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異世界落語  作者: 朱雀新吾
魔剣オクラホマスタンピード【死神】
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魔剣オクラホマスタンピード【死神】①

 マドカピア国謁見の間。

 そこでは、サイトピアに潜入している間者がマドカピア王に報告を行っていた。


「陛下、朗報でございます」

「何だ。聞かせてみよ」

「なんと、王子は今、宮廷任務を離れているようでして」

「何だと?」 


 それを聞いたマドカピア王の片眉がピクリと動く。


「宮廷にいない。では一体どこだというのだ?」

「はい、主に城下町にいます」

「何?城下町?」

 それなら、間者も普通に顔を確認出来るし、接触の機会もある。まさに朗報と言えた。


「王子は、ハナシカなる者と行動を共にしている様です」

 ハナシカという言葉に王は苦虫を噛み殺した様な表情を見せる。

「ハナシカ……。ラクゴか……。前回の火属性障壁の際には裏をかかれ、煮え湯を飲まされたな」

「はい、ですが今はそのハナシカなる者のおかげで、王子が手の届く場所におる次第であります。王子を奪還する隙があるか機会を窺っておりますが、護衛についている者がなかなかの手練れでして、厳しいものがあります。その護衛にはもう何十人もの間者が返り討ちにあっておるのです」

「そうか。それはひょっとしたらサイトピアの秘密部隊かもしれんな……。まあ、焦るな。好機は必ずやってくる。サイトピアへ一斉に攻め入るその時、王子を取り返すのだ」

「は!」


「しかし何故ハナシカなぞと……」

 王の疑問に、間者が少々歯切れ悪く答える。

「それは…………異世界召喚の儀に王子が大きく関わっているからでは、ないでしょうか」

「なるほど……。召喚師だからな」

 間者は王子自らが先日ラクゴを行ったという事に関して、マドカピア王に伝えられなかった。

 前回、ラクゴにしてやられた王から、怒りを買うかもしれないと思ったのだ。


 マドカピア王は精悍な表情のまま、左手で顎を触り、思案する。

「しかし、ハナシカの力にも興味があるな。技や魔法を生み出し、兵法にまで通ずる秘術。異世界召喚の儀に関してもだ。なんとか手中に収めたいものだが……」

 それには傍らにいる宰相が声を出した。

「では、サイトピア襲撃の際には、それらに関しても同時進行で事に当たらせましょう。優先順位は当然『王子奪還』『ハナシカ』『異世界召喚の儀』の順で……」

 その提案にマドカピア王は荘厳に頷いた。


 続いて、間者が王にある人物について訊ねる。

「陛下、勇者ラッカ=シンサについてはどういたしましょう。奴にはこれまで、かなり戦力を削られてきました。私にお任せ下されば、奴の寝首を掻いて御覧にいれましょう」

 それにはマドカピア王は全く興味なさそうに首を振る。

「奴なら放っておいて大丈夫だろう。マドカピア領に入ってから、どうにも苦戦しているようではないか」


 以前の報告でそれを聞き、王は勇者ラッカにとっくに見切りをつけていた。 


「あれも所詮は預言師によって作られた勇者。一種の魔法、貧乏くじの様なものだ。己の本来の限界を知り、勝手に命尽きる事だろう。もうよい、下がれ」


「は!」

 間者が膝を尽き頭を垂れる。直ぐに立ち上がり、風のように退室した。


「では、私も、シーンダ将軍やケス=シノ参謀殿と、今陛下より伺った御命令のご随意となります様に作戦を練って参りましょう」

「ああ、頼んだぞ」

 

 宰相も謁見の間を出て行き、一人残されたマドカピア王は、自らの息子である、王子について考えていた。


 王子が無事であるのは知っている。

 平民以上の地位を与えられ、特に不自由ない暮らしをしている事も。


――ふん、忌々しい。何のつもりだ……。


 穢れた血を持つサイトピア王族の事だ。

 王子の存在をちらつかせる事で、マドカピア軍侵攻の抑止力にしているのだろう。

 全く、いつまで経っても汚い策を駆使する、唾棄すべき種族である。


 だが、人質がいて、迂闊に手を出せないのは事実。だからマドカピア王は軍をまず他の国に向け、次々に落としていき、周りから勢力を固めていったのだ。


 先日、ドワーフ国を奪還されたが、今となってはどうでもいい。


 元々、目的はそんな所にはない。


 ただ、王子を救い出す。


――クランエよ。無事でいてくれ。必ず……救いだしてみせる。


 マントの下に隠れた王の右腕は肩から下が無かった。

 古い傷跡を手のひらで撫で、王は正面を睨みつけ、呟く。


「忘れんぞ、この痛み、この憎しみ…………裏切りを」


――見守っていてくれ、サイケデリカ。

 胸元から取り出したロケットを開くと、そこには美しく高貴な、女性の肖像画が描かれていた。


 魔王と呼ばれ、ターミナル中で恐怖の対象とされている男。

 マドカピア王。ショウエン=イビル=マドカピア。


 その瞳には、限りない憎悪と幾許かの悲しみが、宿っていた。


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