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第5話・イジメ

静寂。

うるさい貴族達がいなくなり教室はシンと静まり返っていた。


「あ、あの…」


アカリが口火を切る。その声はとても弱々しく、今にも消えてしまいそうで、そして顔が真っ赤だった。


「わるいな」

「え!?」

「愛してるとか言っちゃって。嘘だって分かってるだろうけど女の子はそういうの好きな人に言われたかっただろうし…」

「い、いえ…」

「恋人って何するのか分からないけど、とりあえず家まで送っていくよ」

「イヤイヤ!貴族様に送ってもらうなんてダメですよ!私がお送りします!」

「俺が送る。これは1人の人としての、1人の男としての役目だから。そこに貴族だ平民だなんてものは関係ないから。」




結局俺が押し切って彼女を送っていくことになった。その帰り道は入学してから一番楽しかった。





「んで、初級魔法の簡易化は出来たと?」

「そうなんですよ!魔法陣を頭の中に思い浮かべて簡易詠唱で簡易化が出来たんですよ!」


魔法のことについて語っている少女はさっきいじめられてた少女とは思えないほどイキイキとしていた。きっと魔法が本当に好きなんだろう。


「カレン様も簡易化は出来るのですか?」

「ああ、中級までは終わったよ」


本当は上級大魔法の簡易化も出来るが、そこはふせておくとしよう。

だが、アカリはとても驚いた様子でこちらを見ていた。


「中級まで……終わっているのですか?」


半信半疑という様子で聞き返してくる。ので、試しに一つ見せてみることにした。


水の魔法陣を浮かべて…詠唱


「`ヘビ`」


すると前方の地面に小さな水の塊が出現し、ヘビに姿を変えた。


「すごい…」


驚いた様子で見ている。この年で確かに中級の簡易化はすごく見えるのだろう。




「なんだか、カレン様は私たちよりもずっと遠い位置にいるような気がします。」

「なんだよずっと遠い位置って、俺はお前と同じ歳だぞ?」

「歳は同じなんですけど…精神的にと言うかなんというか……フフッ、うまく言えません。すみません。」

「なんじゃそりゃ」




アカリは本当に魔法が大好きで、意外とおしゃべりで、そして…本当に察しがいい様だった。

この先アカリが敵にならないことを祈るのだが

そんなことを話しているとアカリの家に着く。


「お母さん!ただいまー!」

「あら、お帰りなさい。今日ははやかったの……ね……え?」


アカリが母親に飛びつく。母親とは思えないほどスラリとしたキレイなスタイルで、長い黒髪に一瞬目を奪われてしまった。

普通に話していたのに俺を見るなり顔色が青くなっていく。頭上にハテナを浮かべているとアカリの母親が勢いよく頭を下げる


「なにとぞ申し訳ありません!」

「!??」


視界の隅で鍋が傾くのが見える。俺は少し移動して鍋を支える。


「ふぅ…こういう所は母親譲りだったんだな」

「あ……」


母親の顔がさらに青ざめるのが分かる。もうこれ以上見ていられないので自分から助け舟を出すことにする。


「お母さん、別に娘さんが何をやったとかそういう訳ではないんですよ。俺はただ娘さんを送っただけなのです。」


嘘偽りない真実を話すが、それでも母親の抱く恐怖は隠れることは無かった。


「お母さん!とりあえずお茶でも出してあげたら!」

「え、ええ…そうね。アカリ、案内してあげてちょうだい。」

「うん!カレン様、どうぞこちらに」

「ああ、頼む」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「どうぞ…」

「これはどうも、頂きます」


お茶という飲み物に似ている。ズズっと口に含めるとなんだかほんのりと安心した感じになる。


「私はアカリの母親でカリエル・ノエルと申します。」

「俺はカリフォルド・カレンと申します。ところで、アカリの家は何の仕事をなさっているのですか?」

「は、はい。夫は医者で今は別の街に出かけております。私達は家で宿泊施設を経営しております」


どうりで他の家よりは大きいと思ったし、入口の癒しの木、というのがこの旅館の名前か。


「それで、カレン様は何故平民のアカリを送っていたのか聞いてもよろしいでしょうか?」

「はい。俺はアカリを守りたいと思ったので、送っていたのです。これからは私生活のサポートもさせてもらいます」

「そう…ですか…」


まあ、信じて貰えんわな。貴族が平民を守るなんて、本来ならどんなに弱くても平民は貴族の肉壁にされるのに。


「俺はあまり知らないのですが、貴族が平民を庇うのはそんなにおかしな事なのですか?」

「そうですね。確かに平民にも貴族に負けないぐらいのキレイな女性もいます。その場合は貴族は愛人として強制的に自分のものにします。ですが、守るという話は1度も聞いたことがありませんね…」


やっぱりないのか。なら結構噂になることは覚悟しておいた方が良さそうだな。

と、ふと外を見ると空はキレイな紅色に染まっていて家に帰ることを忘れていることに気がついた。


「では、私は失礼します。アカリ、明日の朝迎えに行くから勝手に1人で行かないでくれよ。」

「はい。お待ちしていますね」

「それと、お母さん」

「は、はい!」


自分に何か粗相があったのかと身構える。


「俺はまだ子供ですし、これから長い付き合いになると思います。なので、私の前だけでも敬語を辞めてみませんか?」

「それは…あの…」

「無理にとは言いませんが、疲れるでしょう?こんな何一つ敬意を払う所のないガキに敬意を払うのは」

「あの…その……」

「(これはこれ以上言っても無駄か。あとは時間が何とかしてくれるのを待つのが良さそうだな)まあ、気が向いたらやってみて下さい。それで逆上するということはありませんから」


そう口にしてアカリの家を立ち去る。色々と問題になる可能性はあるが、成長するアカリを見るのも楽しいかもしれない。俺の心は生まれて初めてワクワクしていたのかもしれない。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次の日

アカリと魔法について語り合いながら登校する。いつものように下駄箱を開けると、


「おおう…これはひでえな」


上履の中には土に草に卵に虫に…色々入っている。物陰でこそこそとこちらをうかがってクスクス笑っているのが分かる。

平民と一緒にいるとこういう扱いを受けるのか…………子供だな


「ひゃぁ!」


アカリも同じ目にあったようだ。早めに登校したおかげで朝のHRまで時間は十分にある。


「アカリ、上履き持ってこっち来い」

「は、はい……」


俺は靴に履き直して外に出る。大雑把に土などのゴミを払い、


「`クリーン`」


簡易詠唱をするとまず上履きの周りを球体の水が覆う。その中に風魔法が組み込まれており、中は洗濯機みたいになっている。ある程度綺麗になると水は下に落ちて風だけになり、上履きに着いた水をキレイに払ってくれる。



「うん。なかなかいい出来だな。アカリ、上履き貸して」

「は、はい!」


先ほどと同じ手順でキレイにしていく。


「少し湿ってるけど、もうすぐ夏だしひんやりしてていいかもな。」

「そうですね。というか、さっきの魔法は何ですか!?私にも教えて下さいよ!」

「ああ、さっきのは…」


何事も無かったかのようにいつものように登校する。背中に恨みの目線やヒソヒソ声を感じながら、もうめんどくさいことは辞めてくれよと、ささやかな願いを込めて教室に向かうのだった。



とまあ、盛大なフラグを建てて即回収。

放課後に貴族の男子に手紙を渡された。ラブレターなんてちゃちなもんじゃあ決してねぇ、(校舎裏に来い。来なかったら一生後悔することになる)だとさ。俺が一生後悔することに少し興味を抱きつつも俺は校舎裏に向かうと、数名の上級生が待っていた。


「ご要件は何でしょうか」

「ああ?なんだその態度は?あぁん?」


軽く挑発される。なんだろう、猿と会話しているみたいで自分が虚しくなってくる。そうすると自然にため息も出てしまう。


「なんだてめぇ!舐めてんじゃねーぞ!」

「あの、そういうのいいんで本題言ってもらっていいですか?」

「ちっ!お前よぉ、最近平民とよく一緒にいるって弟から聞いたんだけど、マジなの?」

「はぁ、マジですが。それがなにか?」


答えると周りはゲラゲラと笑い出す。


「アッハッハッハ!お前、自分が何やってんのか分かってんのか?平民と仲良くってぐひひひ!」

(もうちょいマシに喋れんのかねこいつらは)

「んで、優しい弟が警告して上げたら殴られたって話なんだけど何やってくれてんの?あぁん?」


脅しはしたよ確かに。でも殴ってないし。アザの一つもないのに言葉信用しちゃうの!?


「まあ、そういうことだから。その分しっかりやられて貰おうかねー!」


数名が、指をパキパキ鳴らしながらこちらに近ずいてくる。俺はくだらないので180度回転して歩き出す。


「てめぇ!逃げてんじゃねーぞ!」


後ろから殴りかかって来たので、俺は防御魔法を貼って対処する。

ガン!というにぶい音が広がる。彼も拳を硬化させて殴ってきてたのだろう。


「てめぇ!!!」


何度も殴ってくるが、その度に防御魔法が邪魔をする。相手からしたらこっちも見てないのに自分の殴るコースに防御魔法が貼られて驚いているだろう。


「ちくしょう!てめぇら!早く手伝えよ!」


ついに周りの奴らも参加し出す。「待てやこらぁ!」と前に出てきて肩を掴んで来た奴を足を払って転ばせて、後ろの奴らは防御魔法と格闘させている。諦めが悪すぎるので軽くイラついてきた。


「あの、先輩方」

花が咲いたような笑顔を見せる。その後には殺気を濃厚に漂わせながら。

「いい加減にしてくれません?」


すると彼らはビビって動けなくなってしまう。俺が歩くと前方にいた先輩は道を開ける。面倒この上ないが、言葉が通じなさそうな奴らにはこの手が一番有効だなと考えながらアカリのもとへ急ぐのだった。







数ヶ月後

「はあ…今日もか……」

下駄箱は毎日同じ光景だった。ゴミが敷き詰められていて、最近では虫も沢山入ってるようになったり、開けたら魔法が起動するようになってたり。

「アカリ今日はお前の当番だろ?」

「はい、カレン様ほど上手くは出来ませんけど。`クリーン`」


毎日俺がアカリの分もやるのはあれだと言うことでアカリもクリーンを覚えた。アカリも水と風のデュアルで初めて聞いた時はなかなかに驚いた。今では俺と遜色ないほど上達していた。魔法の知識も物覚えが人1倍いいアカリはグングン魔法の知識もつけていった。


「すみませんカレン様、私のせいで…」

「また言ってるのか、そんなこと言ったって現状は何も変わらない。だったらあいつらを見返せるようにより一層がんばれ」

「は、はい!」


とまあ、毎日こんな様子だ。アカリは真面目なのでこの事に負い目を感じているのかもしれない。

そして疑問なのが、貴族の連中がこんなにしつこい事だ。あいつらは基本潔癖症な連中が多い。なので、土や草はまだしも虫なんて絶対に触れるはずが無い。となると、使用人あたりに命令しているのだろう。という訳で、俺は今夜学校に張り込むことにした。




アカリに随分と心配されたが、俺は何とか学校に潜入できた。家はナヤとマルカに頼んで変わり身を用意してもらった。

闇に息を潜めていると予想通り犯人は出てきた。袋に何やら色々なものを詰めながら。学校にいいつけろよとは思うだろうが、俺はともかく平民のアカリが問題を起こせば1発で退学の可能性があるので俺ひとりで対処しているのだ。使用人ではなく、冒険者らしき者が2人。冒険者は簡単に切り捨てられるからこういう悪事には利用しやすいのだろう。


「おい、その下駄箱俺のなんだけど」

「!?」

ビクッとわかりやすい反応をする。無警戒過ぎんだろ…

「おいおい、ボンボン貴族のお坊ちゃんがこんな夜遅くに出歩いてていいのかなー?」

「そうだよー、コワーイおじちゃんに痛い目に合わされる前に早くお家に帰ろうねー?」

そう言いながらカチャリとナイフを向けて威嚇してくる。

「ギルドにボコられて届けられるのと、今ここで首跳ねるのどっちがいい?選ばせてやるよ」

「ハハハ!威勢のいい坊ちゃんだこと!じゃあ、」

グッと腰が落ちる

「お前をボコってお家に届けてやんよぉ!」

瞬間冒険者の顔がめり込み地面に転がる。

「あそう、んじゃ死ね」

「てっめぇ!」

ナイフに炎を纏って突撃してくる。なかなかいいナイフさばきだが、遅い。

「ちっくしょう!ちょこまかしてんじゃ、、ねぇ!」

範囲系の炎魔法で廊下が焼き尽くされる。

「はぁはぁ、やってやったZE」

「おいおい、それはフラグってやつだぜ」

振り向くと同時に片目にナイフが刺さる。

「AAaaaaaAaAaaAAAAA!!!!!!!!」

「うるさい」

腹に1発入れて昏睡させる。伸びている振りをしている冒険者の胸ぐらを掴む。これじゃどっちが悪いヤツなのかわかんない気もしなくはないが…

首筋にナイフを添える。

「質問に1回で答えろ。あと1人いるから答えなかったら躊躇なく切り捨てる。依頼主は誰だ?」

「……………知らない」

力を少し込める

「ま、まてっ!本当なんだ!結構前にフードを被った爺さんに話しかけられて、こうすれば高額な報酬とギルドにお前らのいい噂を流しとくっていわれて!それで!」

「爺さんって…何も疑問に思わなかったのかよ…」

「か、金に困ってたんだ。報酬がすげえ量だったし…信じてくれ!」

「まあ、いいか。`ヒール`」

みるみるうちにもう1人の冒険者の目の傷が治っていく。何故か相方がホッとしている。

「んじゃあ、お前ら…」

意識を取り戻した冒険者達は顔を見合わせて安堵のため息を吐いていた。

「半殺しな」

「「え??」」




次の日、ギルドの前に顔がボコボコに腫れてパンイチで吊られている冒険者が発見された。ギルドは調査を実施したが、犯人は見つからず冒険者達も話を聞くと泡を吹いて倒れたという。

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