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異世界落語  作者: 朱雀新吾
MY FRIEND FOREVER【だんじり狸】
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MY FRIEND FOREVER【だんじり狸】⑥

 そこは大平原。

 ジツヒ()が放牧され、鳥が舞い、花が歌い、風がそよぐ。

 ラッカは草原のベッドに気持ちよさそうに横になっている。

 すぐ近くから、優しい音が聞こえてくる。


――あれ、一体何が聞こえてきたんだっけ?

 考えるが、ラッカは思い出せない。


 草に埋もれたまま、近くにいるピートに話しかける。何が聞こえたのかを訊ねようと思ったのだが、ラッカの口からはまったく関係ない言葉が放たれる。

「おい、ピート。俺ってさ、やっぱり世界を救わなくちゃだめなのかな」

「え?何で?」

 ピートの柔らかい栗毛が風になびく。

「何でって……俺は勇者だろう?だから世界を救わなくちゃダメなんだよ」

「ふうん……」

 気のない返事の後、ピートが口を開く。

「でも僕だって世界を救いたいと思っているよ。勇者じゃないけど」

「それは……お前が、救いようのない、お人好しだからだろうが」

 そう言ってラッカはへへっと笑った。

 それに対してピートは怒らず、あははと、何故か照れくさそうに笑った。

「そうさ、僕は勇者じゃない。だけど僕は――」


 目を覚ますと、そこは大平原ではなくラッカの部屋だった。


「……」

 最近、同じ夢ばかり見る。冒険中に滞在した大平原の夢。

 ピートが死んだ時の夢は見ない。それは、いつも勝手にラッカが思い出す。

 油断したつもりはなかった。

 背後にいる敵の攻撃にも、気が付いていた。

 気が付いていたが、そのスピードが思ったより少し早かった。ただ、それだけの事だった。

――あ、死ぬ。

 そう思った瞬間、目の前に慣れ親しんだ顔が現れた。

 そしてすぐ、その顔に苦痛が浮かんだ。

 だが、それでも最期にピートは笑った。

 ラッカの顔を正面から見て「良かった……」と言ったのだ。

 それが、彼の最期の言葉だった。

「何が良かっただよ……自分が死んでんのによ……馬鹿野郎」

 ラッカは天井に向かってポツリと呟く。

 時刻は既に昼を回っていた。

――いい加減、起きないとな。

 ラッカは起き上がろうとした。が、その時予期せぬ身体の重さに驚いた。

 それと同時に、頭がフラフラしている事に気がつく。

 連日連夜雨の中リュートを演奏していた為、どうやら風邪を引いてしまったようだ。

 自分でも風邪を引く事があるのだと、ラッカは不思議に思った。とっくに人間を辞めているつもりだったのに。


 それからラッカはなんとか起き上がり、石の様に重い身体を引き摺り、極楽酒場へと向かった。

「ええと、今日なんだけどな……。例の如く夕立が降ったら橋の下なんだが、俺はちょと具合が……」

 ラッカがそう言いだすと、クランエが申し訳なさそうに手を上げた。

「ラッカ兄さん。実は今日なんですが、夕方から召喚士の仕事が入っていまして……」

「うお、マジかよ」

「ええ、スイマセン」

「いや、いいよ。仕事なら仕方がないだろう」

 それにしてもそれが今日とは、まったくツイていない。

 ラッカは元々、体調が悪いから今日だけはクランエとナナセの二人で行って欲しいと頼むつもりだったのだ。


「じゃあ俺とお嬢ちゃんで行くか」

「それが……スイマセン」

 するとナナセも申し訳なさそうに頭を下げる。

「え、お嬢ちゃんも何か用事があるの?」

「ええ、実は今日は……父の誕生日なんです」 

「クレイジーのおっさんの?」

「ええ、でもなんとかキャンセルして、橋の下は私一人で行きますので、勇者様は家で休んでいて下さい」

「いやいやいや、それは行っておけ。後が怖い……」

 ラッカはナナセの父親「天才魔術師クレイジー=フラウ」と謳われたレイジング=フラウと何度か冒険中に共闘した事があった。

 同じ踵属性という事でラッカを気に入ってくれていたが、あの破天荒さにはラッカですらドン引きするレベルであった。

 戦闘中に意味もなく全裸になる。気に入ったら魔族でもお構いなしに酒に誘う。かと思えば一輪の花を踏みつけたといって突然ブチ切れて超弩級の踵魔法を繰り出して近隣の緑を全て灰に変えてしまう。

 クレイジーの名を欲しいままにする男だった。彼に比べたら大臣の胸像を粉々にするぐらい、可愛いものである。

 これでナナセに誕生パーティーをキャンセルさせて、その理由がラッカであるとバレたらと思うと、恐ろしくて震えがきてしまう。


「まあ、今日は俺一人で行ってくるよ。いつもありがとうな」

「でもラッカ兄さん。体調が良くないんでしょう?一人で大丈夫ですか」

「そうですよ。無理しないで下さい」

「大丈夫大丈夫。ちゃっと行って、ちゃっとリュートを演奏して、帰ってくるだけだからよ」

 それでも心配そうな二人にラッカは手を上げ、笑顔を見せて言った。

「まあ、まだ夕方までには時間もあるし、家で少し寝てから行くからよ!」 

 そうしてラッカは家に帰り、ベッドに倒れこむ様にしてそのまま眠った。


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