アマテラス【平林】③
「ワシテラスソラシラスヤマカラスハゲチラカスフミヌラスシラヌママボククラスハハキトクミノタウロスソクラテスマスカラスアルバトロスキミコイシオモイアフレアイタイヨデモアエナイヨアイシテルウ〇タロスキ〇タロスリュ〇タロスモ〇タロスオレサンジョウ!ドノドアモアイテナクノックシテモヘンジナクツイモラスハハハハハヒヒヒヒヒフフフフフヘヘヘヘヘホホホホホタノシイネウミテラスソラテラスヤマテラス……『光魔法アマテラス』!」
私は勇者様から教わった呪文をなんとか覚えて、唱える。
歌う様に、と言われているので何とか努力してみたけど、上手くいったかは分からない。だって、夢中だったんだもん。お母さんが詩人だったから、そう悪くはないと思う。
ちなみに本来のアマテラスの詠唱は「ウミテラスソラテラスヤマテラス……『光魔法アマテラス』」だけ。つまり私が詠んだ最後の部分。頭に色々くっついたこのバージョンが裏詠唱版だそうだ。なんだかよく分からないけど、そうなのだそうだ。
詠唱は軽視されているから必須科目でもなかったけど、私は結構好きで、成績はトップクラスだったので、一応その経験が生きた事になる。
というかそもそも「アマテラス」は光魔法なので、風属性の私には無理だと何度も言ったのだ。だけど勇者様はへらへら笑いながら「光魔法は属性とは特に関係ないからな。要はカルマの話だろう?お嬢ちゃんは何にも考えてなくて邪念がなさそうだから、いけると思うよ」なんて言ったのだ。会ったばかりで、何故そんな事が分かるのだろうか。いや、間違ってないけどさ。
それにしたって、私のレベルではそもそも普通の「アマテラス」だって無理だと勇者様に言っても、やっぱり大丈夫大丈夫しか言わない。
思わず「勇者様って属性何ですか?」と聞いてみると「俺は生粋の踵属性家系だぜ!」だって。やっぱりね。最悪の相性だった。
しかも私の場合「踵>風」の力関係になる事ばかりなので参ってしまう。お父さんも踵で、家を出るまで結局一度も歯が立たなかった。嫌いじゃないし、苦手でもない、大好きなんだけど、行動が理解出来ない。
嵐の日に全裸で笑いながら縦横無尽に空を飛びまわっていた時は、本当に参った。私が泣きじゃくりながら止めると「俺と風の戦いを邪魔するな。そういえばお前は風の味方だったな!!この踵の敵が!!」と怒鳴り散らされたのだ。
私は絶対にお父さんみたいにはなりたくなかった。いや、なろうとしても無理だけどさ。
そして、勇者様から教わった魔法を唱えた私だったが、思った通り、何の現象も起こらない。
「ほら……何も起きないじゃないですか」
「あらー、やっぱりダメなのかね。まあ、無理もないか……」
勇者様はゴブリンを斬り伏せ、私を守りながらまいったねとケラケラ笑う。全然まいった風じゃない。私を使ってちょっとした遊びを試してみた程度なんだろう。出会って間もないけど、既に分かった。この人には緊張感というものが一切ないのだ。空っぽにさえ見えてしまう。
人智を超えた強さの人とは、こういうものなんだろうかと、ぼんやり思った。
そしてまさにその時である。
――私のステッキが眩く光り出したのは。
「うわあ……」
「おお!これは、まさかまさかまさかまさか来たんじゃねえの!?」
勇者様が子供みたいに大はしゃぎしながら歓声を上げる。
眩しい。とてつもない光……そして、魔力を感じる。
「ちょっとお嬢ちゃん。それ、振ってみてよ。早く早く!!」
「ええ?は、はい……えい」
勇者様に急かされ、恐る恐る私はステッキを一振りしてみた。
その時、頭の中で誰かの声が響く。
《魔法使いが我本体を呼び出すとは……五百年ぶりだな。まあよかろう。娘よ、そなたに力を貸そうではないか。だが、千分の一にしておくぞ。でないとお主の五体は一秒と持たぬからな。では、風を統べる者……ジン、参る》
次の瞬間、ステッキから光が溢れ、凄まじい風が吹いた。
「ぐおおおおおおお」「しゃあああああ」
「ぎゃああああああ」「ごおおおおおお」
目の前にいた数十体のゴブリンが悲鳴を上げ空へと飛んでいく。
私は唖然として、目の前の光景を眺める。
こんな魔法、私に使える訳がない。
それに、今聞こえた声は一体……ジンとか言っていたけど。
まさか……御本人を呼びつけちゃったの?
風の精霊ジンなんて、召喚師でも出来る筈の無い、伝説級の魔法。
見るとゴブリンはまだ空を飛んでいる。一体どこまで飛んでいくのだろうか。そうか、大河を越えて魔大陸まで、行くんだ。
空を舞うゴブリンの叫び声が、遠ざかっていく。
「ぐわあああああああ」「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎ」
「げええええええええ」「もおおおおおおおお」
「うひょおーーーー。飛んだーーー。楽しいーーー」
見ると、勇者様も飛んでいた。
あ、巻き込んじゃったんだ。どうしよう。
「勇者様ーーー!」
私は大声で叫ぶ。すると豆粒の様に小さくなった勇者様が手を振る。
「だいじょぶだいじょぶ!!……よっと」
勇者様は身体を捻り、一緒に飛んでいたゴブリンを蹴り、飛ぶ方向を逆に変える。そしてその先にいたゴブリンを蹴り、次のゴブリンも蹴り、蹴り……とジグザクにゴブリンの群れを逆流してくる。段々勇者様の姿が大きくなり、そして最後に大き目の一蹴り。
「とう!」
綺麗な弧を描いてクルクルと宙返りしながら、私の目の前にスタン、と華麗に着地した。
「ゆ、勇者様、スイマセンでした」
私が慌てて頭を下げると、
「あはは、良いって事よ。ドラゴンの背中に乗って飛ぶのとはまた違った趣があるもんだな」
そう言って笑いながら手をパタパタと振った。
「それよりもほら、またゴブリンが出現して向かってきてるぞ。そのステッキ、まだ光ってるから、振ればさっきのヤツが使えるんじゃない?裏詠唱版『アマテラス』」
「あ……」
見ると、勇者様の言う通り、ゴブリン達がまたしてもこちらに殺到してきていた。そして、ステッキも、光っていた。
「ようし……えい」
今度はもう少し気合を入れて振ると、再び凄い風が起こり、ゴブリンの群れを吹き飛ばしていく。
それから何度かゴブリンを吹き飛ばすと、いよいよ光が小さくなってきた。
どうやら裏詠唱版「アマテラス」とはしばらくの間ステッキに魔法が(精霊ジンが?)宿り、振ると超特大の風魔法が発動するようだ。元の光魔法としての片鱗は特にない。ひょっとしたら私の属性に合わせて調整されているのかもしれない。魔法ってそういった柔軟な所があるから。
「あ、ほら。光が小さくなってるぜ。もう一度唱えてみたら?」
「あ、はい」
勇者様に言われ、私はすうと息を吸い、もう一度詠唱をやり直す。
「ワシテラスソラシラスヤマカラスハゲチラカスフミヌラスシラヌママボククラスハハキトクミノタウロスソクラテスマスカラスアルバトロスキミコイシオモイアフレアイタイヨデモアエナイヨアイシテルウ〇タロスキ〇タロスリュ〇タロスモ〇タロスオレサンジョウ!ドノドアモアイテナクノックシテモヘンジナクツイモラスハハハハハヒヒヒヒヒフフフフフヘヘヘヘヘホホホホホタノシイネウミテラスソラテラスヤマテラス……『光魔法アマテラス』」
《やれやれ、今度の契約者は精霊使いが荒いな。まあよい、力を貸してやるぞ》
すると再び誰かの声(多分、精霊ジンの声だと思います)が聞こえ、同じ様にステッキに魔法が宿った。
聞いた事のない凄い魔法を、私は習得してしまった。
勇者様がニヤニヤしながら呟く。
「いやあ、ラクゴの魔法が上手くいくとはなあ……こりゃあ『エターナル』もいけるかも」
「え?何か言いました?」
「いやいや、こっちの話こっちの話。なあお嬢ちゃん。俺の教えた通りだったろう?使えたじゃないの。しかも裏詠唱。多分百年以上ぶりなんじゃないのかねえ」
確かにジンは五百年ぶりだとか言っていた。何でそんな凄い魔法を勇者様が知っているのか気になった。だけどそれが絶対勇者というものかもしれないと、変に納得する。
「はい、凄いです。流石は勇者様です。疑ってスイマセンでした」
「あはは、そうだろう」
『よく言うぜ。ラクゴのネタを何も知らない新米魔法使いにさせただけの癖に……おいおい、ラッカ何やってんだ!目が回るじゃねえかよ!ぐえええ』
魔剣さんが何かブツブツ呟いたけど、勇者様がぶんぶん振り回して何故か黙らせてしまった。
それから私は裏詠唱「アマテラス」を駆使して、ゴブリンを吹き飛ばしていくのでした。
爽快、爽快、爽快!だけど……それにしても、数が多い。
最初はいけるかも、なんて思っていたけど、時間が経つにつれ、不安な気持ちが芽生えてきた。
無理かもしれない。だってキリがないんだもん。
「ふええええん、無理だよおお。死んじゃううう」
私はいつの間にか泣きながらステッキを振っていた。
眼前を見渡すと、まるでゴブリンの海だ。吹き飛ばしても吹き飛ばしてもワープゾーンからやってくる。
――ああ、ダメだ。
絶望が押し寄せる。さっきは死に現実感がなかったけど、一度「いけるかも」と思ってからのこの状況の方が、胸に応える
「ふええええん。嫌だ。死にたくないよ!」
すると、目の前に勇者様が飛んできた。
「ひゃあ!!……あ、勇者様!」
勇者様は私の周りにいるゴブリンを斬り倒してくれる。
「ええと、お嬢ちゃん。大丈夫?」
「ナナセです!大丈夫じゃないです!」
私は何でこんな所でゴブリンの大群と戦っているのだろうか……。訳が分からない。
その後勇者様と私は術者を倒さない限り勝ち目はないという結論に至り、遠方の魔法使いを倒す方法を思案した。
「うーん、こうなったらアレしかないか」
アレって?勇者様の切り札か何かなのかな。
そして、この後私は勇者の勇者たる所以。勇者の神髄を目の当たりにした。
結論だけ言うと、勇者様はとても長い名前の必殺技を使って、地面ごと、ゴブリンも、術者も、全てを殲滅してしまったのだ。
同じ長台詞でも私とは格が違った。
想像を絶するあまりにもの威力に、私はへなへなと地面にへたりこむ。
でも、なんとか勝って、生き残る事が出来た。
私は安堵の溜息を吐く。
家に帰りたい。お風呂に入って、血を洗い流して、ゆっくり眠りたい。あ、その前にケーキが食べたい。甘くておいしいケーキ。ああ、想像するだけでお腹が空いてくる。勇者様がごちそうしてくれないかな。あ、でも助けてもらったのは私だから私の方こそお礼をしなくちゃいけないのかな。
ていうかこの勇者様、本当に滅茶苦茶だ。
ケラケラ笑いながら、緊張感のかけらもなく戦い、それで鬼の様に強い。
レベル1の新米魔法使いにとんでもない魔法を授けたり、
更にその100倍も凄い必殺技を繰り出したり、
喋る魔剣を持っていたり、
オクラホマスタンピードだって。
面白い名前。
勇者様、ハンサムなんだけどね。
表情が軽薄なのよね。
真剣な表情したら、ドキっときちゃうかもだけど。
――ああ、そういえば、所々で勇者様が口にしていた「ラクゴ」って何かしら?




