第4話・平民と貴族
次の日、教室に入ると今日もあいかわらずくだらないイジメが繰り広げられている。
その日は昨日出会った少女アカリがいじめられる番だったらしい。アカリは必死に防御魔法を展開しているが、数人からの魔法攻撃を1人でしのぎ切るのはほぼ不可能だ。
防御魔法は砕けてアカリは魔法をくらって吹き飛んでしまう。それをゲラゲラと汚い声で笑う貴族たち。見慣れた光景だが、今日はなんだかいつもより腹立たしかった。
そのイジメは授業中にも起こる。上級生と合同で魔法の実践授業を受けている時、規定以上の魔法を受けているのが平民だ。
教師はいつものようにこれを無視する。当然といえば当然だった。いくら子供でも親に言いつけられたら自分の身が危ない。
ちなみに俺は隅っこで小さな火の鳥を錬成して遊んでいた。
放課後
アカリ
私は帰りのSHRが終わると急ぎ足に教室を出ようとする。が、数人の貴族たちがドアの前に立ちはだかる。
「アカリちゃーんどこに行くのかなー?」
「今日私たちと魔法の練習する予定だったよね?」
「い、いえ今日はあの…」
震えて上手く喋れない
「ああ?早く構えろよ、構えさせてあげてるだけ優しいと思えよ平民ごときが」
1回り大きい男子が威嚇してくる。私は萎縮しきったまま防御魔法を展開する。中級防御魔法も使えるが、使うと何をされるのか分からないので使わないでおく。
(また始まるのか…でも、ここを我慢すれば明日からは私じゃないし、もう少しなんだ…もう少し)
「んじゃあ、行っくよー!」
風の魔法が打ち出されるが、予想以上に大きい
「キャァ!」
私の防御魔法はすぐに破られてしまい突風が私を壁に突き飛ばす。
「あんた達さー、最近慣れてきた感じがするからちょーっと魔法の威力あげてみたんだけど私って優しくない?」
というと周りの貴族達はたちまち笑い出す。
「ゲラゲラゲラゲラ」
やかましい声が耳に入ってくる。ただ、私は怒らない。怒れないのだ。もうとっくに心は貴族に屈服している。ああ、彼だったら、カレン様だったらきっと生まれは平民でも強く強く生きるのだろうな…
入学してからクラスメイト1人とも関わっていない彼は平民イジメをしている貴族をゴミを見るような目で見ていた。
私はそれに少しだけ憧れていた。
そして昨日の放課後に夢を見た。だが、所詮夢は夢だ。何も変わらない。私は立ち上がやもう一度防御魔法を展開する。
「じゃあ、次俺ね!いやー魔法には自信あるんだよねー!」
丁寧に詠唱までして魔法を打ち出す。
さっきよりさらに1回り大きい炎の玉が私に迫る。
ああ、顔火傷しちゃうな…制服、大丈夫かな…
そんな心配をぼーっとしながら火の玉を見つめる。
だが、その火は私に届くことは無かった。
ボァァという音を響かせ周りが燃えている。だが、私は燃えていない。いや、私を中心に半径30cm程の円形の防御魔法が出来ていた。
「おいなにやってんだお前ら」
素っ気ない、興味の無さそうな声が教室に響く。
カレン様だった。彼は防御魔法を解くと私を守るように私の前に立った。
「カレン、そこどけよ!何平民なんかかばってんだよ!」
「「そうだ!どけどけー!」」
はぁ、とため息を吐いて
「黙れよ」
その一言だけで教室が静寂に包まれる。空気が変わったような気がした。私には背中しか見えないが、彼は今どういう表情をしているのだろうか
だが、先ほど魔法を打ってきた彼はまだ言い返してきた。
「な、なんだよカレン!平民なんか守ってさ!お、お前そいつの事好きなんじゃねーのか!?」
などと言ってきた。これには流石の私もあまりの失礼さに顔を青くするが、
「ああ、愛しているが。それがどうかしたか?」
え?
「「キャァァァぁぁぁぁァァァァァ!」」
女子たちが叫んでいるのが聞こえるが、私の脳はまだ処理を終えられないでいた。
(ああ、愛しているが?)
(ああ、愛しているが?)
(ああ、愛しているが?)
・
・
何度も頭の中で言葉がループする。理解するにつれて顔が段々と赤くなってくる。
「「ヒューヒュー!かっこいいねー」」
などと言ってくるが、カレン様は冷たい目でただ正面を見るだけ。冷やかしなど彼の耳に入っていないようだった。
「ちっ!何なんだよお前、生意気なんだよ!中級貴族のクセして!偉そうにしてんじゃねえよ!」
「下級魔術学校学則その5。
貴族は学校内では全て平等とすること。
貴族様はこれしきのことも分からないのでございますか?」
男子生徒が顔を真っ赤にして俯いている。その目には涙がうっすらと見える。
「`炎玉よ!我が敵を薙ぎ払わん`!」
声は震えながらも正確に詠唱をしてくる。だが、
「`水`」
カレン様がそう言うだけで日の周りを水が覆い炎は沈下する。
「攻撃してきたな?つまり俺も1発やり返していいんだよな?」
そう言って杖を男子生徒に向ける。
「展開」
それだけで中級の魔法陣が浮かび上がってくる。
本来ならば杖で魔法陣を書くところを全て省略している。まるで悪魔か何かの様だった。
「今なら1度だけチャンスをあげよう。素直に謝れ。」
「だ、だ、誰がそんな、そんなことするか!」
噛みながらも中級魔法を見たことのないので強気に攻めているが、顔は恐怖で染まっていた。
「あー、ちなみにこの魔法が発動した場合この魔法圏内にいる人達全員チリも残らず消えるんでそこんとこよく理解して発言してな」
男子生徒だけでなく周りにいた全員が青ざめる。中には泣き出してしまう者もいた。
「ご、ご、めん、ごめん、悪かった、俺が悪かったからァ!」
完全に怯えきってしまった。
「分かればよし!全員解散!」
ドドドドド!荷物を持って必死に何かから逃げる貴族達。
教室には私とカレン様と静寂だけが残っていた。




