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異世界落語  作者: 朱雀新吾
魔剣オクラホマスタンピード【死神】
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魔剣オクラホマスタンピード【死神】⑥

 腹の底から発せられる、よく通る声が、洞窟に響く。


「『その青年は幼き頃より、勇者の烙印をおされ、勇者になる事を義務付けられ、強制され、苦難の運命を歩んできた。

 勇者になって当然。

 なれなければ、用済み。

 それは呪い。

 それは呪縛だった。 

 報われない日々は永遠に続く。

 どれだけ走っても終わりは見えない。

 それどころか、勇者という言葉自体が彼を見切り、身勝手にも、彼の元を離れようとしていた。

 逆境。

 挫折。

 絶望。

 所詮、他人から貼られたレッテル。

 手を伸ばしても、その称号は返ってこない――かと思われた。


 だがその時、苦難の日々が――彼に一つの答えを返す。


 だから、今から起こる事は奇跡でもなければ偶然でもない。

 彼が行ってきた努力の、結果。

 当然の報いである。


 そう、全てが無駄ではなかった。


 ――地ヘドを吐いた修行の日々も。

 ――人々に蔑まれ、嘲られた日々も。

 ――努力が報われないと、絶望した日々も。

 ――彼に想いを託した親友の死も。


 決して無駄ではない。

 全てが、今の彼を形成し、昇華させ――本当の勇者へと歩む為の試練だったのだ……』」


「………………」

 その言葉はラッカの胸に染み込み様に自然に入ってくる。

 暖かな、温もりが広がる。

 

 ラッカの脳裏に、幾つかの光景が浮かんだ。


 幼き日々の苦難。

 絶望。

 諦め。

 そして、親友との出会い。

 すばらしい日々。

 笑顔に満ちた世界。

 親友との別れ。笑顔。


「おいおい旦那…………なにを……まったく、大袈裟に言ってんじゃねえよ。ははは、参ったな。笑っちまうぜ」

「人を笑わせるのがあたしの仕事ですからね。ですが、おやおやラッカ様……これを」


 そう言って、一福から胸元に放り落とされたのは、一枚のてぬぐいだった。


「んだよこれは……?」

「涙を拭いて下さい」

「は?」


 気がつけば頬が濡れていた。


「……んだよ。だから何でいつも勝手に泣いてんだよ、 俺は……」


「さてと、では火をこちらへ……」


 一福は地べたに横たわるラッカの手に乗せられた、今にも消えそうな火を聖剣に移し、そのままラッカに肩を貸して支え起こす。

 聖剣を掲げ、共に見上げる。


「これぞまさにキャンドルサービスですね。明るく燃えて……勇者の命の灯火に相応しい、焔です。では再び……」

 そう言って一福は先程と同じ様に、口上を述べだす。

「『魔が支配する死の灯火、それを聖剣に移し一つとする。さすれば聖魔も一つとなりて、勇者は真の勇者となり、生まれ変わるであろう。これはターミナルに太古より伝わる言い伝えであり……』……」


 そこで思わずオクラホマスタンピードが突っ込みを入れる。


「おいプク。お前何を適当な事を言ってんだよ。そんな言い伝えターミナルにはねえだろうがよ……一体全体何の台詞だよ?」

「決まってるでしょう?落語ですよ。そうですね異世界落語『魔剣オクラホマスタンピード』とでも名付けましょうかね。知ってますか?落語にしてしまえば、何でも都合の良い事になるんです」

 飄々と返答する一福を、オクラホマスタンピードはキッと睨みつける。

「プクてめえ、落語は皆のものだって、都合良く使わないってこの前言ってたんじゃねえのかよ。それに使うと色々と駄目な事になるってのも、たった今言ったばかりだろうが!」

 魔剣の非難の言葉を、一福は涼しい顔で肯定する。

「ええ、その通りです。落語は皆のものです。つまり、あたしのものでもあります。あたしも今まで随分落語に尽くしてきましたから。ラッカ様じゃありませんが、たまには見返りを頂いても構わないんじゃないでしょうか?折角培った芸を、友だちの為に使ってもバチなんざ当たりませんよ。と言いますか、こんな時に役に立てずに、一体何の為の芸と言えましょうか。その為なら、禁忌だって犯しますよ。噺家なんざ、元来エゴの塊ですからね」


「……なんつう理屈だよ。言っている事が滅茶苦茶だ、コイツ」


「オクラさんだって『友喰い』なんでしょう?ああ、なるほど。これは丁度良い異名じゃないですか」

「ぶは!!」

 その言葉を聞いて、ついにオクラホマスタンピードは呆れた様に笑った。

 一福が自分をどうするつもりなのか、気が付いたのだ。

「なんつうこじつけだ!…………。いやはや、分かったよ。好きにやりな。どうせ誰も邪魔出来ないんだ……早くオレに新しい役を与えてくれや」


 一福はニッコリと微笑むと、直ぐに次の手順を作り出す(・・・・)


「分かりました。では『聖剣の火を魔剣が喰べ、取り込み、【聖魔剣】となる……』」


 そう言うと、オクラホマスタンピードの大きな口に、ラッカの命の灯火を継いだ、聖剣を突っ込んだ。

「おごがご…… 」


 魔剣は苦しそうに、ゴクンと聖剣を飲み込む。

 次の瞬間――その全身から光が溢れ出す。


 聖魔が合体して、変容し、みるみる新たな剣となっていく。


 黒い刀身は漆黒ではなく、黒水晶の様な高貴な輝きを放つ。

 その刀身からはみ出さんばかりに裂けた口、ギラギラした牙に瞳は健在である。

 違うのは、その口の隙間を縫う様に、真っ赤な焔が溢れている点。

 それは勇者の命の焔。燃え盛る生命の躍動が剣の体内に宿ったのだ。

 そして聖剣の蝋燭の様な刀身は剣の柄の部分へ転換していた。

 

 魔剣の刀身に聖剣の柄。勇者の命の焔を血の様に循環させる。

 聖魔剣の誕生であった。


「さあラッカ様。この剣を装備されて下さい」

 一福が渡そうとするが、ラッカは弱々しく首を振る。

「いや、でも、俺は装備が……」


「『生まれ変わった勇者ラッカは聖魔剣を装備する事が出来た』」

 一福がそう口ずさみ、ラッカに剣を手渡した瞬間、全身に力がみなぎった。

 一福の言う通り、聖魔剣を装備する事が出来たのだ。


「そもそも装備出来ない筈がないんですよ。その剣にはもう、ラッカ様の命の火が灯っているのですから」

「これは……すげえ。何だよこの力」

 いつの間にか、ラッカの身体に傷はなく、体力も回復していた。


「おいラッカ、魔物が襲ってくるぞ」

「ん?」

 聖魔剣から教えられ、ラッカが正面を見た時には、目の前にエンシェントスライムが槍の様な形状をして、顔面を狙って来ている寸前だった。


――避けられない。


 ラッカがそう思った次の瞬間、聖魔剣の口から煌煌と吐き出される焔がラッカの身体を包み込んだ。

 エンシェントスライムの槍は、その焔に触れた先から蒸発していき、そのまま勢いよく焔に飛び込むと、一瞬で溶けて消えた。


「おお、マジかよ……すげえな」


 ラッカは何もせずに強敵を倒した事に驚き、自分の全身に帯びている焔を見つめる。

 そのままその焔は、ラッカの鎧や額当て等、防具にも纏わりつき、まるで装備の錆を落とす様に、色が白銀に変容し、赤い焔のシンボルが刻印されていく。

 その変化にラッカは感嘆の声を上げる。

「おお……防具にまで効果があんのかよ」

「ケケケ。キャンドルの野郎はその名の通りサービス精神旺盛だからよ」

 聖魔剣が、当然だと言わんばかりに自らの同体について説明する。


 そして全身を巡ってフォームチェンジを完成させた焔は、そのまま刀身に宿った。


「軽い。まるで羽を握っているみたいだな」

「お前の命の焔なんだ。まさにお前そのものって事よ。まあ、こうなったらオレはこの命の焔を燃やしつくし、食い尽くすまで、離れられなくなっちまったって訳だ」

 聖魔剣はそう言うと爽快に笑った。

「新しい役だよ。聖魔剣だってよ。なんだよ、まるで正義の味方みてえだな。まあ、これからもよろしくな」

 その、まるで人が――いや、剣が変わったかの様な現金な豹変ぶりに、ラッカも思わず笑い声を上げる。


「ハッハッハ!――――こちらこそよろしく頼むぜ、相棒」


 握手代わりに、ブンと聖魔剣を片手で振るうと、そのまま魔物と対峙する。


 プレミアムゴーレムが拳を大きく振りかぶり、隕石の様にラッカの頭上へと落とす。

 ラッカはそれを、左手で軽々受け止める。

 身体が地面と共に沈むが、ラッカ自身に負荷はない。

「どうやら、ステータスも爆上がりしてるみたいだな」

「当たり前だろう!お前は死んで生まれ変わったんだよ!」

 ラッカはそのままグッと拳を握る。すると、ゴーレムの右手はまるで砂の様に砕けた。

「ハアッ!」

 後ろ斜めに体重移動しながら剣を振りかざし、袈裟懸けに薙ぐ。

 ゴーレムの肩がゴトリと斜めに崩れ落ち、残ったパーツも数秒遅れて、全て砂になった。


 背中に誰かの気配を感じる。

――来る。

 後ろ向きのまま片手で攻撃の初手を受ける。

 首だけ振り向いて見ると、ゴッドゴブリンだった。

 ラッカの隙を突き、背後から襲ってきたのだ。

 

 攻撃を防がれたゴッドゴブリンが驚きに目を見開き、バックステップで間合いを取る。

 その隙にラッカは振り返り、正面で対峙する。

 次の瞬間、ゴッドゴブリンが一歩で距離を詰め、ラッシュが襲ってきた。

 だが、先程とは違う。ラッカにはその動きがしっかりと視えていた。

 冷静に判断しながら、戦う。

 相手の右突きを左手刀で落とし左突きをそのまま返す左で弾く。鋭い前蹴りを剣の柄ではたいて、回し蹴りをしゃがんで避ける。次に一瞬で数十発放たれる拳のラッシュをバックステップしながら優雅に躱す。

 ラッカをムキになって追いかけるゴッドゴブリンの身体が前のめりになる。

 それを待っていたラッカは、目の前に差し出される形となったゴッドゴブリンの手首をグッと掴むと、力を込めて捻り上げ、後ろ手に捕まえる。

「捕まえたぜ」

 耳元でそう囁くと、ラッカは直ぐに手首を掴んでいる手を前に送った。

 ゴッドゴブリンが回転しながら振り返り、ラッカの正面を向く。

 すぐに反撃しようと腕を振り上げたその瞬間、みぞおちに蹴りを放った。

 ゴッドゴブリンは物凄いスピードで吹き飛ばされ、そのまま洞窟の岩へと身体を叩きつけられた。震動で天井からパラパラと岩の破片が落ちてくる。

 ゴッドゴブリンは壁に飾られた状態でめり込んだまま、動かなくなった。

 

「ん?」

 ふと肩を見ると、トリッキーエンジェルがふーふーと顔を真っ赤にして聖魔剣に帯びているラッカの命の焔を消そうと頑張っていた。

「コラッ!!!!」

 それをラッカは大声で叱りつける。

 するとトリッキーエンジェルは天使の様に愛くるしい顔に驚いた表情を浮かべたかと思うと、みるみる泣きべそをかき、号泣しながら飛び去っていった。


 先程とは打って変わった人間に、一筋縄ではいかないと悟った残りの魔物は、同時に間合いを詰め、周囲を取り囲む。

 力を溜めて、一斉に襲い掛かってきた。


 シャカラビットの「シャイニングシュ(閃光きゃ)

 地獄ナイトの「ヘルシングスラ(地獄ぎ)

 ホーリーアンデットの「ホーリーメテ(聖なる鉄つ)

 ハイネスパンプキンの「カオスキッチン(最期の晩さn)

 ガーゴイルウルフの「ギガンティックボ(遠b)



「…………遅い。悪いな。斬るぜ。『秘技キャンドルサーベル(披露焔)』」


 身体を一回転させながら、一気に剣を振り抜いた。


「……………………!!」

「……………………!!」

「……………………!!」

「……………………!!」

「……………………!!」


 取り囲んでいた全ての魔物の胴を斬ると、斬った部分から焔が上がる。

 焔は瞬く間に燃え広がり、魔物達は灰になった。


「すげえ……なんだよこれ」


 ラッカはつい先程まで全く歯が立たなかった敵を、たった数分で全滅させた新しい力に、驚きを覚えるばかりであった。

 噺家はパチパチと手を叩き、生まれ変わった勇者を祝福していた。


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