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異世界落語  作者: 朱雀新吾
聖剣キャンドルサービス【火焔太鼓】
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聖剣キャンドルサービス【火焔太鼓】②

 しばらくして、イヘブコに連れられ大司祭がやってきた。

「おお、これはこれは今巷で話題沸騰の『ハナシカ』ラクラクテイイップク殿ではないですか」

 部屋に入ると直ぐに一福を認めて、気さくに話しかけてくる。

「まあ、そなたはワシの事は覚えてはおりますまい。ですから初めまして、と言っておきましょうかね」

「あたしが召喚されてこの部屋に通された時、窓際の一番奥におられましたよね?身なりからして魔法使いさんの上級職とお見受けしますが。しっかりと覚えてますよ。お久しぶりです」

 爽やかに笑いながら即座に返答する一福に、大司祭は目を丸くする。そして、顎に蓄えた髭を愉快そうに揺らした。

「ふっふっふ。どうやら噂以上の御仁と見える。大臣殿も、いよいよ年貢の納め時ですかのう」

「大司祭様まで、おかしな事を言わないで下さい」

 悪戯っぽく笑う大司祭に、大臣は毅然とした態度で反論する。


「ふっふっふ。で、姫様。この老体に何の用があるのでしょうかの?」

「ああ、悪かったのう。実は頼みと言うのは、そなたに映像魔法で一福の落語を国中に流してもらいたいのじゃ」

「な………!」

 その提案に大臣が直ぐに異議を唱える。

「失礼ながら姫様、映像魔法による国営放送では、もう何度も呼び掛けました。『勇者が道具屋に売り払った聖剣を探している。見つけた者には褒美も取らす』と。それでもいまだに情報が全く入ってこないのですよ」

 大臣の言葉をサブリミナルはふんと鼻で笑い飛ばす。

「情報が来る筈なかろう。国営放送など、誰も聞いてはおらんのだからな」

「え、何故です?」

 大臣の驚きの混じった疑問に、サブリミナルはあっけらかんと答える。

「決まっておろう。面白くないからじゃ」

「面白くない……?」

 大臣には全く意味が分からない。

「姫様、何を仰ってらっしゃるのですか。面白いとか面白くない等という話ではないのでは?」

「いいや、面白い面白くないの話じゃ」

 サブリミナルはきっぱりと断言する。

「そもそも市民は国営放送など聞かん。自分達の暮らしとは無関係と思っておるからの。『どこそこの貴族が何歳を迎えた』だとか『宮廷内に花を植えた』だとか、そんなものに一体誰が興味を示すのじゃ?今後我々は、古くさい因習を捨て、もっと国民の暮らしに密接した情報発信を心掛けないと駄目なのじゃ。ダマヤから聞いたのじゃが、異世界の国営放送はその点でもターミナルの100倍は進んでおるぞ。様々な生活の役に立つ情報を発信する『ためしてガ○テン』等というプログラムは、人々の抱える多くの疑問や悩みに実験や解説を加えて最後には必ず観ている者に『ガッテン』と思わせるものと聞く。これぞまさしく純然たる市民の味方。ああ、一度観てみたいものじゃ……」

 恋する乙女の様に頬を赤く染め、うっとりして手を組み天を仰ぐ姫。

「『国の為の国営放送』か『国民の為の国営放送』か。一文字違いじゃが、それは大きな違いじゃろうが」

「『ためしてガ○テン』ですか。いやあ、渋いですね姫様。いや、あたしも大好きですけどね。噺家の大師匠も出てますし」

 一福は懐かしそうに笑いながら、姫に同意する。

「我々も変わっていかねばならんのじゃ。それこそがサイトピアの未来に繋がると、わらわは信じておる」

「……姫様」

 変革を恐れないサブリミナルが大臣には眩しくて仕方がない。

 そして、昔仕えていたある方の事を思い出していた。


――サイケデリカ様……。姪御様は、貴方とよく似ておられますな。

 今は亡き、国王の妹、サイケデリカの事であった。彼女もまた、世界を変える夢を見ていた女性であった。

「女性が強い世は平和の証拠」と言うのは昔からよく聞く格言だが、それが強くなり過ぎると平和を通り越し、目まぐるしい世界の変化に巻き込まれる事になる。サイケデリカはまさに後者であったと大臣は確信している。


 物思いに耽り黙っている大臣の思念を振り払う様に、肩にポンと手を置き、大司祭がこんな事を言い放った。

「さあ大臣殿、賭けといきましょうかの。ワシは明日までに聖剣が見つかる方に賭けますぞ」

 その言葉に大臣は飛び上がる勢いで驚く。

「明日!?無理に決まっております!」

「では、わらわも明日に賭けようかの」

 サブリミナルが片手を上げてそう宣言すると「では私も」とイヘブコやミヤビも同じく明日までに聖剣が見つかる方に賭け始める。


……正気の沙汰ではない。

 大臣は思った。


「不可能だ。これでは私の総勝ちですぞ!」

 そう大臣が叫んだ瞬間、一福がしめたとばかりに笑った。

「賭けは成立ですね。ではあたしが明日までに聖剣を見つける事が出来ましたら、ダマヤさんを宮廷に復帰させてあげて下さい」

「何!?」

 大臣はおのれの迂闊さを呪った。何とも安い挑発に乗ってしまった。

 だが、普通に考えて明日までは無理に決まっている。

 勝って当然の賭けなのだ。

 大臣はそう思い、渋々賭けに乗る事にした。


「では、この部屋で一席ぶたせて頂きますが、床に座布団でも置けば雰囲気は良いですよね。ダイレクトなリアクションがないのは久しぶりですが、まあ、生放送のテレビ収録と思えば良いでしょう」

 一福が呟くと、大司祭がある提案をしてきた。

「ああ、一福殿。では、どんなもんなのか、一度試しにやってみましょうかの。ウツシヨノミヲワレニ……」

 大司祭ともなれば無詠唱でも魔法を発動出来るのだが「詠唱は魔法のイメージを広げる」という教えを説いている手前、せめて短縮詠唱は唱える様にしている。

「映像魔法ビジョン」

 執務室の壁に向け、サッと指を振ると、そこに楕円形の光のスクリーンが生まれた。

 

 その中には、大空の下に立つラッカの姿が映っていた。


「まあ、こんな感じですじゃ。一福殿の時は送信のみにしますが、今は相互送受信にしておりますので、少し話し掛けてみましょうかの。おーい、ラッカ。元気にしておるか」

〈あん、誰かの声が聞こえてきたな。誰だよこんな忙しい時によ〉

「ワシじゃよ。ハポウじゃ」

 その声に、ラッカの口許がホッと緩む。

〈ああ、大司祭のじっさまかよ。んだよ。こちとら絶賛戦闘中なんだけどな〉

 見ると、映像の先ではラッカは魔剣を振るい、モンスターを斬り伏せている所だった。


「はあ、しっかり映るもんですね」

 壁に映る鮮明な映像を見て、一福は感心する。

「一福様、折角ですからラッカ様に聖剣について聞いてみましょう」

 そう言うとイヘブコは一歩前に立ち、映像のラッカに向かって話しかける。

「ラッカ様、イヘブコです。実はラッカ様が売り払ったという『聖剣キャンドルサービス』の事についてお聞きしたいんですよ」

〈ああ?イヘブコ。そんな事の為にわざわざじっさまに魔法使わせてんの?お前も偉くなったもんだねえ〉

 異形の骸骨騎士の剣戟を受け止めながら、ラッカは溜息をつく。

「私じゃありませんよ、一福様にも関係する話なのです。聞かせてください、聖剣の特徴を。どんな形の剣なのですか?」

〈ええっとね、なんだか、こう……ぐるぐるぐるっと、トグロ巻いていてな。ウンコみたいな剣だったよ〉

「ウンコみたいな聖剣がありますか!」

 イヘブコが突っ込みを入れるが、ラッカは首を振って更に主張する。

〈いや、本当なんだって、道具屋の親父ともそれで一時間くらいバカ笑いしたもん〉


「名前が『キャンドルサービス』というぐらいだからの、多分蝋燭の様な形なのじゃろう。それをラッカは幼子の様にウンコと言ってはしゃいでおるのじゃ」

 大司祭がのんびり言うと同時に、少女の鬼気迫る声が映像から聞こえてきた。

〈勇者様!あのゴーレム強すぎますよ!早くあの新必殺技をお願いします!〉

 ハーフエルフの少女、ナナセがフレームインしてきた。額に汗をかき、焦っている様子だ。

〈あいよ。だけど、こいつはプレミアムゴーレムじゃねえか。俺でも倒せないかもな……。よし、お嬢ちゃん、なんとかして引っ繰り返せ!〉

〈はい!ジンさん、お願いします!〉


 ナナセがステッキを振ると、風属性魔法で逆さまになるゴーレム。

〈オクラ!頼むぜ!〉

〈ケケケケケ。まいど〉

 ラッカは魔剣を構えると、何やら呪文の様な言葉を唱え始めた。

〈アジャラカモクレンダイオキシン……〉


 そして、ラッカが技を放つ瞬間――映像は途絶えた。


「試験放送はこれぐらいで良いでしょう。さて、イップク殿、こちらはいつでもよいですぞ」

「…………」

 一福は大司祭の言葉が聞こえていないのか、先程まで映像の映っていた壁をジッと見つめている。

「イップク殿?どうされましたかの」

 そこで、ようやくハッと我に返る。

「……ああ、すいません。分かりました。すぐに始めましょう」

「あまり長時間だと魔力が持たないので、大体10分程度でお願いしますぞ」

「10分ですか?」

 それには一福ではなく、イヘブコが驚いた声を出す。

「今から一福様が演ろうとなさっているネタ『聖剣キャンドルサービス』は20分の落語です。せめてあと10分。いえ、5分なんとかなりませんか?」

「大丈夫ですよイヘブコ先生。なんとかしましょう。少し端折らせてもらっても良いですか?」

「それは構いませんが……。時間短縮を考えながら、アドリブで演られるのですか?」

 不安そうなイヘブコを安心させるように、一福は笑顔を見せる。

「テレビに尺はつきものです。懐かしいですね。テレビ出演はたまに入る大仕事でしたけど、その時でもやはり注文はあったものです。『芝浜』を5分でやってくれと言われた時には流石に参りましたけどね」

 そう言って一福は懐かしそうに笑うのだった。

「そういうものなのですか……」

「ええ。……あ!そういえばあたしは今着物じゃありませんね」

「あ、本当ですね!うっかりしていました。どうしましょうかね……」

 まさかこの場でいきなり落語をやる事になるとは思っていなかった一福。ようやく購入した革の服を着ている事を完全に失念していた。

 二人が困っている所に、大司祭が割って入る。

「どれ、こんな感じでしたかの……」

 大司祭が簡単な詠唱を唱えると、一福の身体が光に包まれ、身に着けている革の服がみるみる着物に変化していった。

 それはいつもの一福が着用している橙色の着物ではなく、今着ていた革の服の素材で仕立てられた、言わば異世界とターミナルのハイブリッドな着物であった。

 一福は袖を掴み、自分の身体を見回すと、大いに感心する。

「はあ、これは便利ですね」

「創造魔法です。イメージがあれば、大体の物は作れますぞい」

「では今度、黒紋付に羽織を是非お願いしたいですね」

 呑気にそう言いながら、一福は床に置いた座布団の上に座った。

「ああ、あと、ちょいと不適切な言葉にはピーを入れてもらいたいんですけど」

「ふむ、お安い御用ですじゃ。イップク殿が喋りながら願えば、そこでピーとなる様にしておきましょう」

 一福の注文を大司祭は快諾する。

「おいお主。国営放送で何を言いだすつもりだ」

 不穏な言葉を大臣が聞き逃す筈もなく、突っ込みを入れるが、一福は「いやいや、ご心配なく。その為のピーですから」と笑うだけだった。


「では参りますぞ。ワシが魔法を唱えた瞬間、全国民の家の壁に一福殿の姿が現れますぞ。では10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ウツシヨノミヲワレニ……映像魔法ビジョン」


 これが、一福が極楽酒場以外で落語をするのと同時に、宮廷放送で初めて落語が披露される、歴史的瞬間であった。

 その記念すべき、初めの一言を、一福は発する。


「えー、どうも皆さん。毎度お馴染み宮廷放送のお時間です。お相手はあたくし、異世界からの使者、楽々亭一福でお付き合い下さい」


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