第3話・決着と薔薇の道
アルファ
息子が凄い殺気を当ててくる。これは子供の域を超えている。一体息子には何が取り付いているのか。
色々考えることはあるがまずは目の前のことに対処することにした。
「゛オーバードライブ゛」
やはり使えるようだ。オーバードライブは単純な身体強化魔法だ。体の隅々に魔力を張り巡らせて肉体を刺激して急激なパワーを得る。
「フッ!」
すごいスピードで下から切り込んでくる。剣を当てて受けようとしたが、何故か衝撃が来ない。
その場を素早く飛び退いて上からの攻撃を紙一重で避ける。あのスピードを殺して上に飛び退いたのか。本当にバケモノのようだな。だが、中身はまだ子供。ここで負けるわけにはいかない。明日は筋肉痛だな。
「゛ブースト2゛」
ブーストとはオーバードライブの底上げを出来る。私は4まで使えるが、4を使うと明日1歩も動けなくなってしまうので止めておく。
今度はこっちから切り込む。早さの違いに対応出来なかったようで、不格好な形で受けたカレンの剣が上空に弾かれ、後ろに転がる。
「終わりだ!」
転がるカレンの距離を詰める。勢い的にあと2回転はするだろうと予想する。だが、
「オラぁぁあ!」
転がるいきおいを無理やり止めて腹部にパンチを打ち込んでくる。あまりの強さに数歩よろめいてしまう、そのスキにカレンは後退して剣を拾い上げる。
「はぁはぁ、父上」
「なんだ?」
「それが、父上の剣術の全力でございますか?」
「ああ。」
するとカレンはほんの少し残念そうな顔を作ってこう言った。
「この世の基準が分かりませんが、上級冒険者の父上がこの位置なのですね。1度一番上を見ておく必要がありそうですね。」
「カレン…何を言っているんだ?」
カレンはすぅと息を吸い込んでゆっくりと魔法を口にする。
「゛ブースト5゛」
「ッッッ!」
カレンの姿が消える。首元には固く冷たい物を当てられているのがわかる。
「カレン……お前は一体、なんなのだ?」
声を振り絞って質問をする。
「そうですね。私にも分かりません。早くわかるといいのですが…」
声を沈ませて答える。
私は息子に完敗した。おそらくまだ上があるのだろう。私の息子は常軌を逸したバケモノなのかもしれない。
カレン
帰った俺は泥だらけの体を洗い、布団に寝転がっていた。父上は冒険者である。
冒険者にはランクというものが存在する。
最上級がSランク。このランクのものは国の災害に必ず立ち向かわなければならない。このランクのものはもはや人ではない。
その次がAランク。Sランクには及ばないが国の災害に積極的に力を貸すように言われる。
Bランク、Cランク、Dランクは自分の行けるクエストをよく見極めてクエストに出る。
最低ランクのEランクは街の手伝いなどをしながら自分の腕を磨きDランクを目指す。Eランクは討伐クエストには出られない。
父上はこのAランクのポジションの中の上当たりに位置する。今日の父上は魔剣と魔法を使っていなかったが、剣術であれなら魔剣を使ってもたかが知れているであろう。
次にこの国のことと世界の歴史について説明しよう。(つまらない方は飛ばしてもらっても構わない(天の声))
昔は魔族、人族、獣族と3属に世界は分かれていた。比率で表すならば5対3対2ぐらいだ。だがある日、獣族の王が人族に協力を求めてきた。
「このままでは魔族はこの世界全てを支配するだろう。そうなる前に私たちで手を打とう。魔族の掃討が完了したあかつきには土地は2属で山分けしようではないか。」
との話だ。魔族は数は少ないものの一人一人の能力がとても高い。だが、国2つとなれば話は別だった。だが、魔落ちした勇者の手によって王女と少しの兵を逃がしてしまった。これは勇者の落ち度であり、人族の落ち度であるとして人族は土地の1割を手放し、人族:獣族=4:6となった。
こうして世界は平穏を取り戻した。とあるが、魔族がいた時代にも平和は保たれていたと言える。この掃討は本当に必要だったのか疑問の所だが、そう思うものは俺ぐらいなものだろう。魔族は悪だとそういう風潮がこの世を覆い尽くしているからである。
そして最後に自分の事だ。俺は正直、今を生きてて何も楽しくない。見るものすること全て知っていて、やった事があった気がして。俺はなぜ生きているのか、何のために生きているのか、本当にもうすぐ6歳の子供が考えることとは思えないことを考えてしまっていた。
それから父は相手をしてくれなくなり、アリシャ姉さんのことばかり見るようになってしまった。父さんとは普通に話せるし、特に変わった様子がないように周りからは見えるのだろう。だが、話している本人は言葉に若干の距離感を感じる。だから寂しいということではない。むしろやる気がみなぎっていてここの1年は自分を高めることに専念した。
1年後
「では、行ってきますね」
「気おつけて行くのよ。アリシャしっかりカレンを守ってあげるのよ」
「うん!任せて!」
下級学校(小学校)に通う時期になった。去年からアリシャ姉さんは通っていて、父さんにかまってもらえるようになったアリシャ姉さんはここの所ずっとゴキゲンだった。
俺はかまって欲しいという訳では無いので、これで良かったのかもしれない。
薔薇の道の始まりだった。
学校長の話を聞き、クラスへ戻り自己紹介。
「キャマリー・マロニカです。皆さんどうぞよろしくお願い致します。」
パチパチパチ
「クレア・アリヌスですわ。皆様どうかよろしくお願い致します。」
パチパチパチ
以下略
挨拶の仕方は流石貴族だ。大人に挨拶するようにきらびやかに制服の裾をつまんで見事にお辞儀している。そしてその動きがぎこちないもの。平民だ。
平民が挨拶をすると拍手は起こらない。このクラスは計30人で、25人の貴族と5人の平民がいる。
平民は貴族同士の争いごとを避けるために毎年少しずつ入学させられる。そして入ったら毎日イジメをうけ、次は自分の番では無いのだろうかとぶるぶる震えて過ごす毎日。なんで入ったんだろうな…
俺はこれに関わらないが吉と判断する。
数日たって、授業が始まった。
「では、この国の歴史を皆さんでお勉強して行きましょう!」
「「「はい!」」」
(元気な奴らだ)
俺は窓際の席で1人外を向きハァと呟く。
「コラコラ、カレンさん!授業に集中しないとダメですよ!」
「…はい!申し訳ありません!(こんな授業受けてるだけ退屈なんで帰って良いですか!?中身は先生よりも詳しく全部わかる自信あるんで大丈夫ですはい。)」
俺は黒板を向いて、また窓を見つめるのだった。
数ヶ月後
「行ってきます!」
「……イッテキマス」
「行ってらっしゃい。カレン、辛いことがあったら母さんに話すのよ。何とかするから」
「ハイアリガトウゴザイマスオカアサマ」
なんて言えばいいんだ?俺は下級学校の全てが嫌なので学校を潰してください?
言えるわけないよなぁ?
1-4と書かれた看板を見て全身がグッと重くなるのを感じる。
ガラガラとドアを開ける。すると悲鳴が聞こえる。
「ぐぁぁぁぁぁ!」
「きぁぁぁ!」
今日は男子と女子をくっつけさせて両方から圧迫するというイジメをしているようだ。
くだらない。
だからと言って守ってあげようとは思わない。こんなヤツら数秒あれば皆殺しに出来るが、それをしてなんだという話だ。俺は今日もムシを続け、また窓を見上げるのだった。
放課後
教室に忘れ物をして取ってくるために学校へ戻ってきた。夕日がさし、誰もいない廊下はいつもの騒がしさを忘れさせる良さがあった。
1-4
ガラガラとドアを開けると窓際に本を読んでいる少女を見つけた。まるで本に吸い込まれてしまったように見入っていた。俺が近くに行っても気づくことは無く、俺はこっそり本を見てみた。
【中級魔術の簡易化についての論文】
中級?だって学校ではまだ初級しか…
「キャ!」
そこでその平民は俺に気づいた様で驚いて後ろに倒れそうになる
「おっと!」
俺はギリギリで受け止めて上げる。が、
「あ、あの、も、申し訳ありません!」
「は?」
「その、本に集中してしまっていて、あの、その、入ってきていらしたことに気づかないでしまって、あの」
(ああ、そんなことか)
「くだらない」
「え?」
すっとんきょうな声を出してこちらを見つめる少女
「いいか?くだらないと言ったんだ。」
「く、くだらないとは一体…」
「その目」
そうだ。こいつを見た時に気になったことが一つあったのだ。
「楽しくないだろう?」
「楽しく…ない?」
「この本を見るに君は高度な勉強を求めてこの学校に入ってきた。だが、蓋を開けてみたらどうだった?」
「そ、それは…」
夕焼けに照らされる長い黒い髪。困っている顔。何故か神秘的に見えてしまった。
「レベルが低すぎる。これじゃあ言語の通じない動物の入った檻に入れられているのと変わらない。」
「…………」
「中級魔術の簡易化についての論文、か。これについて語らないか?」
俺は席についてニコッと笑ってみた。
「いえ、私は…そんな身分では…」
「身分とか関係ないんだよ。」
俺は彼女の目を見つめて自分考えを伝える。
「俺は楽しい話がしたいんだ。身分とか、そんなの全然関係なくさ。だってそれって、、くだらないじゃん?」
「くだらない、ですか。」
「ああ、くだらないさ。こんな授業、こんなヤツら、こんな意味の無いイジメ。」
俺が言い終わると少女はうっすらと微笑んで本のページを開いた。
「この文、見てくれませんか?」
「ああ、もちろん。」
俺は学校に少し楽しみを見つけた気がした。




