第2話 自分とは
誰かに呼ばれているような気がする。
だけど誰だかは分からない。
泣いている。
燃えている。
なんで俺はこんな所に。
でも立たなきゃ。
「カレン様、カレン様」
ナヤが俺を呼ぶ声が聞こえる。俺はこのまま起きたくないという気持ちを叱咤して起き上がる。
「カレン様ご夕飯のご用意が出来ました。」
「ああ、ありがとう。」
どんなに運動をしても3食の栄養の摂取は必ず行わなければならない。これを抜かすと体の疲れが抜けなかったり、生活リズムが崩れたりする恐れがあるのだ。
食堂に着く。
姉貴がこちらにチラッと視線を移してすぐに食事に戻す。
「遅れて申し訳ありません」
「少しくらい構わんよ。それよりも遊びすぎて倒れたらしいじゃないか。大丈夫だったか?」
「はい。初めて外に出たので少しはしゃぎすぎてしまいました。」
「気おつけてね。怪我しないように遊ぶのよ。」
「はい。母上」
あいつらめ余計な報告をと、若干寝ぼけた頭で八つ当たりするが、それがあいつらの仕事だし当たり前といえば当たり前なのだがな。
その日は疲れて食事が終わると倒れるように寝てしまった。
次の日から父上と魔法と剣術の特訓が始まった。
午前中だけしか特訓はないが、俺にはやる意味がないと思った。が、ここで普通に発動出来ては天才とか言われてしまいそうで面倒だ。
「じゃあ、まず簡単な魔法から使ってみよう。カレンの属性は火だったよね?」
「はい父様。」
「それじゃあ、杖に魔力を流し込んで暖炉の火が空中に浮いているイメージをするんだ。難しいなら地面でもいいよ。」
ここで発動してしまったらだめだ。だって初めて見る、初めて触る機械を使い慣れているように使ってたらキモイだろう?
「お手本を見せよう。゛ファイア゛」
そう言うと空中に小さな炎が浮かび上がる。
「さあ、カレンもやってみなさい」
頷いて杖に魔力を集中させる。ここで火をイメージ出来なければ火は起こせない。失敗。火は起きない。
「゛ファイア゛」
完璧に失敗出来たはずだった。だって、沈下する火をイメージしたはずだ。なのにどうして
「どぅわっちっちっち!あっついあっつい!」
大爆発を起こしたような火が俺の目の前に現れたのだ
「っ!゛水よ怒り狂う火を沈めたまえ゛」
父親が簡易詠唱をすると火の上から水が大量に流れ出てきて火が消える。
そしてこっちに走ってきて俺の肩をガシッと掴む
「これをどこで教わった!?」
「え?い、今のが初めてですが…」
「初めてだと…今のが初めて…」
何やら父上が1人でブツブツ言い出した。
「カレン、もう1度やって見せなさい。今度は暖炉のような静かな火をイメージするんだよ。」
「は、はい!」
俺は今度こそと思い今度は逆に何も考えずに魔法を口にした。
「゛ファイア゛」
すると…成功した
「やっぱり、こいつは天才だ…」
何も考えなかったのが裏目に出てしまった。今度は完璧に成功してしまった。
「父様、体がだるいです。」
嘘である。幼少期からヒールを使いまくってた俺がこの程度の魔法で魔力が尽きるはずもない。
「そうか、では半時ほど休んだ後に剣術の稽古を始める!」
座って考える。何故成功してしまったのか。答えはすぐに出てきた。ここからは推測だが、俺が記憶喪失だったとして、俺の前世の記憶の人はきっと魔法を成功させる練習ばかりしてきたのだろう。
サッカーで例えよう。いつもいつもシュートをより確実に決める練習ばかりしていると「シュートを外せ」と言われた時に何故かゴールを決めてしまうことがある。
これは練習すればするほど失敗は難しくなる。これが習慣である。
つまり俺の前世の人は魔法をたくさん、数えるのが嫌になるほど練習してきたのだろう。だから失敗しようとしても不完全に失敗してしまったり、何も考えなくてもしっかりと成功したりするのだ。
「俺の前世って一体何だったんだろ」
空は雲一つない晴天で見ていると吸い込まれそうになってしまう。一体自分は何なのか分からなくなる。俺は本当に俺なのか。
「って、中二病じゃあるまいし」
自傷気味に笑ってみる。中二病なんて言葉聞いたことないのに意味がわかる。
「剣術の練習を始めるぞー!」
遠くから父上の声が聞こえる。
剣術の練習はまあ、最初だし予想はしていたが型から入る練習だった。
これがまたつまらないの何の。
そしてたっぷり練習した後に試合が行われた。
「しっかり寸止めするのだぞ」
「「はい!」」
「うむ、では初め!」
こうして姉貴と俺の剣術の試合が始まった。
姉貴は俺が目立ちすぎて自分は愛されてないと思っているのだろう。何かある度に俺に当たってくる。
ここは一つ花を持たせてやろうとと思い負けてやることにした。
「やぁああああああああああ!」
姉貴が切り込んでくる。
ここから2回弾いて俺が後ろに倒れてそれで終わり。
頭ではそう考えていた。だが、体は別に最善の選択を取ってしまう。
姉貴がまっすぐ木刀を振り下ろしてくる。俺は十字になるように剣を合わせて受け流す。その時に姉貴の足を引っ掛けてしまう。
「きゃっ!」
ドサッと後ろで聞こえた。
姉貴すまん。負けようとはしたんだ。割とマジで。
心の中で謝りつつそっと後ろを振り向くと、
「ううううう…」
姉貴が涙目でこちらを見上げていた。
「うわああああああああああああ!」
そして結構泣き出してしまった。その後、姉貴の使用人さんが駆けつけてきて姉貴を引き取っていった。
「さてカレン、あの剣術は一体誰に教わったのかな?流石に1人で学べる範囲を超えていると思うのだが、」
「な、ナヤに教わりました。父様を驚かせたくて、どうでした?」
それっぽい嘘をついてみる。だが、その嘘とは裏腹に自分がどこまで行けるのか試したくなってきた。
「カレン構えなさい。私を驚かせたくて頑張ったのだろう?本気で来なさい。」
父上が構える。だが、腰が高い。
「はい。ですが…」
「?」
「父上は本気でないのですね。」
そう言うと俺は足に思いっきり力を込めて地を蹴った。
木刀を父上の首筋に添えて、
「驚きました?」
笑う。
すると父上の顔が本気になり、殺気がこちらに向けられる。
「ああ、驚いたよ。確かに本気でこいと言っておいて私が本気でやらないのは失礼だったね。すまないカレン。」
おいおい、子供に当てる殺気の量じゃ無いぞこれ。
俺以外の奴だったらオシッコチビってその場で泣いちゃうぞ?
「いえ、お手合わせもう1度お願い出来ますか?」
「もちろん」
父上が構える。今度は本気の構えだ。腰がしっかりと落ちていて顔は鬼の形相だ。
「はあっ!」
父上が先に仕掛ける。だが、
「ッッッ!」
俺は受けるので精一杯だった。なぜなら父上は身体強化の魔法を使ってきたのである。
「本気で、と言っただろう?受けられたのは流石に驚いたよ。これでも割と力を入れた方なんだがな。」
「くっ!」
俺は弾いて1度距離を取る。
なるほど、魔法使っていいんね?いいんだね?だったら俺も。
「゛オーバードライブ゛」
呟いて父上を思いっきり睨みつけた。




