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異世界落語  作者: 朱雀新吾
魔剣オクラホマスタンピード【死神】
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魔剣オクラホマスタンピード【死神】③

 その落語を観ている勇者を、オレは背中の特等席から眺めていた。


 ヤツが何を考えているのかは分からない。

 当然、気がついているだろう。

 だが、もう手遅れだ。


 どうしようもない所まで、お前は足を踏み入れてしまったんだぜ、ラッカ。


 いつだってそうだ。気がついた時には手遅れ。

 これなら、気がつかずにそのまま手遅れだった方が良いぐらいだな。


 順風満帆な勇者道。素晴らしい事だ。

 だが、勇者につきものなのは栄光だけじゃあないんだよな。


 当然、挫折もあるわけよ。


 このオレ、魔剣オクラホマスタンピード様にも、あったようにな。



「死神」を観た後、ラッカは無言で席を立ち、酒場の出口へと向かう。

 そこで、クラとすれ違う。この前ラクゴを演った事で一躍人気者になっているクラの周りには取り巻き連中が沢山群がっている。

 クラはラッカに何か話しかけようとしていたみたいだが、ラッカは下手くそな気が付かない振りで、そのまま横を通り過ぎ、店を後にした。


 そうそう、それがいい。

 気が付いていない方が、幸せなんだよ。


 ―――――――――――――――


 自分の実力が頭打ちになった事をラッカが感じたのは、マドカピア領へと足を踏み入れてからだった。


 そりゃあすぐに分かっただろうな。見たこともない、強い魔物がウジャウジャ現れたんだからな。

「へ、こいつは一筋縄じゃいかなくなったぜ」と本人はヘラヘラ笑っていたが、身に染みた筈さ。

 言い知れない焦りと、その奥にチラチラと見え隠れする「絶望」としっかり目が合っただろうぜ。

 密接ではないが、魔剣と装備主という関係で、ある程度のリンクをしているオレにも心の声が聞こえてきたぜ。


――もっと力が欲しいってな。


 皮肉なもんだぜ。ようやく真っ当に、世界を救う勇者になろうと思い始めたが故に、心に闇が生まれる。力を欲しがる。

 そして魔剣のオレはそこを的確に突いてやった。


 オレはヤツにこんな話を持ちかけた。

――ラッカ、実はオレには特殊な能力があってな……


 ヤツはすぐに飛び付いてきた。

 そうさ、あの時のあいつなら、必ず乗ってくると思ったからな。


――お前に、死神が視える様にしてやろう。


――死神?


――ああ、もし死神が頭にいたら、儲けもんだ。それは相手がお前よりステータスが低い魔物だっていう証拠さ。なんと、一発で倒せる。


――何?一発で?


――ああ。だから、今から教える呪文を唱えてオレを振りな。呪文は『アジャラカモクレンダイオキシンテケレッツノパ』だ……。


――何だよそれ、馬鹿馬鹿しい……。


 最初は笑っていたラッカも、結果的に冗談半分という大義名分でオレの言うことを聞き、直ぐに新技を活用するようになった。


 随分と楽になっただろうよ。

 例え倒せる相手でもあそこ(マドカピア領)でまともにやりあってたら、かなりの時間が掛かるし、体力もそこそこ消耗する。


 それが呪文一つで一撃必殺で倒せるとなったら、格段に時間短縮、体力温存が出来る。

 戦略的視野が広がるってもんよ。


 だが、オレはちゃんとラッカに忠告したんだぜ。

 それこそ、ラクゴよろしくな。


――でだ、ラッカ。死神が足元にいたらだがな……。


――死神が足元だったらどうなんだよ?


――足元にいたら、お前では絶対に勝てないという事だ。全速力で逃げな。死神でも足にしがみつくしか出来ない強さって事よ。分かりやすいだろう?ヘヘヘ。


 

 賢いヤツはもう気が付いていると思うが、つまり、枕元と足元の意味合いが、ラクゴと逆なんだな。

 いや、原則としては間違っちゃいないのか。

 ラクゴは生かす為だから足元が当たり。

 こっちは殺す為だから頭が当たり。

 

 こちら側の都合だな。


 それから何度戦ったかね。


 ラッカ自身も手応えを感じた筈さ。

 これなら、何とかなるかもしれねえってな。


 だが、絶望の足音ってのはそう簡単に遠ざかってくれる生易しいもんじゃねえ。

 また直ぐ、ラッカの背中にソイツは忍び寄ってきた。

 

 どういう事かって?

 決まってんだろう?

 

 ラクゴと同じさ。


 マドカピア領を更に進むにつれ、頭ではなく足元に死神がいる事が増えたんだ。


 初めはラッカもオレの言うことを素直に聞いて、逃げたさ。

 戦闘センスの塊みたいなヤツだからな。死神が足元にいるかどうかわざわざ確認しなくても、自分に敵う相手かどうかは、対峙してみれば分かっただろう。


 次の敵からも逃げた。


 次の次も。


 だが、次の次の次の次くらいになって、戸惑い始めた。


 勝てる魔物がいないんだ。

 ただ逃げ回るだけの勇者に何の意味があるよ?


 頑張って何度か戦ってはみたが、当然敵いっこない。

 ナナやレフがいたってどうしようもない。

 確かに協力して倒せる魔物もいた事にはいたが、勇者には勇者のプライドがあるって訳よ。

 いやはや、しち面倒くさいもんだよな。


 どうしたもんか。

 表面上はヘラヘラしながらも、ラッカは色々と思案し始めた。

 オレを捨てようかとも考えた。

 オレが常にラッカをエナジードレインしている事が原因だと感じたみたいだな。

 それって逆なんだけどな。オレがラッカの莫大な生命力を貰う代償に、ヤツは莫大な攻撃力を手に入れているんだ。

 ラッカとオレ、この世界でこれ以上相性の良いコンビはいないくらいなんだぜ。

 最強コンビなのよ。


 つまり、どういう事か分かるかい?

 どうしようもないんだよ。

 行き止まりさ。

 どん詰まりだよ。


 かといって、魔物が倒せないからと、そのままのんびり足踏みしている訳にはいかねえよな。

 ラッカ様は勇者様。

 国の希望を一身に受けてんだからよ。


 あーあ、本当に可哀想によ。

 ラッカは前にも後にも進めなくなっちまったって訳さ。



 話は変わるが、オレだけが知っている事がある。

 ラッカは自分が聖剣を装備出来ない事を知っていた。

 聖魔の洞窟で初め、ラッカは聖剣を手に取ったんだ。だが、装備出来なかった。

 だからあいつは仕方なくオレを選び、16ヒップで聖剣を売り払ったんだ。

 内心ショックだったろうぜ。

 勇者である事を否定されたようなもんだからな。


 だからこの前、プクのラクゴでその聖剣が返ってきた時はさぞや迷惑だったろうぜ。

 極めつけはプクが装備出来るって事実。

 ハハハ、全く、救われないヤツだ。


 能力に関しての話だが。

 クラが血だとしたら、ラッカは素質だ。

 血と素質じゃあ、言葉の響きだけで優劣が分かるわな。そうでもないって?まあ、血にもよるからな。

 だけどクラは魔王の血だぜ?

 何の文句もないわな。

 それに対してラッカは、ただの素質。

 そんな人間が預言師に指名されただけで血ヘドを吐く様な努力を強いられて、それである程度、サマになるようになるなんて、本当にたいしたもんだし、同時に不憫なもんだぜ。


 これはもう預言師が悪いとしか言えない。


 あいつの言葉には強制力がある。

 勇者と言われたら、勇者になるしかないように、仕立てられる。

 予知や預言と言うよりかは、呪いや催眠に近いんだ。


 敵わない魔物達と出遭い、行き詰まり、ラッカは、自分が本当に勇者なのか、悩みだした。


 以前の、勇者が何だ救世主がなんだとウジウジしていた、モチベーションが無い状態とは違う。

 モチベーションがあるのに、勇者として、使命を果たす気満々なのに、唯一意識に足並みが揃わない。つまり、実力が伴わない自分(・・・・・・・・・)に苛立ちを感じていやがるんだ。

 さぞ悔しいだろうな。

 やりたい事がはっきりしてるのに、自分の力不足で、やれないんだからよ。

 自分の所為なんだから誰にも文句を言えやしねえ。


 だが、それでも敵を倒さない訳にはいけない。

 亡き友への想いを胸に……ってやつか。

 泣かせるねえ。


 完全にメッキが剥がれた勇者。


 さあ、どうするべきなんだろうか。


 ラクゴの「死神」はどうしたっけな?


……そう、そこでヤツは裏技を編み出した。


 それに関してもラクゴを観る前に、自分で気がついたんだからたいしたもんさ。

 前のめりでも前屈みでも、とにかく前に行こうとするラッカの気概は物凄い。

 そういう意味では、預言師の選択もあながち間違ってはいなかったと言える。



 足元に死神がいる、敵わない魔物との戦闘で、ラッカはナナにこう言ったんだ。



――お嬢ちゃん、あいつを風魔法でひっくり返してくれ!ってな。



 倒せない魔物でも、ひっくり返したら頭と足は入れ替わる。

 死神が頭に回ったその瞬間に「アジャラカモクレン……」と魔法を唱えて、剣を振る。

 すると、どうやっても倒せなかった魔物が一撃で消し飛んだんだ。


 ブラボーだぜ。

 凄い機転だ。


 そして、あの時のラッカの顔ったらなかったぜ。

 心底ホッとした顔してやがんの。

 笑いをこらえるのが大変だったぜ。

 で、ドヤ顔で言ってくる訳さ。


――なあオクラ。どうだよ?こうすればいいんだろ?


 それに対してオレはこう答えた。


――ああ、たいしたもんだよ。よく考えたな


 それだけ。それ以外、オレは何も言わなかった。

 心の中で、しめしめと笑っていただけさ。


 それからラッカは、敵わない相手には天地をひっくり返して呪文を唱える様になった。


 その度に禁忌に触れているとも知らずにな。


 いや、実は頭の冴える勇者様は、薄々気がついていたのかもしれねえがな。

 見て見ぬ振りってヤツよ。


 だが、ラッカは今日プクの演じる「死神」を観て、流石に完全に理解しただろうよ。

 己の結末に。


 

 まったく、知らない方が良い事ってのは、本当に世の中に存在するんだよ。



 ―――――――――――――――


「おい、ラッカ。どこに向かってんだよ」


 極楽酒場を出て歩いているラッカに、オレは答えが分かっていながら、ただの嫌がらせで訊ねる。


「ふん、分かっているんだろう、オクラ」


「…………ケケケ」


 分かっている。ラッカが向かっているのは、聖魔の洞窟だ。


 オレ達が初めて出会った場所。


 

 ああ、そういえば「死神」でも最後は洞窟だったなあ?

 

 こいつは奇遇だぜ。

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