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異世界落語  作者: 朱雀新吾
火属性魔法こわい【まんじゅうこわい】
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火属性魔法こわい【まんじゅうこわい】⑥

 時は数日前に遡る。


「待って下さい参謀殿」

「火属性魔法こわい」作戦の説明を終え、宮廷の自室に戻ろうとしていたジンダ=スプリングの背中に、何者かが声をかけてきた。

 エルフ・ドワーフ特別同盟隊仲介役のイヘブコだった。

「なんだイヘブコ。何か俺に用か?いや、そもそもお前が何故会議にいた。隊長格しか呼んでいなかったのだぞ」

 その追求に対してイヘブコは得意の愛想笑いを浮かべながら説明を始める。

「ええ、実は今日はエルフとドワーフの王の会談が行われておりまして。隊長はそちらに参られたので、こちらには代わりに私が参上した次第です」

「ああ、そうだったな。まあ、こちらは突然の召集だったからな。で、話とはなんだ?」

 イヘブコは、どう言おうか迷った様に俯き、だが意を決して顔を上げると、口を開いた。

「『火が怖い』という情報を流すまでは全て参謀殿の仰る通りで良いと思います」

「ほう……何かと思えば、俺の作戦に関して意見か。なかなか勇気のある奴だな」

 そう言うジンダ=スプリングの表情はあいも変わらず無表情である。機嫌を損ねたかと、イヘブコは怯んでしまう。だが、それはイヘブコの誤解であり、実際には違った。ジンダ=スプリングはその発言を実に興味深く聞いていたのだ。

「どうしたイヘブコ、続けろ」

「は、はい」

 緊張した面持ちで、ゴクリと喉を鳴らすとイヘブコは言った。

「火属性障壁ではなく、水属性障壁にしましょう」

「イヘブコ、今夜俺と飲みに行くぞ」

「へ?」

 前後の流れを無視したジンダ=スプリングの突然の申し出に、イヘブコは間の抜けた声を返す事しか出来なかった。

「気に入った。俺の兵法から何から全て、お前に教えてやる。それと、本当は一度部屋に帰ってゆっくりしてから行こうと思っていたのだが……夜に予定が出来たから、今行くか。イヘブコ、ついてくるか?」

「ええと……どちらへ?」

 イヘブコは恐る恐る訊ねる。それに対しジンダ=スプリングはきっぱりと返答する。

「王宮魔法隊だ。チョウカ殿にだけはこっそりと水属性障壁を準備しておくように、要請しないといけないからな」

「……はい!お供します!」

 イヘブコは表情を輝かせて、大きく返事をした。 

「しかし、流石生え抜きの出世頭だな。まあ、その頭の切れなら頷けるぜ。今回に関してはお前がラクゴを書いているというのもあるんだろうがな。ああ、そういえばラッカもお前がそれを言ってくるだろうと予見していたよ」

「ラッカ様が……」

「で、聞くまでもないが、お前の見解は?」

「はい。ラッカ様の情報からすると、魔族も落語を観ている、存在を知っているとの事です。『火属性魔法こわい』を知っていて、我々が火属性魔法が怖いと同じ事を言っても、素直に火属性魔法攻撃を仕掛けてくれる訳がありません。相手は魔族です。落語の登場人物ではありません」

 ジンダ=スプリングはパチパチとやる気のない拍手をして、イヘブコを称えた。


「上出来だ。それを逆手に取ろうというのが、今回の作戦だ。後の懸念は魔族の間者が、ちゃんと落語を観ていてくれているのか、ってな所だな」



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