうちに、目が覚めた。
理由はすぐわかった。
テントの外で、誰かが、ザッザッザッという音を立てて、ここから離れていく音が聞こえた。
生徒の誰かだろう。
音がかなり小さくなってから、嘉山は眼鏡をかけて、音を立てないように寝袋を出て、テントの外に出た。
暗くてよく見えないが、誰かが海沿いを歩いていく音だけを頼りに、音を尾行した。
足音の主は、音を立てないように慎重に歩いていたため、嘉山もゆっくりとその後を付いて行った。
やがて、15分程歩いたところで、音の主は止まった。
すぐ近くに草木が生い茂っているところがあったため、嘉山はその草木を頼りにゆっくりと近づいた。
やがて、主にかなり近づくと、よく見ればそれは、羽葉奏だった。
羽葉は、海の方を向いて、体育座りでしばらく座っていたが、間もなく下を向いてしくしく泣いていた。
それを少し眺めた嘉山は、すぐに戻ろうと考えた。
……急な話だが、嘉山は耳がいい。
登山部の彼は、狩猟もかなり嗜んでいて、目が悪い代わりに聴力が常人とか比べ物にならないほどだった。
そのせいだろう。戻ろうと考えた直後、遥か遠くに聞こえた小さな声に、勢いよく右手の方、森の方を向いた。
その時の反動で姿勢を崩し、音を立ててしまった。
「誰かいるの?」
その音を聞いた羽葉は、ぱっと俺の方を、警戒心の籠った涙目で向いた。
「ごめん、僕だ」
嘉山は隠れても無駄だと思い、すぐに身を乗り出し、羽葉の方へと歩いた。
きっとあれは、あの声は気のせいだ。
そう考えて。
羽葉は、それを見て警戒の目を和らげ、安堵のため息を漏らした。
「なんだぁ、嘉山君かぁ。ごめんね? 変なところ見せちゃって」
「いいや、僕の方こそ盗み聞きして悪かった」
その後少しお互いが沈黙した。
そのうち、嘉山が口を開いた。
「……不安?」
「やっぱりわかっちゃうかぁ」
羽葉は、えへへ、と力無く小さく笑った。
「家族のことが心配でさ、それに、私どうなっちゃうんだろうって考えたら、泣きたくなっちゃって……」
「……大丈夫だよ。無人島でたくさん過ごしてきた虎島や雅人くんがいるんだ。それに、きっと明日最高神がまた来る」
「…………そうだよね。悩んでいてもしょうがないよねっ」
羽葉は立ち上がり、制服についた砂を、手でパンパンと払った。
「戻ろっか」
そう言いテントに戻ろうと歩き出した羽葉に、しかし嘉山は、出来るだけ音を立てないようダッシュで近づき、体を持ってまた音を立てないように走り始めた。
「え? え!? 嘉山くん!? どうし、むー!? むー!?」
声を上げる羽葉を口で押えた嘉山は、ようやく見つけた小さな洞窟のようなくぼみに隠れた。
そして、未だ声を上げようとする羽葉を手で押さえて走り続けた嘉山は、冷静に、落ち着いて、しかし激しい焦りを顔に浮かばせながら、しっかり羽葉の目を見て話し始めた。
「落ち着いて、声をださないで、音を立てないで。……さっき近くで声が聞こえた。どう考えても人間のものでは無いような呻き声だった」
「え?」
羽葉の声に、嘉山は一呼吸置いてから、小さく、しかしはっきりといった。
「多分……魔物がこの無人島にいる」