エターナル【寿限無】・アマテラス【平林】――解説――
今回は二話がストーリーとして繋がっていましたので「アマテラス【平林】」終わりのこの場で、まとめて解説とさせて頂きます。
今回、初めて作中で本来の落語の説明を入れずに、異世界版のみを登場させました。それに関しましては、なるだけ話の流れのテンポを重視したいという点と「寿限無」の様なかなり有名で筋もシンプルな落語は説明もいるまいという想いと、前の二話でそろそろ皆様も落語の雰囲気に慣れてきただろうという、読者様を試す意味もありと、様々な要因が加わっての結果です。
決して説明するのが面倒くさいからという後ろ向きな理由ではありませんので、ご安心下さい。はい、それだけは誓います。違うと……。はい……。
この場で簡単に説明を加えますと、「寿限無」という噺は「子供にとにかく縁起の良い名前をつけた」という話です。そこでお寺の和尚さんから縁起の良い言葉をどんどん並べられ、最後には有名なこの文言になるのです。
「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処藪ら柑子の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助」
長い名前です。今で言うならキラキラネームとなるのでしょうか。それよりもぶっ飛んでいる感もありますね。
異世界落語におきましては「子供の名前」を「必殺技の名前」に変えて、好き勝手にストーリーをでっちあげました。話の筋がありきで笑いを取らなくてはならない「時うどん」や「こほめ」に比べると、自由度が高くとてもやりやすく、書いていて楽しかったです。
サゲは子供が転んでたんこぶが出来てしまったが、長い子供の名前を呼んでいる内に、たんこぶがひっこんでしまったというものです。
それに被せて異世界落語では、必殺技を叫んでいる内に敵を倒してしまったという流れにしました。
物語の方も似たような感じの、落語をしていたら魔族に滅ぼされていたという、ラッカの皮肉めいた台詞でサゲました。
「平林」も至ってシンプルでして、奉公先の旦那から丁稚の小僧が「平林」さんに手紙を届ける様に言われ、途中で誰を訪ねるかを忘れてしまい、紙に書いてもらった「平林」という漢字を頼りにしますが、小僧は字が読めない。それで道行く人に読み方を訊ねるという話です。
そこで「アマテラス」同様、聞く人によってそれぞれ読み方が変わってきて、最後には全ての読み方を繋げて歌いながら「平林」さんを探すという流れになります。
「タイラバヤシかヒラリンか、イチハチジュウノモークモク、ヒトツトヤッツデトッキッキ♪」という文言です。
「平林」と書いて、ネタとしての正式な読み方は「たいらばやし」若しくは「ひらばやし」だそうです。
私達落研部員は日常的に愛着をこめて「ひらりん」と呼んでいましたが、落語としての正式名称ではないみたいです。
「平林」に関しても「平林という名字」を「アマテラス」という「魔法の詠唱」に変え、道行く人に読み方を聞いていくという筋だけ残し、後はフレキシブルに異世界落語に変換させましたので、とてもやり易かったです。
サゲは、歌を歌いながら「平林」さんを探し歩いている小僧が一人の男性に声をかけられます。
「何をやっているのだ」
「いえ、お使いの先が分からなくなったんです。ところで貴方様のお名前は?」
小僧がそう聞くと男は「私か、私はひらばやしというものだが」と答える。
「ひらばやし?惜しい、ちょっとの違いです」と小僧が言って、おしまいです。
このサゲには他にも別のバリエーションがあるのですが(私は調べるまで知りませんでした)、興味のある方はどこかで聴いてみられて下さい。
作中でもこの二作を「似ている落語」という風に扱っておりますが、
「寿限無」は縁起の良い言葉を並べての、早口言葉。
「平林」は名字の読み違いからの、歌。
大枠で「長台詞落語」として一緒くたにしましたが、厳密には上記の様な違いがありますので、ご理解願います。こう並べると平林はさほど長台詞でもありませんしね。
執筆裏話としましては、そもそも「エターナル」だけでエピソードを終わらせるつもりだったのですが、ラストのダマヤが凄く格好良いシーンを書いた時に「……誰だコイツは。ダマヤはこんな格好良いおじさんでは断じてないのだが……」と思い、なんとかしたいと思案しましたが、シーンとしてはこれ以上のものはない。どうしたものかと悩んでいた所「エターナル」の前に類似した「アマテラス」のエピソードがあり、そこでダマヤが予習をしていたという、正に落語的な筋でいってみてはどうだろうかと思いつきました。
そのお陰でナナセを始め、大司祭様にチョウカ等、新キャラも続々登場し、結果的に作品の幅が広がったのではないかと、手前味噌ながら考えている次第です。私の執筆はいつもこういった感じで、行き当たりばったりですので、書きながら「この物語はちゃんとした着地点に降りてくれるのだろうか」と毎度ヒヤヒヤしております。
そして、まさに上記の影響による弊害が生まれもしました。
「アマテラス」のストックがない状態で「エターナル」を投稿してしまい、読者様には更新が遅れまして、多大なるストレスを与えてしまったという事です。
読者様におかれましてはさぞ「異世界落語の続きは?おい、この後どうなるんだ!」と気が気でなくなられたかと存じます。
会社で仕事に身が入らずミスをして、解雇された方。
授業に集中出来ずに留年した学生の方。
更新ボタンの連打をし過ぎて、気がつけば知らないサイトにアクセスしてしまい、高額な請求書が送り付けられ、旦那さんになんて言おうかと夜も眠れていない主婦の方。
その他にも大勢いらっしゃるでありましょうご迷惑をおかけしました方々に、この場をお借りしまして心よりお詫び申しあげます。本当にすいませんでした。
基本一つのエピソードは連続して更新したい性格ですので、次回もストックが溜まりましてからの投稿とさせて頂きます。ただこの解説はエピソードを投稿してから考えていますので、毎回何日かの遅れが生じます。
さて、落研時代の話です。
「寿限無」はあまり私の大学ではかけられる事のないネタでした。過去の先輩方ではやられた方はいらっしゃるとは思いますが、私の代の前後では、やっている人間は殆どいなかったと思います。
他大学の落研の寄席を観に行くと、よく「寿限無」(「長名」という別名でやっていたりもしました)をかけていて、その度に初々しい気持ちで「おお、寿限無だ。いやあ、落語って感じがするね♪」となんとなくワクワクしたものです。
ですので、つまり私はあの長台詞が言えないのです。
落研ならうどんが食べられて、寿限無が言えて、謎かけがねずっちばりに上手いと当然の様に思われがちですが、断じて全てが全てそうではないと、全国の落研部員を代表して、宣言させて頂きます。
特に謎かけは、本当に頭の良い人しか出来ません。
ねずっちさんの凄さを一番理解出来るのは落研部員だと思います。
話を戻します。
「寿限無」が言えないという話です。
おかしな話ですが、落研部員の私は言えませんが、うちの大学の演劇部は言えました。
滑舌と発声の稽古に丁度良いからだそうです。演劇部の練習メニューに組み込まれていました。
理由は理解出来るのですが、落研が言えなくて、演劇部が言えるという状況は確実に具合の悪いものでした。
これで逆に私の方が演劇部よりも格段に演技が上手いなんて事になれば格好もつきますが、そうでもない。面目丸つぶれとはまさにこの事です。
ですが、こういう事は私の人生ではよくある事でして、個人的には特に気にしてはいませんでした。
4月生まれなのに、背が低かったり、
陸上部だったのに、サッカー部の方が足が速かったり、
メガネの私より裸眼の佐藤君の方が頭が良かったりと、例を挙げるとキリがありません。
ですから、このような理不尽には慣れっこですので、気になさらないで下さい。
ただ、リアル一福君は「寿限無」をやっていないのにスラスラ言えたりしていました。実に気持ち悪いですね(笑)。
続いて「平林」の話です。
「寿限無」とは逆に「平林」は私の大学の落研では一世代に一人は選ぶネタでして、一般的には少々知名度の劣るこのネタの方が私にとっては「寿限無」よりも馴染みの深い噺だったりします。
これはうちの落研の統計上、女子がよく選ぶ落語でして、私の世代でも女子、後輩も女子がやっていて、丁稚の小僧を可愛らしく演じていたのを思い出します。
実際の落語では主人公は女の子ではないのですが「アマテラス」ではエルフの少女としたのには、そういう理由があります。
ですから私の中では「平林」は面白いというよりも、華がある、というイメージですね。
演者が手拍子しながら歌っていると、自ずと客席からも手拍子がなり、ライブさながらの一体感を味わう事が出来ます。
ただ、話自体に無理があるので私自身は敬遠していました。「平林」を「ひらりん」と読むのはまだしも「いちはちじゅうのもくもく」や「ひとつとやっつでとっきっき」とは、かなり強引だと思いました。
ですが「アマテラス」も他人の事を言えませんし、執筆していて「平林」の偉大さに気がつきました。「アマテラス」は確実に「読み間違い」ですが「平林」は多少無理があっても「読み違い」であって「読み間違い」ではないという点です。
「アマテラス」もそれに倣って最初は「アアチラス」だとか「ママテラヌ」といった感じで、なるだけ原文に近いまま話を進めていこうと考えましたが、これがかなり難しく、直ぐに挫折し、最終的に「モ○タロス」等と言い出す結果となってしまいました。
そういった点からも「平林」を考えついた方はとんでもない天才だと戦々恐々としました。
こういった事に時を経て気が付くのも、異世界落語を書いている醍醐味でありますね、と今回は綺麗にまとめておこうかと思います(笑)。
次回は、これもまたとても有名なネタです。「火属性魔法こわい【まんじゅうこわい】」で、お付き合い願います。それでは、しばしのお別れです。




