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【1】悪夢

「おら、起きなさい馬鹿息子! 学校に遅れるよっ!」


 目を覚ましたオレは、慌てて周囲を見回す。ここはどこだ? どうしてオレはここにいる?

 見慣れた天井。見慣れた部屋。そして見慣れたおふくろ様が目に入り、ようやくオレは状況を理解する。


 よかった〜〜〜〜〜。夢だったぁ〜〜〜……


「どうしたの馬鹿息子。悪い夢でも見たのかい? 死人みたいな顔してるよ」

「そ、そうなんだよおふくろ! さっきスゲェ夢見ちまったんだよ! それが…あ、あれ? 思い……出せない」

「夢なんてそういうもんだよ。さあ、とっとと着替えて下りといで。早くしないと朝飯抜きで学校に行くことになるからね!」


 風呂場の洗面台で顔を洗いながら、オレは夢のことを考える。不思議な夢だった。あんなにリアルな夢を見たのは生まれて初めてだ。でも、どんな夢だったのかサッパリ思い出せない。生々しい感覚だけは覚えているのに…。一体なんだったんだ?

 部屋に戻ると学生服に着替え、カバンに必要な教科書や筆記用具などを詰め込み、一階に下りる前に、忘れ物はないかとマイルームを見回した時、気になる物が目に入る。あれは……なんだっけ?

 ベッドの枕の側に置かれていたそれは、19世紀の英国紳士が持っている懐中時計に似ていた。だけど文字盤があるべき場所には、大きなボタンが一つ付いているのみ。そしてそのボタンは、5秒に1回の間隔で点滅していた。

 ああ、そうだ。思い出した。オレ、日曜日からアルバイトを始めたんだった。新製品をお試しで使ってみて、アンケートに回答したり、レポートにまとめて提出したりってヤツ。モニターって言うんだっけ?

 ………

 ………………

 ………………………

 ……思い……出した!!

 昨日、一ヶ月ぶりに秋葉原に行ったら、エルフメイドのコスプレをした、スッゲェエロくてスッゲェカワイイお姉さんに声を掛けられたんだよ!

 このお姉さん、ただエロ可愛いだけじゃなくて、コスプレの完成度がスッゲェ高いの! エルフ耳なんて特殊メイクで付けていて、本物かと思うくらいリアルだった! 日本人のコスプレじゃあのクオリティは絶対出せないね。等身からして無理! きっとロシアか北欧出身の美少女が、日本のアニメを好きになりすぎて、オタクの聖地、秋葉原に来ちゃったんだろうね。だけどこのお姉さん、スッゲェ日本語が堪能なんだよ。年を聞いたら「永遠の217歳です♪」とか言い出すし! ちゃんとエルフになりきって返事してくれるなんて、コスプレイヤーの鑑だよね! オレ、マジで感激しちまったんだよ!

 だけど変なこともあったんだ。エルフメイドのお姉さん、オレのことを知ってるっていうんだよ! 1年前に秋葉原で会ったことあるって! ヘンだろ? こんなにエロくてカワイくて萌え萌えキュンな北欧エルフメイドのお姉さんと知り合ってたら、絶対忘れるはずがない! 忘れられるはずがないんだよ! だけど、だけど、こんな綺麗な萌え萌えおねーさんが、ウソをつくはず無いじゃないですかっ! エルフメイドさんに悪い人なんていないんだよ! 

 という事は消去法で、「オレが忘れていた」で確定だコンチクショー!

 そんなわけで、おねーさんを二度と忘れまいと心に誓ったオレは、その御姿を脳内に焼き付けようとガン見していたところ、お姉さんに誘われたんだよ。お試しモニターのアルバイトに。


 いつものオレなら、そんな胡散臭い誘いに乗ったりはしない。だけど誘ってくれたのがエルフメイドさんだよ! エルフメイドさんに悪い人なんていないんだよ! 断れるわけねーじゃんよ! というわけで、オレは誘われるままにホイホイ付いて行ったわけだ。

 辿り着いたのは入ったことのないビルの一室。そこはお試しモニターの説明会会場だった。主催はオトギバナシ商会…だったかな? 多分そんな感じの社名だ。会場には他にも10くらい参加者がいて、オレが最後の一人だったらしく、間もなく説明会が始まった。それでまた驚いたんだよね。おねーさんの上司にあたる人が説明に現れたんだけど、銀髪の老紳士……いや、老執事と言った方が近いかもしれない。背が高くて、姿勢も良くて、礼儀正しくて。でもオレが驚いたのはそこじゃない。老執事な執事さんもエルフ耳だったんだ。エルフメイドのコスプレは、客寄せに十分貢献するから納得なのだけど、エルフ老執事って需要あるのかな? 女の子向けを狙うなら若さが足りなく無いんじゃね? それともオレが知らないだけで、静かなブームなのかな?

 だけどそんな事はどうだっていいんだ。重要な事じゃない。そう、オレはおねーさんを網角膜に焼き付けることで大忙しだったのだ。

 気がつけば説明会は終わり、私の手提げリュックの中には、お試し商品の入った小箱が収まっていた。何かの書類にサインをしたような記憶もあるが、どうでも良かった。JR秋葉原駅の改札口まで見送ってくれたおねーさんの気遣いが嬉しくて、夢心地だったのだ。幸せすぎて降りる駅を通過したことも気付かず、山手線を何周も回り続け、危うく終電に間に合わなくなるところだったが、かまへん、かまへん、それもまた青春の1ページよ!

 なんとか我が家に辿り着き、おふくろ様にこっぴどく叱られたものの、今日も無事に一日が終わった。風呂に入り、歯を磨き、さあ寝ようと思ったその時、別れ際のおねーさんとの約束を思い出す。


「このボタンはね、今夜、眠る前に押すの。絶対よ、絶対押してちょうだい。今はまだ駄目。セーブは4〜5時間かかる上に、少年クンが起きている時だと失敗しやすいのよ。ぐっすり眠っている時が一番安定するの。だから眠る前じゃないと駄目なのよ。だからお願い、眠る前にこのボタンを押すって、おねーさんと約束して。でないとおねーさん、泣いちゃうからね!」


 そりゃもちろん、オレはおねーさんの愛の奴隷ですから、約束を違えたりはしませんよ? しませんともさ! 危なく寝落ちするところだったけど、10分程度で目を覚ましたしっ。寝てませんよ! 寝てませんってば! それにあの時、おねーさんは萌え萌えなメイドさん役を熱演しつつも、目は真剣だった。オレを心配してくれていたのだ。だけど一体何を……。顔が悪いとか? ファッションセンスが可哀想とか? 将来性皆無とか? ………な、なんであれ、おねーさんの愛の奴隷である身としては実行あるのみ。寝る前に迷わず押しましたよ。ポチッとなっと押しましたともさっ!

 そして今に至るわけなのだけれど………

 改めてあの機械を見る。手にとって確かめる。やはり五秒おきに1回点滅する以外は何も起きない。一体何なんだ?

 ええいっ! オレのバーカバーカッ! 何やってんだよ! こういう時のための取扱説明書だろうが! 確かこれを入れていた小箱の中に入っていたはず。………よかった〜〜♪ ちゃんと入ってた〜〜〜♪ オレ、すぐ説明書なくしちまうんだよな〜〜。気を付けなくちゃ。

 それで、この点滅にはどんな意味があるんだ?


 …………ふむ。

 ………………ふむふむ。

 ………ふ?……う!……むぅ…。

 なんて…こった………。

 この説明書に書いていることが、本当に本当なら……

 オレ、死んじゃったのかよ。

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