MY FRIEND FOREVER【だんじり狸】⑤
次の日、レンが極楽酒場へと飛び込んできた。
「ラッカおじちゃん。昨日も出たね!夕立吟遊詩人」
「おお、そうだったな。で、どうだ?聞けなかった子ってのは、昨日は眠らずに聞けたのか?」
ラッカの問いに、レンは大きく頷いた。
「うん!ちゃんと昨日は起きてて聞いたって言ってたよ。凄い嬉しそうだったよ!」
「おおそうかそうか、そいつは良かったな。いやあ、おじちゃん達も嬉しいよ」
クランエとナナセも安心してうんうんと頷く。そしてラッカの背中を指して念を押す。
(分かってるよ……)
ラッカは顔をしかめながら目で合図すると、レンに正面から話しかける。
「レン坊、いや……夕立吟遊詩人なんだけど、実はずっと見つかっていなかったという形見のリュートが昨夜海から上がったらしくてな。成仏したんだよ……。いやあ、良かったなあ……。うん」
空を見上げてうんうんと切なそうな表情を浮かべるラッカ。だが、そんな台詞は耳にも入れずレンは無邪気に訊ねてくる。ラッカはその言葉に耳を疑った。
「おじちゃん、今夜も、雨降るよね!」
「ええ!?」
「夕立吟遊詩人、来るよね?」
「いやいやいや。ちょっと待てレン坊」
ラッカは慌ててレンを止める。
「なあレン坊。友達は皆聞いたんだろう。もう大丈夫じゃないか?そろそろ夕立吟遊詩人を成仏させてやろうぜ。彼にも天国で待っている恋人が……」
そしてラッカは再び空を見上げてうんうんと切なそうな表情を浮かべたが、レンはぶんぶんと首を横に振る。
「違うんだ!実は全員聞いていた訳じゃなくてさ……」
そして、レンは神妙な顔で話し始めた。
「実は昨日は周りに合わせてリュートを聞いたって嘘をついていた子がいてさ。その子、お化けが大の苦手なんだ。一昨日の夜は怖くなってお風呂に入って大声で歌っていたから聞けなかったんだって。そして昨日の夜も出るって僕から聞いて、今度こそは聞こうと思ったらしいんだけど、やっぱりギリギリになって怖くなって耳栓しながらあーあーわめきながら近所を徘徊していたから、聞けなかったんだって。ねえ、可哀相でしょう?」
「なんだなんだその面倒くさいヤツは。いいんじゃないか?その子はもう、放っておいて。無理して聞く事もないだろう」
ラッカがしかめ面で提案するが、レンは譲らない。
「その子はお化けが嫌いなだけで凄く良いヤツなんだよ!ねえ、ラッカおじちゃん。今日も夕立が降りそうだよ。吟遊詩人、来るよね。ねえ、来るよね。絶対来るに決まっているよ。そうだよ!それじゃあ僕その子に言ってくるね!じゃあね!」
「あ!おいレン坊!!おーい!夕立吟遊詩人はもう、成仏したんだ!リュートが海から……」
ラッカの話など一切聞かずに立ち去り、レンはあっという間に見えなくなった。
「…………」
「…………」
「…………」
ラッカは後ろを振り返れない。
そのまま、振り絞る様な声で、言うだけだった。
「……お願いします」
「…………」
「…………」
それからもレンの要望は続き、その度にラッカは断れず、更にその度にラッカの頼みをクランエとナナセは断れず、夕立の降る日というと三人は橋の下へ出かけて行っては、リュートを弾いた。
「はあ……今日も疲れた」
「お疲れですねクランエ師匠。スープをどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
そんなある日、演奏を終え、極楽酒場へと楽器を置きに来たクランエに、一福が温かいスープを差し出す。
一口飲むと身体の芯から暖かくなった。ここ数日は一気に寒さが厳しくなり、雨の日に出かける等、自殺行為に近かった。
「連日、大変ですね」
「いえ、何だかんだで好きでやっている事ですから」
クランエはそう笑顔で返すと、スープを一口啜る。
「師匠。一つ聞いても宜しいでしょうか?」
「はい、どうぞ?」
「……レン君のお父さんの、ピートさんという方はどういう人だったんですか?」
「ピート兄さんですか……」
クランエは自然と優しい表情を浮かべ、話し出す。
「ご存知とは思いますが、ラッカ兄さんの幼馴染で、共にパーティーを組まれていた方ですよ。優秀な魔法戦士で、なにより笑顔が本当に暖かい、優しい方でした。事情がありまして身寄りのない私も幼い頃には一緒に遊んでもらっていたんです」
「なるほど。だから兄さんなのですね」
「ええ。私が三男。ラッカ兄さんが二男で、ピート兄さんは長男と言った所でしょうか」
「三人兄弟ですね」
一福のその言葉にクランエは首を横に振る。
「いえ、あと一人ピート兄さんの実の妹で、ミヤビという子がいまして。だから、よく四人で遊んでいました」
「そうなんですか」
クランエが思い出話を始める。
「ラッカ兄さんが遊んでいて大臣の胸像を粉々にしてしまった事がありまして、その時もピート兄さんが全ての破片を拾い集めて、なんとか修復しようとしたんです」
「ほう、粉々になった胸像を……」
「ピート兄さんは魔法戦士でしたから。ですが、慣れない修復魔法を呪文書を片手に詠唱した所、失敗しまして、胸像の破片は全て灰になってしまいました」
「…………」
「結局、ラッカ兄さんの完全犯罪に手を貸す形となり、宮廷内では今でも『消えた大臣像』という七不思議として、語り継がれていますよ」
「……ハッハッハッハ!!それはさぞ楽しい思い出ですね!」
「ええ……宝物です」
珍しく大声で笑う一福を嬉しそうに眺めながら、クランエも優しく微笑む。
胸像が灰になったあの時、ラッカも大笑いしていた。かけがえのない思い出が、そこにはあった。
「ピート兄さんは3年前、冒険中にモンスターにやられて、そのまま帰らぬ人へ。ラッカ兄さんを庇ったと聞きます。本当に、ピート兄さんらしいです……」
クランエは悲しい笑みを浮かべる。そしてポツリと、呟いた。
「そして、ラッカ兄さんは、それ以降誰ともパーティーを組んでいないんです」




