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異世界落語  作者: 朱雀新吾
抜けドラゴン【抜け雀】
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抜けドラゴン【抜け雀】⑤

「それから数日が経ちました。ここでドワーフ王の登場です。冒頭で述べました通り、ドワーフ王は息子の王子を探しに来ていた訳です。強大なエンシェントドラゴンの力を制御出来ない為、修行をさせようと泣く泣く城を追い出した。憎いからではありません。全ては次代の王になってもらう為。泣かせるじゃねえですか。長い間の武者修行でいつか力をつけて帰ってきてくれたら良い。ですが、そうも言ってられない事態が起きました。そう、魔族さんの侵攻ですね。ドワーフ国の奪還作戦にはやはり王子の力が、エンシェントドラゴンが必要だと王は考えておりました。そんな時、サイトピアの城下で夜、ドラゴンが暴れているという噂を聞き付け、いてもたってもいられず、お供もつけずに単身ドワーフ王は飛び出し、噂を訊ね歩いて、なんとか極楽酒場にたどり着きます」


『おお、お主。聞かせてくれ。夜な夜なドラゴンが暴れるという宿はここか?』

 昼頃に極楽酒場についたドワーフ王は、店の中にいた奇妙な服を着た男に話し掛けた。

『ええ、そうですが』

『そうか、ここか。……噂を頼りにようやくたどり着いたか』

 ドワーフ王は感慨深く呟く。

『よし、ドラゴンの件で困っているであろう。すぐに私が解決してやろう』

『解決……ですか。「契約印付の手綱」を描かれるのですか?』

 その言葉を聞いてドワーフ王は驚きを隠せない。

『お主、何故それを……一体何者だ』

 だが、奇妙な服を着た男はその問いには答えず、ブツブツと独り言を口にしている。

『いえ、まあまさかこういう事があるとは……。こういう解釈と言いますか……。うーん、あたしもまだまだ修行が足りませんねえ』

『何を言っておるのか。まあいい、早く案内するのだ』

 男の言っている事の意味が分からず、はやし立てるドワーフ王。

『ああ、王子なら二階にご宿泊されておられますよ』

『そうか。二階だな』


 ドワーフ王が急いで階段を駆けあがっている途中、何者かに声を掛けられた。  

『よう、遅かったじゃねえか、ドワーフ王』

 見ると、階段の踊り場の窓外に、一人の若い男がいた。

 ドワーフ王はその男の軽薄そうな笑顔に見覚えがあった。

『お主は……ラッカ=シンサか』

『ああ、久しぶりだな』

 片手を上げて応える勇者ラッカ。だがおかしい。今彼がいる窓外は一階と二階の間。つまり空中である。よく見ると、勇者ラッカがふわふわと不自然に揺れている事に気が付いた。

 不思議に思い、ドワーフ王は窓へ近づき、外を見た。


 なんと、勇者ラッカはドラゴンに跨っていたのだ。

 間違いない。息子ミギチカのエンシェントドラゴンである。


『な、まさか』

 ドワーフ王がすぐに考えたのは、ミギチカが手綱を描いたのではないかという可能性である。

 だが、ドラゴンに手綱はついていない。どうやら手綱を描いた訳ではなさそうだ。


――だが、手綱を描かず、あれだけ強大なドラゴンと対等に戦う等……。いや、勇者ラッカならば、可能かもしれん。

『ミギチカよ!嘆かわしい。勇者ラッカの武に頼りおったか!』

 そう叫ぶドワーフ王を、勇者ラッカは鼻で笑い飛ばす。

『何言ってんの。あんなの俺でも無理だよ。あんな化物と互角にやりあうなんてよ』

『だが、実際に今お主はドラゴンを使役しておるではないか。ならば、二人で力を合わせたというのか?』

 それにも勇者ラッカは大きく首を振って否定する。

『違う違う。契約の儀ってのは一対一でしか成立しないんだろう?じゃねえと百対一で勝てば使役出来る事になるじゃねえか。後、ご存知の通りミギチカはまだ物は描く事が出来ない。ていうかドラゴンしか描けない。さあ、ではどうやって、とんでもなく馬鹿強いドラゴンを手懐ける事が出来たのでしょうか?』

 得意顔でツラツラと喋り、ドワーフ王に質問する勇者ラッカ。


『ならばどうやって……?ううむ、分からん!分からんぞ!』

 ドワーフ王は必死になって考えたが、さっぱり分からない。


『ふっふっふ。聞いて驚け。答えは、馬鹿強くて一対一じゃ到底敵わないから……二対二にした、でした』

『二対二だと?』

 その答えにドワーフ王が更に混乱した次の瞬間、勇者ラッカとドラゴンの上に大きな影が差した。 

 同時に、羽音がもう一つ重なって聞こえてくる。


『父上!お久しぶりです!ミギチカです!』

――この声は……。

 見ると、ミギチカがドラゴンに乗って降りてきた。


 それにはドワーフ王も驚きを隠せない。

『まさか……どういう事だ。エンシェントドラゴンが……二匹?』


『つまりこういう事だ』

 勇者ラッカが説明をする。

『元々、ドラゴンが強大過ぎたんだよ。俺が貰おうかと思ったんだけどよ……マジでどんだけ頑張っても歯が立たねえの。それに、ミギチカも王子としての立場があるだろう?。だから……半分、分けてもらう事にした』

『神獣を分けるだと?そんな事が可能なのか……』

『可能も何もあんたの息子がやった事だよ。「二面鏡のダブルドラゴン」ってな。ちなみに俺のがレフトドラゴンで、ミギチカのがライトドラゴンな。頭は使いようだぜ?』

『……そうか!ドラゴンを二匹描いたのか!!』

 ようやくからくりが解けたドワーフ王は、思わず叫び声を上げた。


「えー、この話ですが、なんだか勇者ラッカが凄く聡明な感じに見えますが、実際の経緯を説明しますね。ドラゴンに全く歯が立たず、店中の衝立を壊しまくって、描く物が無くなってしまったミギチカ王子。そこでとうとう部屋にあった二面鏡に絵を描く事にしました。ええ、勇者ラッカが初めに提案しておりました、あの二面鏡です。そして、ミギチカ王子がそこにドラゴンを描いていた所、合わせ鏡に映ったもう一体のドラゴンを観て、勇者ラッカがなんとなく呟きました。『おお、鏡にドラゴンが映って二匹に見えるね』と。その言葉でミギチカ王子が閃きまして、実際に二匹描いてみてはどうだろうか、と思いついたのです。

まあ、当然思いつきだけでなんとかなる業ではございません。何が凄いかって、ミギチカ王子が元々持っていた才能が並々ならぬものであったという話に繋がります。  

『物は描く事が出来ない。ドラゴンしか描けない』という言葉をヒントに、なんとかドラゴンの力を落とそうと思案した末の、起死回生の閃き。『事実は落語より奇なり』ではありませんが、本当に落語の様に上手く、収まるべき場所にピタリとはまった、嘘みたいな本当のお話しでございます」


 勇者ラッカは片頬を上げ、皮肉めかした口調で言う。 

『ていうか、多分これが元々の正解なんだろうな。丁度半分にして、ようやく俺もミギチカも死闘の末ドラゴンに認められたんだからな。いくらなんでも出来過ぎだよ。ああ、またまんまと落語にハメられたって感じがするぜ……』

『何を言っておるのだ?』

『ああ、いいんだよ。こっちの話こっちの話』

 片手をプラプラと顔の前で振る勇者ラッカ。

 次にキッとドワーフ王を見据え、正面から啖呵を切る。

『さあどうだ!これでもまだ気に入らねえって言うんなら、どうしたらいい?俺とミギチカでドワーフ国を取り返してきてやろうか!?というか、ハナからそのつもりだけどな!』

 ミギチカも続いて、父に訴える。

『父上!今まで御心配をおかけしました。俺が必ずドワーフ国を再興させます!俺を国に戻して下さい!父上と共に戦いたいのです!』

『……ミギチカ』


 二匹のドラゴンに跨る二人の若者。サイトピアの勇者とドワーフの王子。運命を自力で切り開いた二人を祝福する様に、その背には太陽が輝いている。ドワーフ王はその眩しさに思わず目を細めた。


『……良いだろう。お主にドワーフ国を任せてみようではないか。そもそも私が手綱を描いて、お主にドラゴンを使役させた後には国を譲ろうと思っておった。それを、私の力を借りずにやり遂げたのだ。こんなに嬉しい事はないぞ、息子よ!』

『父上……父上!!』

 ミギチカもドワーフ王も感動でむせび泣いた。

 勇者ラッカはそれを指差して大笑いしている。

「泣くドワーフに笑う勇者」。多くの吟遊詩人も語る、有名な場面である。 


 客席からは鳴り止まない程の盛大な拍手が巻き起こっている。

 毎度の事ではあるが、サゲ直前のこの場面でいつも大盛り上がりしてしまう事を、一福は内心苦慮していた。

――まったく、やりにくいったらありゃしない。先代はよくここをサラッと流すでもなく気合を込めるでもなく、自然に演じられていたもんだ。

 自分の力不足を感じ、思わず苦笑する一福。

 落語の道に、終わりはないと心から感じる。 

 そして、鳴り止まない拍手の中、サゲへと進む。


『ミギチカよ!お主は立派な王だ。最早私に出来る事はない。それを考えると、少々寂しいものがあるな』

 その言葉を聞いた勇者ラッカが、ある提案を持ちかける。

『ちょっと待って。だったらよ、王様が息子の為に最後に出来る事があるぜ!』 

『なんだ?何でも言ってみよ』


 勇者ラッカは満面の笑みを浮かべながら言った。

『俺とミギチカで散々飲み食いしたツケ、払ってって?』



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