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異世界落語  作者: 朱雀新吾
MY FRIEND FOREVER【だんじり狸】
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MY FRIEND FOREVER【だんじり狸】③

「まあ、そういうわけでお前達に頭を下げて頼んでいる訳だが……」

「どういう訳ですか」

「頭下げてないじゃないですか。テーブルの上に胡坐かいてるじゃないですか」 

 クランエとナナセが同時に突っ込む。 

 ラッカはレンから話を聞いた後、直ぐに極楽酒場を訪れていた。

 一福が気まずい等とは言ってられなかった。

 だが、当の一福はというと、先日の件を特に気にした様子もなく普通にラッカに挨拶をし、今はダマヤと二人で面白そうに若い三人を眺めている。


「で、一体何をすればいいんですか?」

 クランエが呆れた顔で訊ねる。既にラッカが何を言うのか理解して訊いているのだ。

「決まってんだろう?俺達が夕立吟遊詩人になるんだよ」

「と言いますと?」

「だから……夕立が降ったら俺達でリュートを鳴らすんだよ!」

 苛立つラッカの言葉にナナセが不思議そうに手を上げる。

「でも、勇者様。その夕立吟遊詩人って、実際にいるんでしょ?私達がやらなくたって構わないんじゃないですか?」

「いませんよ」

 横からクランエが断言する。

「昔からそんな噂は聞いた事がありません。黄昏セイレーンの噂は確かに有名ですけどね。実際に歌声が聞こえる日もありますし……」

「え、じゃあ……勇者様がレン君に言った事は嘘って事ですか?」

「大方、レン坊の顔を見てそんなのは嘘っぱちだとは言えなかったんですよ。悪ぶっていたってこの人は結局、ただのお人好しですからね」

「…………」

 散々な言われようだが、ここでクランエにへそを曲げられる訳にはいかない。ラッカは黙って耐えた。

「でも、ラッカ兄さんだけならいざ知らず、なんでそんな嘘をピート兄さんは息子のレン坊に教えたりしたんでしょうかね?」

 不思議そうに首を捻るクランエのその言葉に、ナナセが驚愕する。

「え?その、レン君のお父さんって、あのピート=ブルース?魔法剣士の?」

「ええ……まあ、はい……その」

 クランエはそこで急に隣のラッカを気にしてか、言葉に詰まり出した。

「何をまごまごしてんだよクラ。ああ、レン坊は俺の元相棒、ピートの息子。レン=ブルースだよ」

 ラッカがその横からキッパリと答える。

「はあ……そうなんですね。あのピート=ブルースにお子さんがいたなんて……」

「おいナナ。そのピートってのはそんなに有名なのか?いや、オレによく似た名前だから気になるんだけどよ」

 そこで突然、テーブルにポンと置かれていた魔剣オクラホマスタンピードが質問する。

「ええ、有名も有名ですよ。『勇者の良心』とまで呼ばれた人で、破天荒な勇者を支える頼れる相棒だったんですから」

 そう言ってナナセはラッカを白い目で見つめる。ラッカは面白くなさそうに肩をすくめた。

「へん、どうせ俺は悪戯小僧の破天荒勇者だよ」

「ふうん。それでラッカはオレの事『ピード』って呼んでくれないんだな。『ピート』と名前が被るから」

「というか誰かお前の事『ピード』って呼んでるヤツっているのかよ」

 ラッカは鋭い突っ込みを入れて、溜息をつく。

「ピートは名家の坊ちゃんだったからな、小さな頃から将来を約束されていた許嫁がいたんだよ。だけど当人達も好きあっていたから何の問題もなく、とんとん拍子で結婚したっけ。16、7にはレン坊も生まれてたよ」

「16、7!?」

 今のナナセの年齢と同じである。ターミナルでの婚姻としてはそう早すぎるという程でもないが、やはり今の自分と照らし合わせると、驚いてしまう。


「レン坊が生まれてから、子供を育てるには宮廷内より城下町が良いってここいらに引っ越してきてたからな。で……あれ?何の話だったっけ?」

「夕立吟遊詩人ですよ」

 真面目な性格のクランエがきっちりと話を戻す。

「ああ、そうか。で、何でその夕立吟遊詩人なんてものをピートがレン坊に教えたのかって言うとだな……」

「分かりますよ。どうせまたラッカ兄さんがピート兄さんに吹き込んだんでしょう?」

 何度も先回りするクランエの言葉に嫌気が差した様にラッカは天を仰ぐ。

「……何だよクラ。お前は人の心が読めるのか?ああ、まったく恐ろしいヤツだぜ」

「ええ!?何ですか。夕立吟遊詩人という噂自体、勇者様がピートさんに教え込んだ嘘だったんですか?」

 驚きながらも、ナナセはラッカを批判的な目つきで睨みつける。

「ええその通りです。ピート兄さんは基本何でも信用しますからね。で、結局その嘘がピート兄さんの死後、ラッカ兄さんの所へ巡り巡って返ってきた。なんの事はありません。これは完全なる自業自得ですよ」

 クランエは呆れた顔で両手を広げるアクションをとった。

「本当、昔から調子が良いんですから、この人は」

「あのー」

 そこへ、いよいよナナセが先程から気になっていたある事を質問する。

「先程からクランエ様と勇者様の会話を聞いていて、不思議に思っていたんですけど、お二人って結構長いお付き合いなんですか?というか、長いんですよね?その口ぶりだと」

 その問いにラッカが当然の様に答える。

「ああ、お互い宮廷に住んでた時期が被るからな。ピートも含めて俺達は幼なじみみたいなもんさ。特に俺とクラは境遇も似ているし」

 それを聞いて、あからさまに嫌な顔をするクランエ。

「似てやしませんよ。私は兄さんみたいに破天荒ではありませんでしたから」

「境遇の破天荒さで言えば似た様なものだろうがよ」

「境遇と性格を一緒にしないで下さいよ」

「何だよ、一緒だよ」

「違います」

「初めて会った時はお前、本当に陰気な顔してたよな。宮廷庭園のベンチで下向いてさ。あ、陰気な顔は今でも変わんねえか。アハハ!」

「何言ってんですか。あの時声をかけてくれたのはピート兄さんでしょうよ」

「俺も声をかけました『やあ、そこのNEKURAボーイ、元気かい♪』ってな」

「違います」

「違わねえよ」

「嘘ばっかりつくんですから」

「何だと?」

 そして再び二人は口論を始める。

「フフフ」 

 それを見て、ナナセはなんだかおかしくなって笑ってしまった。

「何笑ってんだよ」

「ナナセさん……」

 ラッカはムッとし、クランエは心外そうな顔でナナセを見つめる。

「いや、何となく。おかしいなと思って……」

「……ったく、馬鹿馬鹿しくなってくるぜ」

 すっかり毒気を抜かれたラッカ。その状況にクランエはつい微笑みを浮かべてしまう。

「そういえば少し似ていますね。ナナセさんは、ピート兄さんに。今の笑うタイミングだとか特に。私とラッカ兄さんが口論を始めると、ピート兄さんは楽しそうに笑っていた。なんだか、懐かしくなりました……」

「はん。ぽやっとした所だけだろうが」

 しんみりしたクランエの雰囲気を壊そうと、憎まれ口を叩くラッカ。

 普段見せる飄々とした表情と異なり、どことなく自然体を窺わせる態度であった。

 クランエもいつもより砕けた表情で皮肉を言っているのが分かる。

 それが、本当に自分の雰囲気によるものだとしたら、素敵だなとナナセは思った。


「まあ、そんな事どうでもいいんだよ!話を戻すぞ!協力してくれるのかしねえのか。どっちなんだよ」 

「協力するに決まっているでしょう」

「はーい、協力しまーす」

 二人とも即答だった。

「レン坊の為、ピート兄さんの為ですからね。夕立吟遊詩人の振りをしてリュートを弾けばいいんですよね?」

「面白そうです!」 

 簡単に協力すると答えた二人に、思わずラッカはテーブルから崩れ落ちそうになった。

「なんだよ。それなら初めから素直にはいって言えばいいだろうが」

「それだと兄さん、貴方の為にならないんですよ。少しは反省してください」

 二人のやり取りにナナセはあははと指を差して笑っていた。

「久しぶりですから、上手く弾ける保証はありませんが……」

「良いんだよ。それは俺も一緒だからよ」

 ラッカもクランエも宮廷育ちなので、楽器の演奏は一通り教わっている。


「二人ともすまねえな。恩にきるよ。よし、早速今夜実行だな。お嬢ちゃんは自前のリュートがあるだろう。俺とクラの分は、宮廷から借りてくるよ。場所は人気のない所で、隣町にも音が聞こえる所が良いな。……よし、橋の下にしようか。今日、夕立が降ったら橋の下に集合だ」


 それから数時間後、予想通りシトシトと夕立が降り出した。


 三人は橋の下に集まると、夕立の降る中リュートを演奏し始める。

 その音色は力強く、隣町まで響く。

 三人は、それから一時間程、何曲か弾いていた。


「いやあ、ナナセさんは流石、お母様が伝説の詩人なだけあって、お上手ですね」

「いえいえ、お恥ずかしいです。お母さんには感情がこもっていないって、叱られてばかりなんですけどね」

「いえいえ、素晴らしいですよ。そういえば『デバヤシ』の件で、一福様も褒めておいででしたよ」

 えへへと、ナナセは嬉しそうに頬を赤らめた。

「さあ、これだけ弾いたら大丈夫だろう。雨も強くなってきている。引き上げるぞ」

「はい」

「はい」

 ラッカの指示で、三人は橋の下を後にした。


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