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異世界落語  作者: 朱雀新吾
踵裁き【天狗裁き】
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踵裁き【天狗裁き】⑧

 洗濯物を全て干し終え、縁側から居間へ上がった小春。時計を見るが、晩御飯の支度にはまだ早い。


「師匠、小春お嬢さん」


「…………!!」

 

 聞こえる。


 やはり、小春の聞き間違いではない。確かに声が聞こえる。

 その証拠に七福も、目を見開いて周りを見回し始めた。

「この声はイチだな。テメエどこで何してやがった」

「イチさん!どこにいるの?」

 七福は怒った様に、小春は震える様な、今にも泣きそうな声で、それぞれ呼び掛ける。

「ご心配をおかけしたみたいですね。本当にすいません」

 まだ声が聞こえる。どうやら受け答えも出来るらしい。

 小春が辺りを見回して訊ねる。

「声だけしか聞こえない?イチさん、どういう事?」

 明らかに不思議な事が起きている。だが、それよりも小春は一福が生きているという可能性に、何よりの喜びを覚えた。


「まず、どこで何をという師匠のご質問に答えますと、あたしは今まで、異世界で落語を演ってました」

 その言葉に、七福は唖然とする。

「はあ?突然何言ってんだお前。大丈夫か?あの世にいて『地獄八景』演ってるなんて言ったらしょうちしねえぞ!!誰が信じるかよそんな事」

 七福が顔を歪ませて文句を言う。だが、一福は構わず説明を続ける。

「信じられないのは分かります。ですが、小春お嬢さんの質問へのお答えが、そのまま証拠になるかと思われます」

「どういう事?ねえ、イチさん、どこにいるの?声しか聞こえないよ」

「ええ、ですからあたしが今どこにいるかと申しますと……」

「分かった。魔法で異世界から話しているとか、透明になって浮いているとか言うんだろうがよ」

 七福が再び茶々を入れる。

「いいえ、違います。異世界からでもありませんし、透明でもありません。あたしは今――師匠の踵にいます」

「はあ?」

 呆れた様に口を開く父親を尻目に、すぐさま小春が回り込み、正座している七福の踵を見る。


 そこには、言う通り、一福がいた。


「イチさん!!」

 七福の踵から、小さな一福の顔が生えている、と表現するのが一番分かりやすい説明だろう。決して気持ちの良い眺めではなかったが、それは間違いなく一福であった。

「へ、『人面瘡』かよ!ふざけやがって。何で膝じゃねえんだよ」

「本当にイチさんだ。お父さん。異世界っていうのも嘘じゃないのかもしれない。何で踵なのかは分からないけど」

「ああ、そればっかりは全く分からん。本当に、何で踵なんだよ」

 しきりに頭を傾げる親子に、一福は真面目に説明する。

「それは踵属性魔法で一時的にこちらに召喚して頂いているからです。簡単に説明しますと、異世界には五つの魔法属性がありまして。風、水、火、土、踵です。今は踵の精霊のぶを様の御好意で、こちらの世界に顔を出している事になります」

「踵属性魔法!?踵の精霊のぶを!?何なのそれ?全然思い描いている異世界像と違うんだけど!」

 一福が説明すればする程、小春は混乱を極めてしまう。それも無理の無い話であった。


 だが、そこは年の功。父親の七福は訳の分からない踵の説明等には早々に見切りをつけ、ただ一福の無事を喜んだ。

「まあ、異世界だろうがなんだろうが、生きてたんなら何よりだよ。うんうん」

「師匠……」

 短い時間で、七福は全てを受け入れていた。

「踵にいようが、異世界にいようが、無事なら何よりだよ」

「……ええ、ご心配をおかけしました」

 その言葉に、親としての、全てが詰まっていた。


「で、どうなんだよそっちは。剣と魔法でよろしくやってんのか?大体異世界召喚っつったら『おお、貴方様こそ伝説の勇者です』と持ち上げられて、特別な力で大活躍するもんなんだろう?」

 一福は年寄りがよく知っているものだと感心したが、そういえば七福は結構なゲーム好きで、稽古の合間を縫っては熱心にコントローラーを握っていたのを思い出した。

「いえ、剣や魔法はあたしは全くです。先程も言いましたが、相変わらず、落語を演らせて頂いております」

 それには思わず七福も吹き出した。

「お前!異世界に行ってまで落語やってんのか?言葉通じんのかよ?」

「ええ、不思議な事に、言葉は日本語なのです。ただ文化は違いますので、異世界風にアレンジして演じてはいますが」

「ふうん。英語落語みたいなもんか。文化が違えばそのまんま演っても意味分かんねえからな」

「ええ、ですがちりとてちんはそのままで演ってみましたよ」

「へえ!どうだったよ」

「勿論、受けましたとも」

 自信満々に答える一福に、七福がうらめしそうな声を出す。

「そうかい。俺は、こないだ小学校で演ったけど、子供が走り回る騒ぎ回るで、全然受けなかったぞ!んだよ 、それなら俺もそっちでやりてえよ」

 師匠の軽口に、一福は思わず笑った。


「元気そうで良かった。事情も分かった。もう十分だ。本当に……良かったぜ。ずっと俺の脛かじってたヤツが、今では立派に踵で落語演ってるとはねえ。たいしたもんだ。『脛かじりの踵出世』とは言ったもんだ。いや、言わねえけどよ。今日から俺が最もらしく言う事にするよ。誰も信じねえだろうがよ。で、いつ異世界から帰って来れるんだよ?」

「それがですね……」

 一福は七福と小春にターミナルの事情を説明した。 

 帰って来るには専用の召喚リングが必要で、そのリングに魔法が溜まるまで、10年かかる事を。

 それには七福も驚いた。

 

「なんだよ、すると帰って来れるのは、10年後って事か」

「ええ、そうなんです」

「10年はちいと、長いわなあ」

「そうですね。師匠はきっと生きてはいないでしょうね」

 一福が軽くそう言うと、七福は飲んでいたお茶を吹き出した。

「てめえふざけた事言ってんじゃねえぞ。俺はまだそんな年齢じゃねえよ」

「いや、お父さん結構な年よ。10年後っていったらもう65歳じゃない。普通ならそんな年でもないけど、普段から不摂生な生活してるんだから分からないわよ。でも、うん。私は待ってるから。イチさん、10年でも20年でも……」

「ありがとうございますお嬢さん。ですが、あの、失礼ですけど、小春お嬢さん。……御結婚は?」

 一福は、小春がこの家にいる事が、ずっと不思議だった。

 こちらとターミナルの時間の流れが同じなら、とっくに向こうの家に嫁いでいる筈だ。


「ああ、あの話ならお断りしました」


 小春があっさりとそう答えたものだから、一福は驚く。

「え?断ったんですか?」

「ああ、それからというもの、業界の楽々亭一門に対する圧力が凄い凄い。いや、こいつはとんでもない奴を敵に回してくれたよ」

 そう言って、七福は全然困った風でもなく、愉快そうに笑った。

「え、いや、何でまた。そんな、え?」

 何故か一福一人が狼狽えている状況となる。小春が平然と理由を述べる。

「決まってるでしょう?家族が失踪したのよ。結婚どころじゃないわよ。それに実際乗り気じゃなかったし。だから、きっぱりと断りました。後はお父さんの言った通り。楽々亭一門は干されているって訳。業界大手プロダクションの顔に泥を塗った曰く付きの娘なんか、もう誰も貰ってくれやしませんよ。全部イチさんの所為だからね」

「すいません……本当に、申し訳ない」

 全ては自分の所為だ。一福は心底申し訳なく思い、小春に頭を下げた(実際には踵を下げた)。


 小春はそれに対してうむと胸を張って答えると、次にこう言った。


「はい、待ってますから。早くそっちの世界を救って、帰ってきて下さい。その時はイチさん、責任を取って私をお嫁さんにして下さいね」

「…………は?」


 唐突にそんな事を言われ、一福は口をポカンと開ける。


「いなくなって気がついたの。やっぱり私はイチさんが良い。絶対イチさんじゃなきゃダメ」

 狼狽えながらも、一福は反射的に小春の言葉に反論する。

「いや、お嬢さん。何を言ってるんですか?前も言ったでしょう?兄妹は結婚出来な……」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」

「出来る」

「出来ません」


――なんだ、このどこかで見た様なやり取りは……。


 ふと考えたその隙を突いて、一福は小春に顔をペシリと叩かれた。同時に七福が声を上げる。

「いてえ!こら小春。俺の踵でもあるんだからな!」

 父親の非難を無視して、小春は頬を膨らませ、キッと一福を睨みつける。

「もう知らない!兄妹だって、血も繋がってないし、お父さんの養子でもないじゃない!いつもそうやって逃げて!私の気持ちから逃げて、挙句の果てに異世界にまで逃げ出しちゃって!」

「いや、それについてはあたしも勝手に召喚されただけでして……」

 一福の言い訳など聞く訳もなく、小春は話し続ける。

「私も一遍は諦めた。ただ元気な姿で会えれば良いって思った。でも、今顔を見てやっぱり気が変わったの。二度と会えなくなるって事が世の中にはあるんだって……知っちゃったからには、諦めちゃダメなんだよ、きっと。じゃないと……一生後悔する」

「お嬢さん……」 


 その瞳に、あの日と同じ悲しみは、既に宿っていなかった。


 そこにあるのはそう――前を見つめる決意のみ。


 その華奢で、小さくて、今にも折れそうな身体から一福が感じるもの。


 それはただひたすらにひたむきな……強さだった。


「だから、せめて気持ちだけでも聞かせて。私の事好き?好きでしょ?イチさん、良いんだよ。無理しなくて良いの。私の事、好きって言っていいんだよ」

「あの……小春お嬢さん。顔が近いです」


 一福はそれだけ言うと、しばらく黙りこんでいたが、遂に意を決した様に語り始める。


「……いえ、吃驚しました。あたしも同じことを考えておりましたから。向こうである落語をした時に、波の様に後悔が押し寄せたのです。あの時、嫌になる程気がついた筈なんですけどね……。あたしはまた罪を重ねる所でした。これではクランエ師匠に会わす顔がありませんよ」

「え?クラン……?」

「いえ、こちらの話です」

 一福はフッと笑ったかと思うと直ぐに顔を上げ、小春を見つめて言った。


「お嬢さんの事を、ずっと、お慕いしておりました。勿論、今でも。そしてこれからもです……」


「イチさん……」

「前は酷い事を言って、申し訳ありませんでした。頭を下げます。許して頂けないとは思いますが……」

「そんな事どうでもいいの。だったらお嫁さんにしてよね。世間体だとか、気にしないで。もう楽々亭一門には飾り立てる世間体なんてものはないわ。だってずっと干されているんだから。だから大丈夫」

「小春お嬢さん……」

「イチさん……」

 そうして二人は熱く見つめあう。

 まるで、世界に二人しか存在しないかの様に、見つめあう。

 ただただ……見つめあう。


「……あの、お二人さん。親の踵の前でそんなに盛り上がらないでくれますか?」


 そこへ七福が咳払いをして、言った。


「あ、師匠、いたんですか?」

「あ、お父さん、いたの?」

「いたよ!!言っとくけど一番近くにいたからね!」

 七福は最高のタイミングで突っ込むと、それから直ぐに大笑いを始める。


「はっはっは!イチよ、こりゃあ観念するしかねえな。こいつは死んだ母親に似て、こうなったらとことん頑固だからよ」

「……知ってますよ。ええ、ようく知っています」

 普段はどちらかと言うとおっとりしている性格なのに、小春はいざとなったら絶対に譲らない。


 幼い頃、レストランで一福が七福に気を使ってハンバーグを頼まなかった時。

 授業参観のプリントを隠して見せなかった時。

 高校へ進学せずに働くと言い出した時。


 小春は今みたいに一福の目を真っ直ぐ見据えて、問い詰めた。


 そう――それは全て、一福が本音を偽った時である。

 その頃から、一福は小春には敵わなかった。

 今更、気持ちを隠しきれる筈がなかったのだ。


「お前達は、お似合いの夫婦になるよ。俺が保証する」

 嬉しそうな七福に、一福は神妙な顔で言う。

「師匠。ご安心下さい。師匠がいなくなった後は、小春お嬢さんはあたしが幸せにしますから」

「10年後俺が死んでんの前提かよ!お前はどんだけ俺に死んでいて欲しいんだよ」

 七福は文句を言い、その仕返しとでも言わんばかりに、とんでもない事を口にする。

「ええい! そん時はついでだ!七福の名もやるよ!」

「ええ?宜しいんですか?」

 ああ、と大きく頷く七福。そして、更に驚くべき事を口にする。

「あと、俺が死んでんなら……いや、どちらにしたって一緒だ。お前、こっちに帰ってくんな……。こっちはこっちで宜しくやっておくからよ」

「え?」

 一福は七福が何を言ったのか、理解出来なかった。

「だから、小春をそっちに連れてってやれよ」

 その言葉に小春が手を挙げて直ぐに反応する。


「あ!私行きたい!!異世界見てみたい!異世界の花嫁になる!」


「いや、そんな関西から九州に嫁ぐぐらいのノリで言われましても……」

「行くの!決めたの!」

 小春の瞳は、先程と同じく硬い決意を宿していた。

「師匠……余計な事を……」

 こうなったら止められないのは分かっている。一福は七福に恨めしく言う。


 だが、当の本人はどこ吹く風。涼しそうに一福に笑いかける。


「いいかイチよ。お前がそっちの世界に行ったのは事故でもなけりゃ偶然でもない。呼ばれたんだよ。落語の神さんによ。そっちの世界で落語っていう最高に愉快で面白いもんを伝えてやれってな 。噺家としてこんなに嬉しい事はねえだろうがよ。更に、そん時七福って名が異世界に残るとなったら、へへ、最高だよ」

「師匠……」


「異世界に帰ったらすぐに弟子でもとりな」

「弟子……ですか。まだあたしには百年早いですよ」

「そんな事言って、てめえ、心当たりある声してんじゃねえかよ」

 七福は弟子の表情も見ずに、声の響きだけで全てを見透かした様に笑った。


「さあ、これで何にも思い残す事はねえな。安心して明日にでもポックリいけらあ。俺とお前は今生の別れってヤツよ。だから……しっかりやれや……バカ息子」

「師匠……」


 今生の別れという言葉に、流石に二人の間にしんみりとした空気が流れる。


「テメエ、いくら寂しいからって人の踵を勝手に濡らすんじゃねえよ」

「ええ、大丈夫です。全く泣いてませんから。というか師匠、先程からあたしの頭の上の方から滝の様な水が流れてきて困ってるんですけど」

「馬鹿野郎。どんな泣き方すれば自分の踵が濡れるってんだよ!」

 それを聞き、一福の表情がみるみる青ざめる。

「え……それじゃあこの水はひょっとして……。師匠、とんでもない嫌がらせを思い付きましたね」

「漏らしてねえよ!」

「いえ、師匠は今年漏年ですから。漏らしたに違いない」

「訳の分かんねえ事言ってんじゃねえよ!なんだよモルドシって」

「はっはっはっはっは!!」


 師匠と弟子。


 親と子。

 

 二人はお互い、顔を見合わせる事なく、ただただ涙を流しながら、しばらく憎まれ口を叩き合っていた。




《一福様!そろそろ時間ばい》


「ああ、そろそろ時間みたいです……」

「そうかい。それじゃあ達者でな」

「ええ……師匠も、酒の飲みすぎに注意して下さい」

「……ああ」

 もう飲んでねえよ、と七福は言い返さなかった。


「ああ、お嬢さん。忘れてました。異世界に来られたいのでしたら、それまでになんとかして定期的にN〇Kに映る様になっていて下さい」

「え?何それ?イチさん今さらっと結構大変な事言ったよ?」

 小春が慌てふためくのに構わず、一福は更に七福に別の事を訊ねる。


「あ、そういえば師匠。踵関連で『のぶを』の名前を持つ偉人っていませんでしたっけ?」

 その問いに七福は即答する。

「『踵の魔術師高遠(たかとう)のぶを』だろう?戦前に活躍した、伝説の格闘家じゃねえか。俺も当然この目で拝んだ事ないけど。ガキの時分に『国宝のぶをが行方不明になった』って報道されていたのを聞いた記憶はあるな。大のお笑い好きで、先代か先々代の寄席によく来てたってのを聞いた事があるから覚えていただけの話だけどよ。それがどうしたよ?」

「……いえ、なんでもありません。ありがとうございました」

 それだけ言うと、一福が七福の踵から、すうと消えていった。


「おいおい…………行っちまったのかよ」

 七福は呆れながら呟く。


「何よあの人。最後まで踵の話で終わっちゃった。ムードも何もないんだから」

 小春はそう言って、少し泣きながら、笑った。



  ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆ 



「……様。……一福様。そんな所で寝ておられてますと、風邪を引きますよ」

「……え?」  

 目を開けると、そこは極楽酒場だった。

 店主の人の良さそうな顔が、少し心配そうに覗きこんでいた。

 ゆっくりと身体を起こす。

 一福が横たわっていた場所は、高座のど真ん中。

 どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい。

 それを見つけて店主が起こしてくれたのだ。

 周りを見ると、客は愚か、ラッカ達も既にいない。

 窓の外はすっかり夜が更け、月が昇っていた。


「どうやら、寝てしまっていたようですね……」


「一福様。夢でも見ていらしたんですか?とても楽しそうに笑っておられましたよ」


「………………」


 店主がそう訊ねると、一福はしばらく空に浮かぶ月を眺めた後、優しく微笑んで言った。


「ええ……見ていました。とても幸せな、夢を」



  ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



――異世界に行くって言ったけど、十年後といえば私は35歳。何とか早めに向こうに行く方法はないのかしら。

――というか、N○Kがどうとか言っていたよね。

 N○Kに定期的に出る様になるには、アナウンサーか……噺家か、タレント。

「…………」

 どれも高いハードルである。

 それに今、楽々亭一門は完全にテレビを干されている。

 どう考えても無理の様な気がする。

 ならば、何かのエキストラや、通行人がよく映る番組を探し、その収録場所に通う。

 多分、それが一番現実的だろう。

――変な目で見られるよね、きっと……うーん。


 ああでもないこうでもないと、考えながら晩御飯の支度をする小春。

 ふと何の気なしに戸棚を開けると、日本酒の瓶が目についた。

 小春は七福に声を掛ける。


「あ、お父さん、どう?イチさんが無事だったお祝いにさ、久しぶりにお酒でも?」


 それに対して七福は首を横に振り、これが言いたかったのだと言わんばかりに、最高のドヤ顔でその台詞を口にした。


「いや、飲むのはよそう。……夢になるといけねえ」



おあとがよろしいようで。

次回『魔剣オクラホマスタンピード【死神】』でお会いしましょう。

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