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異世界落語  作者: 朱雀新吾
魔剣オクラホマスタンピード【死神】
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魔剣オクラホマスタンピード【死神】⑦

「あーあ、聖魔剣だってよ。魔剣の方がダークで良かったんだけどなあ。でもオレの人格がメインで、まだ良かったって事にしておくか」

 大きな口を広げて聖魔剣が言うと、勇者も新たな装備に対する意見を述べる。 

「確かに、聖剣の刀身の蝋燭部分が柄になったから、かなり握りやすくなったな。指が溝にジャストフィットするのよ」

「ケケケ、逆なら最悪だったな」

「ああ、お前のヨダレまみれだもんな」

 そう言って一人と一剣は顔を見合わせて、息ピッタリに笑った。  

「そうだオクラ……でいい……のか?うーん……お前、合体したは良いけど、結局名前は何になるんだよ?」

 ラッカの問いに対して、名も無き聖魔剣はのんびりと一福に答えを振る。

「それはオレを生み出したプクに任せるしかないな。おいプク。格好良いヤツにしてくれよ」

「ええ、かしこまりました」

 快く承諾すると、一福は息を吸い、先程の口上宜しく、厳かに語り始める。


「『魔剣オクラホマスタンピードと聖剣キャンドルサービスが一つとなって、生まれし聖魔剣。その名も…………』」


「……その名も?」

 ラッカも聖魔剣も、興味津々で、その続きを待つ。


「『その名も【聖魔剣オクラホマスキャンダラスサービス】となる』」


「おおい!!ちょっと待てえええええ!!??」

 オクラホマスキャンダラスサービスが、速攻で非難の雄叫びを上げる。

 対する一福は首を傾げ、きょとんとした表情だ。

「え?何か問題でも?」

「あるよ!ありまくりだよ!ないわけねえだろう!!プク!!スキャンダラスサービスってなんだよ!!今すぐ変更しろ!」

「いや、でも決まっちゃいましたし……」

「決まったってなんだよ!!!おい……まさか!」


 慌ててオクラホマスキャンダラスサービスは、自らの刀身を覗きこみ、ステータス表示を確認する。

 そこにはしっかりと、こう明記されていた。


【聖魔剣オクラホマスキャンダラスサービス】

備考:聖と魔が一つとなって生まれた伝説の武器。勇者のみ装備出来る。


「決まっちゃった!決まっちゃったよ!!完全に明記されてます! オクラホマのスキャンダラスなサービスみたいな名前になっちゃったよ!伝説の武器が!このオレが!!」

「まあまあ、良いじゃねえか。オクラはオクラのまんまだからよ。そんな長い名前で誰も呼びやしねえよ」

 口から焔の混ざった唾を飛ばして憤慨するオクラホマスキャンダラスサービスに、 ラッカは笑いを堪えながら楽しそうに言った。

 まだブツブツと文句を言うオクラホマスキャンダラスサービスに、ラッカが続けて質問する。

「で、説明して欲しいんだが、俺の命の灯火がオクラに入ったって事は、結局どうなんの?」

 それに対して、まだ憤懣やるかたない様子のオクラホマスキャンダラスサービスが、渋々と答える。

「ああ……さっきも言ったろ?一蓮托生って事だよ。安心しな。聖剣と一緒だからもう悪さも出来ねえ。更には敵の生命力も吸収出来る様にパワーアップしたから、オレの飢えも押さえられた。つまり、お前の寿命が尽きるまで、オレ達は一緒って事さ」

「ふうん、なるほどな。これからも宜しくな」

 愉快そうに相棒に挨拶をするラッカ。

 そして次に、一福の方を振り向くと、照れくさそうに頭を下げる。


「今回、旦那にはすっかり助けられちまったな。借りが出来た」

「なに、返しただけですよ。今までの借りをね。大した事はしてませんよ」

「いや、十分凄過ぎたけど……。ていうか旦那。さっきの奇跡みたいな魔法みたいなんは何なんだよ。あと……ずっと気になってたんだけどさ……身体がちょっと光ってるの、何で?」

 そう、ラッカの言う通り、先程から一福の身体は仄かに光っていた。

「あはは、これですか?」

 一福はラッカの問いかけに、自分の発光している身体を見ながら、あっけらかんと言い放つ。

「これはですね。どうやら、落語の力を今みたいに都合良く使うと、あたしは人間ではなくなっていく様なんです」

 軽い口振りとは正反対の重大な答えにラッカは驚いて、思わず叫び声を上げる。

「はあ!?マジで!?どういう事だよ?!」

 それでも一福は、淡々と説明を続ける。

「のぶを様が良い例ですよ。のぶを様が精霊になられた様に、あたしみたいな異世界の人間は、異世界の存在というだけでこちらでは不思議な力を持ち、それを多用すると人ではなくなる。あ、ここにも例がいましたね。そうですよね、オクラさん?いや『人斬り小倉宝満(おぐらほうまん)』さん?」

 一福がそう言ってオクラホマスキャンダラスサービスを見ると、聖魔剣は嫌そうに目を細めた。

「ケッ。どこまでもお見通しかよ……。いや、その超感覚も、そういう事なんだな。ぼちぼち精霊化が始まっているのかもしれねえな。いや、プクは更に上の神格化か?」

「オクラさんは、武器化ですか?」

「ハハハ、まあ、そういう事だ」

 オクラホマスキャンダラスサービスがあっさりと認めた新事実に、またまたラッカが驚く。

「オクラ、お前人間だったのか?!しかも、異世界人?!」

「ああ、大昔だけどよ。今はテレビで召喚するらしいが、オレの時はそんなんじゃなかった。特にどちらの世界の誰かの意思でもなく、勝手に召喚されちまったんだ。次元の穴に迷いこんだって感じかな。今のテレビみたいにカタログを選ぶ具合じゃなかったね」


 そうして、元異世界人は、語り始める。


「そりゃあこっちの世界のヤツ等からしたら迷惑で仕方なかっただろうぜ。呼んでもいねえのに異世界から好き勝手に人を斬る、血に飢えた狂人が現れたんだ。他にもネジがぶっ飛んでいる最強を目指す格闘家だとかな」

「格闘家。それが、のぶを様なんですね」

「ああ。のぶをは踵哲学が脳内で極まり過ぎて、ターミナルで新たなイデオロギーを生み出しちまった。だから精霊界からお呼びがかかったんだ。記憶がないのはその辺りの副作用だな」

 一福がなるほどと頷き、オクラホマスキャンダラスサービスに訊ねる。

「では、オクラさんはどういった経緯で魔剣になられたのですか?」

「オレはただ好き放題人や魔物を斬っていて、それを極めていたら、自分が剣になった。一緒にターミナルに召喚されたあのクソ真面目野郎、喜屋武透(きゃんとおる)に人斬りを邪魔されて、壮絶な果たし合いをしているうちにいつの間にか、聖剣と魔剣になっちまったって訳さ」

「なんだよ!?聖剣も異世界人だったのか!?」 

 ラッカが驚いて声を上げる。

「ああ、そうさ。そしてそれからターミナルでの、剣としての人生が始まった。のぶをは精霊、オレ達は魔剣と聖剣。つまりはそう成った(・・・・・)瞬間に、オレ達異世界人はターミナルの存在として認められる(・・・・・)んだ。異世界召喚された人間は、ターミナルにとってみれば異質なんだよ。身体の中に入り込んだ異物として捉えられ、この世界から何かしっくりした役目を与えられる。精霊だったり、剣だったり――神だったりな。まあ随分と潔癖症だよな?オレ達みたいなイレギュラーがいたら落ち着かないんだとよ」

 そう言ってオクラホマスキャンダラスサービスは馬鹿馬鹿しそうに笑った。

「プクの言った通り、異世界人はターミナルでは特別な力を授かる。プクは当然、落語だ。だが、それを多用するとその者はだんだん人間ではなくなっちまう。身に余る力に対してその身(・・・)が足並みを合わせようとするんだ」


 世界が、人斬りを武器と認識してしまう。

 落語を魔法と認識してしまう。

 踵を精霊と認識してしまう。


 それが、ターミナルによる自己調整。異物を自らの理に取り込む儀式。


「そして、こちらの世界でそんな迷惑な異世界人を有効利用しようと考えたのが、どこの国だと思う?ラッカ?」

「……サイトピア……視聴者か」

 オクラホマスキャンダラスサービスは相棒のその答えに、にやりと笑う。

「ああ、その通りだ。召喚術を研究し、偶然、次元の穴で繋がり現れたテレビを媒介にして、ランダムではなく、召喚する人間を自分達で管理し、選別、自国の利益の為に使用する。その任を受けているのが、視聴者って訳さ」

「ダマヤのとっつぁんが?マジかよ」

 にわかには信じられないラッカ。そんな話は今まで聞いた事がなかった。

「そりゃあ、オレ達張本人には知らされねえわな。『凄い力が宿りますが、最終的には人ではなくなります』なんて言ったら誰が協力するよ。だからターミナルでも知っているヤツは限られている。とんでもない人間兵器って訳だ。そこに関してはトップシークレットなんだよ」

「でもよ……」

 その説明にラッカは反論する。

「それをどうやって秘密にするんだ。現に今だって皆知ってるんだぜ?一福の旦那が異世界人だって事をな」

 それに対するオクラホマスキャンダラスサービスの返答は鋭かった。

「おいおい、だったら何で実際にオレやのぶをの事は忘れられているんだ?当時はオレも騒がれたもんさ。『異世界の魔人』って異名でな。だが、今やそんな記憶も人々の中にはない」

「それは……どういう事なんだ?」

 全く理由が分からないラッカは素直に聖魔剣に答えを訊ねる。


「預言師のヴェルツがやるんだよ。ヤツも元は異世界人だからな」


「な……!!なんだって!!??」

 次々と明らかになる新事実に、ラッカが再び叫び声をあげる。


「何だよラッカ、お前さっきから驚いてばっかりだな」

「まったくです。リアクション芸人みたいですね」

 そう言って、一福とオクラホマスキャンダラスサービスは笑いあう。

「いやいやいやいやいや、何だよお前達。驚くだろうがそれは!」

 気がつけば周りは異世界人だらけである。

 どれだけターミナルと異世界の関係は密なのだろうか。


上鶴鷺男(うえつるさぎお)。オレやのぶをよりも後に召喚された、ちんけな詐欺師さ。こっちに来てからその悪知恵を駆使して今の地位を築いたって訳だ。プクに似ているっちゃあ似ているが、能力としては強力な暗示に近い。オレやのぶをなんかと違って、普段から力をセーブしているのと、ターミナルで名前と地位を手にいれているのもあって、ヤツは人外に成っていない」

「はあ。そういうヤツもいるんだ。旦那の『力を使い過ぎると』って言うのはそういう事なんだな」

 ああ、とオクラホマスキャンダラスサービスはラッカの言葉を肯定した。

「まあ、たまに預言と称して力を使い、勇者や救世主を指名する事があるくらいだな。サイトピアに貢献した事を示しておく為だ」

 それを聞いてラッカが呆れた様に自分を指差す。

「はあ?つまり何か?オレは預言師の保身の為に仕立てられただけって事か?」

「ああ、ラッカが普段から考えていた感覚は、あながち間違っていなかった訳だ」

 勇者に仕立てられた(・・・・・・)という思い。それはまさに真実だったのだ。

「プクがこのまま落語をさっきみたいに滅茶苦茶好き放題使い続けていたら、最終的に神になる筈だ。その時はヴェルツの預言の力を使って、プクを太古より存在した『笑いの神イプーク』等とでも言って、ターミナルの『常識』にしてしまうんだろうぜ。それこそオレやのぶをみたいにさ」

「預言師にはそんな凄い力があるのか?それこそ旦那並じゃねえか」

 驚きを隠せないラッカ。そこでオクラホマスキャンダラスサービスは、少し申し訳なさそうに否定の言葉を加える。

「ああ、スマン。ヴェルツがとは言ったが、厳密に言うとそれはちょっと違うんだ。ヴェルツ自身にはそこまで大きな力はない。もしそんな力を持っていて、使っていたら、ヤツもとっくに神々の仲間入りさ。あいつの力は精々、才能ある少年に勇者のレッテルを貼って、本人の努力(・・・・・)で勇者然とさせて、結果、自分の預言を成立させた(・・・・・)体面を整えるくらいだよ。まったく、ペテンもここまで来ると大したもんだがな」

「じゃあ、どういう事なんだよ。どうやってオクラやのぶをを人々から忘れさせたんだ」

「さっきも言ったろ?『ターミナルの意思』ってヤツだよ。異物が異物のまま、つまり『異世界人』っていうレッテルのままじゃ、どうも気持ち悪いみたいでな。だから自動的にイレギュラーを正そうと、変異していった異世界人を、まるで最初からターミナルに存在していた神や精霊の様に仕立て上げちまうんだ。ヴェルツはそれに上手く乗っかって、サイトピアの利益の為に異世界召喚についての隠蔽を謀る。利害の一致ってヤツか?まあ、ターミナルにはそんなつもりはないんだろうがな。結果、国ぐるみ、世界ぐるみの力が働く。オレ達はターミナルという巨大な世界の体内に、自然に取り込まれるんだよ。ほら、ラッカだって感じた事ないか?プクが昔からの知り合いだった様な感覚。言ってみればあれの延長線さ」

「ああ、なるほど」

 その例えにラッカは納得した。確かに一福を極端に身近に感じる事は今まで多々あった。

 それは全てターミナルが一福を自分の範疇に取り込もうとしている結果だったのだ。


 一福が感心した様にうんうんと頷く。

「なるほど。その結果、異世界召喚は無かった事になり、異世界人の成れの果てに関しては『元々そうであった』という体面が保てるという訳なんですね。はあ、無理矢理事実をねじ曲げるとは……なかなかえげつない話ですね」

「いや、さっき勝手にオレとキャンドルをターミナル太古の伝承にしてしまったお前にだけは言われたくないと思うけどよ……。……つまり、プクの力は神に近いっていうのは、そういう事さ」

 オクラホマスキャンダラスサービスはとてつもなく白い目で一福を見つめながらそう分析した。


「でだ、今回は対魔族の戦力としてサイトピアは異世界召喚を試みたんだろうが、よりによってダマがとんでもないヤツを召喚させちまった」

「とんでもないヤツ?あたしがですか?」

 心外そうに自分を指差す一福。

「ああ、お前みたいに口が達者なヤツは召喚したらダメなんだよ。ヴェルツもオレやのぶをみてえな体育会系の単純野郎なら騙しやすいが、お前はそうもいかねえ。いつか異世界召喚の秘密を嗅ぎ付けて、更にはそれをこの世界で言い触らすかもしれない。それは確実にヴェルツの地位を脅かす事になるだろうよ。詐欺師の口と噺家の口。オレの見立てじゃお前の方が能力は格段に上だ。ヴェルツは言った事を『暗示』に変える。プクは言った事を『事実』にする。似ている様で、全く次元が違う。世界の理すら歪曲する。詐欺師以上の存在。それが噺家って訳だ」

「なるほど、なんだか照れますね」

 嬉しそうに頷く一福に、呆れた声でオクラホマスキャンダラスサービスが突っ込む。

「いや、褒めてねえよ。まあそういう訳で、お喋りで、頭の切れるヤツだけは召喚しちゃ駄目だったんだよ。いや、オレも相当お喋りだけどよ。当時はただただすげえ力が手に入ってはしゃいでただけの馬鹿野郎さ。お前みたいに疑問すら抱かなかった。気が付かない方が幸せって訳でもねえ。そんなのただの言い訳さ」

 そう言ってオクラホマスキャンダラスサービスは自嘲する様に笑った。


「これで全てが繋がるって訳だ。だから大臣に召喚は失敗だと言われて、お前もダマも宮廷から遠ざけられているって事よ。お前の力は欲しいが、宮廷に置いておくのは危険だ。今頃必死に、なんとか御する方法でも考えてんじゃねえのか?」

「なるほど、はあ、全て納得がいきました」

 うんうんと頷く一福。

 だが、そこで突然意味深な事を言いだす。


「ただ……本当にそれだけなんですかねえ。あたしが遠ざけられている理由というのは?」


 それを聞いてオクラホマスキャンダラスサービスが笑う。

「おいおい!深読みもそこまでくるとただの疑心暗鬼だぜ?まだ裏があるってのかよ?」

「ええ、多分、ですがね。あたしが遠ざけられている理由。なんとなくですが、魔族さんとの兼ね合いもあるのではないでしょうか?」

 その言葉にオクラホマスキャンダラスサービスは無い首を傾げた。

「魔族?魔族かー。それも胡散臭い話なんだよなー」

 その言葉に敏感に反応する一福。

「ん……?どういう事ですか?」

「うーん、いや…………オレも人間だった頃の記憶が曖昧な点があるからな。なんとなく、その、胡散臭いもんは胡散臭いんだよ!」

「…………」

 オクラホマスキャンダラスサービスの要領を得ない返答に、一福はしばらく目を瞑って何事か考えていたが、パチリと目を開くと、含み笑いを浮かべて再び何度も頷き始めた。 

「なるほどなるほど、やはり……。それを聞いて、ほぼ確信しました……。いやはや、そういう事ですか」

「おい……てめえ、後でこっそり教えやがれ」

「あはは、良いですよ」


 すっかり意気投合した噺家と聖魔剣を、勇者がうらめしそうに眺めている。 

「何ですっかり仲良しなんだよ。異世界人同士だからか?疎外感が半端ないよ」

 ラッカが頬を膨らましてそう言った次の瞬間、ようやく一福から放たれる光が収まった。

「あ、光が収まったな」

「ああ、本当ですね」 

「まあ、プクが人間離れしていく警告って事だろうな。あまり頻繁に使うと、そのまま一生光り続けて、人々から崇め奉られる事になるから気をつけな」

 冷静に分析するオクラホマスキャンダラスサービスの言葉に一度頷いてから、一福は口を開く。

「まあ、今回は特にそれを認識した状態で使いましたからね。ですが、必要な事ではありました。あたしにとっても、この世界にとってもね」


 そう言って一福は何ら気にした様子もなく笑う。それを聞いてラッカは唇を噛み締めた。

「まったく……あんたって人は……」

 

 ラッカは、特殊な力がどうというより、落語の力を「笑い」以外で使う事をあれだけ嫌っていた一福が、その誓約に反してまで自分の命を助けてくれた事が、何よりも有り難く、何よりも申し訳なかった。


「普通に落語を演っている分には大丈夫そうなんですけどね。待っている人がいますから、人間のままでいたいですね」


「そうか分かった!よし、安心しな旦那!」

 そこでラッカが元気よく言い放つ。


「後は俺に任せろ!直ぐにこの世界を平和にしてやるからよ!旦那はのんびり落語演って、人間のままこっちの世界で生きてくれよ。『楽々亭一福』という居場所ならこの世界にとっくにあるんだからよ!今更神になる必要なんてどこにもねえぜ!向こうからやってくる嫁さんと、平和に暮らしてくれ!」


「ええ、それなら安心です。元よりそのつもりです。その為に、今日の無茶は必要だったのですから」

 そう言って一福は穏やかに笑った。


――まったく、この人には敵わねえぜ。

 そこでラッカはある事を思い付く。


「そうだ旦那、俺にも新しい名前をくれよ」

「はい?」

「さっき俺、確実に死んでたからな。名実共に生まれ変わった証として、旦那から名前を貰いたいんだ。オクラやクラみたいにな。あ、落語の力は使うなよ。普通に命名してくれるだけでいいからな」

「なるほど。分かりました。そうですね……」

 ラッカの願いを快く受ける一福。

 しばらく腕を組んで考えこんでいたが、何かを思いついた様に顔を上げた。


「では私の代わりに神と並んでもらいましょうかね……」


「神と?」

 ええ、と一福は頷く。

「これまでがラッカ=シンサ。つまり『神左』でしたからね。左腕という慣用句はないのですが、ここはそれに目を瞑って『神の左腕』という意味としましょう」

「ふむふむ」

「で、それを更に昇華させまして『神と並ぶ武功』を持つ者として『神武』。結局変わるのは一文字だけですがそれに因んで……『ラッカ=シンブ』など、いかがでしょうか?」

 

 一福から提案された名前に、ラッカは爛々と目を輝かせる。


「『ラッカ=シンブ』か……悪くないねえ。ラッカはラッカのままだし。何より忌々しいシンサ一族と決別した感が良いや!よし!今日から俺はラッカ=シンブだ!」

 そうして生まれ変わった勇者、ラッカ=シンブは、高らかに宣言するのだった。



 後世、ターミナル中に伝わる落語「ラッカ噺」。苦悩を抱えながらも明るくひたむきに試練に挑む「シンサ噺」と、真の勇者の道を痛快に突き進んでいく「シンブ噺」で分類され、彼の笑いあり涙ありの波瀾万丈の人生を元にした演目は、ターミナルの人々から永く愛される事となる。



「さあ、新たな勇者の誕生だ!ハッピーバースデーだな、ラッカ。ほら、早くこの蝋燭の火を消せよ!」

 そう言ってオクラホマスキャンダラスサービスがべえと口から出した舌先には、バースデーケーキさながらの、小さな灯火が点いていた。


 それを見たラッカが大袈裟に顔をしかめて言う。


「おいおい勘弁してくれ。もう火を消すのは、こりごりだ」



お後がよろしいようで。

次回、『ダマヤ問答【蒟蒻問答】』でお会いしましょう。

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