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異世界落語  作者: 朱雀新吾
ソードほめ【こほめ】
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ソードほめ【こほめ】⑦

 ホビットのイヘブコは手の平でヒップを転がしながら満面の笑みを浮かべていた。戦士から奪った剣を売った金である。


……こうも上手くいくとは思わなかったな。


「こほめ」を参考に、戦士の剣をほめて奪って売り払う。


……なるほど、ラクゴってのもなかなか役に立つじゃあないか。これをしばらくのシノギにしようかな。


 イヘブコはそう決めるとホクホク顔で、すぐに次の獲物を探す。そこで、戦士と言うほど屈強ではない、やる気のなさそうな若者が目に入る。

 イヘブコはその男の背中の大剣に目を引かれた。

――なんて真っ黒なんだ……。あれはさぞかし名のある剣に違いない。高く売れるぞ。


「ちょっと旦那!そこの戦士の旦那!」

 イヘブコは嬉々として手を振りながら若者の正面へと行き、呼び止める。

「ああん?なんだよてめえは?やっちまうぞコラ」

 若者は見かけの涼やかさに似合わず口の悪い男だった。

 だが、相手にとって不足なし、イヘブコは先程上手く行った通りに、若者にも仕掛ける。

「旦那。あんた大分と肌が……白いね」 

 そう、目の前の男は白かった。まさに優男といった風体である。

「おう、美白王子と呼んでくれ!」

 若者は何故か嬉しそうだ。肌のおだてが効いた。

「旦那、お若く見えますが、ご年齢は?」

「ああ、俺か?俺は23歳だぜ」

「いやあ、それは若く見えますな。どう見ても20歳そこそこですよ」

「おお、よく言われるぜ。ありがとうな」

「…………」  

 何だこの男は。軽い。さっきと勝手が違う。イヘブコは少々やり難さを感じたが、いや、ここはどうでもよい、これからが本番だと気合を入れ直し、話しかける。

「旦那。あんたのその鎧。なかなかの代物だね」

「お、そうか?お前に分かるかい?」

 先程の戦士と同じく、そこで一変、若者の表情が明るくなる。

――へっ、やっぱりこいつもさっきの戦士と同じか。誰だって装備をほめられりゃあ嬉しいもんさ。

 しめしめと調子に乗って、イヘブコは続ける。

「ああ、分かる分かる。その鎧が何度もあんたの命を救ってくれた相棒だって事がね。特にその肩当。いやあ、実に丸い。こんなに丸い肩当なんざ、そうそうお目に…………」

 だがイヘブコはそこである事に気が付き、言葉を失った。

 若者の鎧には肩当がなかったのだ。

 イフベコは思わず単刀直入に聞いてしまった。

「旦那、肩当ては?」

「あ?肩当?もいだ」

「もいだ!!??なんで?」

「背中掻く時に邪魔だから」

「はあ!!??」

 背中を掻くのに邪魔だから、肩当をもいだ?何を言っているのだろうかこの男は。肩当部分も立派な鎧の一部である。命よりも背中の痒さを選ぶとでも言うのか。

「どうよ?最高にイカスだろう?」

 全く意味が分からない。

「それに俺、そうそう攻撃当たらないし。ていうか当たっても、生身で平気だし」

「……そうですか」

「シポスポックのハゲ野郎に送り返して、肩当分の代金を返してもらったぜ!」

 そう言ってニカッと笑った。

「……」

――そうか、お調子者の若者が自らブームを作り出そうと、人と違う事をやっているのだ。エキセントリック気取りだ。

 目立ちたがり屋はこれだからと、イヘブコは嫌気が差した。

 だが、やはりあの剣は欲しい。イヘブコはそれでもめげずに続ける。

 若者の額当てに注目して、目的のモノを確認すると、口を開いた。

「旦那。額当てに『J』の文字があるね」

「ああ。これか?」

 若者は自分の額を指差す。イヘブコは嬉しそうに頷く。

「ええ。知ってますよ。『JUSTICE』。正義の『J』でしょう?」

「いんや。違うよ」

「いやあ、旦那には正義の『J』が良く似合う、いや、正義が旦那に似合うんだな、こりゃ。今度城門前で行われるコンテストに出た方が良いよ。あんたなら絶対に『ベストJニスト賞』に輝きますぜ!……って、え?」

 今、目の前の男は何と言った?

「今、何て言いました?」

「違うよ。『J』じゃないって言ったの」

「『J』じゃない……?いや、だってそこに」

 イヘブコが額を指差すと、若者はあははと笑った。

「もっとしっかり見てみろよ、ほら」

 若者に言われ、イヘブコは更に顔を近づけて額当ての文字を見る。

「…………あ」

 それは確かに「J」ではなかった。逆だったのだ。

「『し』ですか?」

 そこには「し」という文字が刻印されていたのだ。

「笑うなよ?シンサ一族の頭文字の「し」だとよ。ていうかなんで平仮名なんだよ。ふざけてると思わない?これじゃあ『ベストしニスト賞』しか貰えねえよ!」

 怒りながらも、ヘラヘラ笑う若者。

「で、それを誰かが目ざとく見つけやがってよ。あれは『J』だって勘違いしたんだよ。それでまさかの『J』ブームだろ?有名人ってのも嫌になるぜ。じゃあさ、俺がウンコを頭に乗っけ出したらその日から皆もウンコ乗っけるのかね?」

 イヘブコは若者が何を言っているのか分からない。シンサ一族?まさか自分がサイトピアの絶対勇者ラッカ=シンサだとでも言いたいのだろうか?

 近頃の若者の自意識の高さには目を見張るものがあると、イヘブコは苦笑するしかなかった。


――こうなったら早く終わらせて剣を奪ってやろう。

 この若者にあまり関わりたくないイヘブコは、さっさと仕事を終わらせようと心に決めた。

 背中の大剣を指差し、言った。

「旦那その剣ですが。いやあ、さぞや名のある剣なのでしょう?」

「お、分かるか。お前みたいなチビで汚くて臭いホビットだかチビッコだか分からないど腐れシーフにでも」

 酷い言われようだが、イヘブコは気にせずに続ける。

「いやあ、まるで黒水晶の様に綺麗な大剣ですね。さぞや名のある剣だとお見受けしますが、何ていう名前なのでしょう?」

「お、そうか。名前が気になるか。おい、オクラ。自己紹介だ」

 若者が背中に話しかけると、すぐに低い声が返ってきた。

『ああ?オレか?オレの名前は聞いて驚け、いや、耳で聞くだけじゃあ物足りない。その両の目ん玉でしっかりと見て、その下の鼻で嗅ぎつけ、その口で賛美しな。魔界生まれ、聖魔の洞窟育ちのシティボーイ。「魔剣オクラホマスタンピード」とはオレの事よ。オレの事は気軽に「ピード」って呼んでくれ。宜しくなホビットの小僧』

「いやあ、その剣の何が良いって、オイラみたいにペラペラお喋りしない…………事もないんですね。え、今、その剣喋った?」

 イヘブコはネツキ(キツネ)につままれた様な表情を浮かべて、訊ねる。

『ああ、喋ったよ。だってお前がオレの名前を聞くからさ。名前を聞かれたから答える。これって常識だぜ?ていうかお前の名前は何て言うのよ?だいたいさ、他剣(ヒト)に名前を聞く前に自分が名乗るもんなのよ、本当は』

「あ、ああ、お、オイラはイヘブコっていうケチなシーフです。あいすいません」

『イヘブコな!宜しくブラザー。オレはお前の事「ブコ」って呼ぶからさ。オレの事は気軽に「ピード」って呼んでくれよな』

 それはとんでもないお喋りな魔剣だった。

 漆黒の刀身をよく見ると、丁度真ん中あたりに、ぎょろっとした目玉が二つある。更にその下には牙の生えた大きな口が存在し、閉じたり開いたりしながら、饒舌に言葉を発していた。

『いやあ、一日に二人もブラザーが出来て、オレって幸せもんだな。なあラッカよ』

「ブラザー?誰の事言ってんだよオクラ」

『決まってんだろうが、お前と、このホビットのブコの事だよ。ていうかオレの事は「ピード」と呼べって言ってんだろうがこのくそガキが』

「お前みたいな剣はオクラで十分だよ。へへん」

『マジてめえは呪い殺すからな!』

「やってみろよ魔剣オクラちゃーん」

 背中合わせに口喧嘩を始める二人(一人と一剣)。


 明らかに只者ではない気がしてきた。

 魔剣が若者を「ラッカ」と呼んだ様な気も……。

 このまま全てを放り投げて逃げ出した方が賢い選択かもしれない。いや、確実にその方が良いとイヘブコの脳内センサーが告げていた。致死率の高いトラップの宝箱を目の前にした感覚の百倍は、ヤバい雰囲気を感じ取っていた。

 だが、イヘブコはまだ諦めない。喋る魔剣なんて、武器屋に持っていったら幾らの値がつくだろう。バスターソード等目じゃない。相当なヒップが手に入るに違いない。一生遊んで暮らせるかもしれない。

 ここが人生の岐路なのだと、イヘブコは今まで生きてきた中で一番の勇気を振り絞って、訊ねた。

「で、旦那。つかぬことをお聞きしますが。この、オクラホマスタンピード様、攻撃力はいかほどで?」

「だってよオクラ。攻撃力は?」

『444444444444444444444だぜ』

「いやあそれは少なく見える。どう見ても444444444444444444544」

 イヘブコは実際の攻撃力より100上乗せして言った。それに対して若者は唇を尖らせる。

「んだよたったそれっぽっちかよ。俺のプラスアルファって100程度?せめて555555555555555555555ぐらい言ってよ」

『待てラッカ。オレの攻撃力は4が並んでるから不吉で最高に格好良いんだからな。5並びじゃダメだぜ。分かってないな』

「7じゃないだけマシだろうが。それとも7が良かった?それだとほらキミ?『幸福の剣』だとか呼ばれちゃうよ?」

『うおーーー、それだけは嫌だーーー!この魔界の悪意に満ちたオレ様が「幸福の剣」なんて恥ずかし過ぎる。恥ずかしくて刀身が真っ赤になっちゃうよ!それならまだ5並びの方がマシ!』

「だろうがよ。へへん」

 またしても二人(一人と一剣)で盛り上がっている。

 それにしてもそんな桁外れな攻撃力など、聞いた事がない。確かに只者ではなさそうだが、大袈裟に勘定しているのだろう。所有者も大ぼら吹きなら、剣も然りである。

 イヘブコは動揺を隠しながら次のステップへと進む。

「旦那。図々しいお願いなんですが、ここで、素振りをしてもらっても構いませんか?いや、是非その剣を振るうお姿が見たくなりましてね」

「ああ、良いよ。ほい」

 若者は背中から片手で軽々しく魔剣を抜くと、下から上へと逆袈裟にふいと素振りを行った。

 

 その瞬間……イヘブコは自分の耳の近くで、ゴトリという音を聞いた。

 いつの間にか視界が変わっていた。

……なんだこれ?

 イヘブコは地面に倒れていたのだ。地べたに横向きに這いつくばっている。

 そして、身体を動かそうとしても身動き一つ取れない。顔の向きも変えられない。

 その視界には、道に立っている誰かが映る。

 誰なのか、分からない。

 何故か。それは、その人物に、首がないからだった。

 首のない胴体だけがポツンと立っていた。

 そして、その胴体に、イヘブコは見覚えがあった。


――あれ、あの背丈と、服は……。ああ、あれは………………オイラだ。

  オイラの首が、飛んだんだ。


 そして次の瞬間、イヘブコは先程いた地面に立っていた。何事もなかったように。しっかりと地に足をつけて。

「ああ!く、クビ……!」

 慌てて首を触る。

「……ある……ついている。……オイラの首が……ある」

 思わず地面にへたり込み、安堵の溜息をつく。

 気がつくと、全身からドッと脂汗が噴き出ていた。

「おう、どうだったよイヘブコ。軽く素振りしてみたんだけどさ」

「い、一体、幻覚を使ったんですか?どんな?あ、あの、今、首を、その、オイラ、斬られたかと……」

 若者に事情を説明しようとするが、あまりにも先程の体験が怖ろしく、上手く言葉に出来ない。喉もカラカラに渇いている。

「いや、お前の首を斬ったつもりはないんだけどさ。そうか、命を奪うビジョンをお主に見せてしまったか……。これぞ、ターミナルに脈々と受け継がれし伝統の剣技「臨死体験(デッドorアライブ)」……』

 そこの台詞だけは最初に剣を奪った戦士と一緒だった。

「えへへ、これは今戦士で流行っている決め台詞なの。知らない?サイトピア裏闘技場の英雄『猥褻戦士ハミチンさん』。俺ファンでさ。たまに使ってんの。他人の事言えないね。ミーハーだ。あはは」

 そう言って屈託なく笑う。

「ああ、あとイヘブコ。そこにへたりこんでいると、危ないよ。少し下がりな」

「……え?」

「いいから、下がりな」

「は……はい」

 よく意味も分からずイヘブコは膝を地につけたまま、なんとか、数歩後ずさりをした。

「首が落ちてくるからさ」

 その言葉にイヘブコは思わず自分の首を手で隠す。

「何を言っているんですか。オイラの首はもう落とさせませんよ」

「ああ、違う違う。本当に斬った首の方だから」

「……?」

 全く意味が分からない。何を言っているのか。

 その次の瞬間――イヘブコの目の前に巨大な物体が落ちてきた。


 ドーーーーン!!!!!!!!!!!!!!


 砂煙が上がり、視界が全て奪われる。イヘブコはとにかく目を瞑り、顔を隠すだけで精一杯だった。

 そして、煙がはけ、目の前に現れたもの。落ちてきた物の正体が判明する。

 それは、ドラゴンの首だった。首だけでイヘブコ10人分以上の大きさの、巨大なドラゴン。

「ちょうど上空を飛んでたからさ、素振りして、ああヤバいと思った時には遅かったわ。お前が素振りしてとか言うからよ?まあ、でも近所の店連中がすぐにやってきて、片付けてくれるさ。牙は剣、ヒゲは鞭に、ウロコはお守りや隠し味になる。知ってた?ドラゴンに無駄な部分なんてないんだぜ」

「はわわ、はわわ……」

 腰が抜けて立てなかった。この男は……。

「ああ、ちなみに胴体の方は斬られた事に気が付かなくて、今も飛んでいるから」

『ちょうど海辺りで落ちれば良いけどな』

「あ、あ…………あああああああ」


――ほ、本物だ。

 イヘブコは確信した。この男こそが「絶体勇者ラッカ=シンサ」であると。

 魔剣も本物。剣風なのか、魔法なのかは分からないが、素振りだけでドラゴンの首を斬るなど、異次元級の攻撃力がなければ不可能だ。


 なんてヤツに声をかけてしまったのだ。イヘブコは己の運の悪さを恨んだ。

 なんてこった。どうすればいい。逃げるか?


 たが、魔剣の価値が神話級であることは、彼が勇者である事と、今目の前に横たわっているドラゴンの首をもって証明された。

……本当に、あの剣を手に入れる事が出来たなら。イヘブコは、一生遊んで暮らせる。………………………。 

――くそ!やってやるか!ここまで来たら開き直りの精神だ。人生の別れ道。幸福の天使には襟足がないと聞く。なんとしてでも――手に入れてみせる。

 顔をパンパンと叩き、気合いを入れ直す。

 この相手におためごかしは通用しない。単刀直入にお願いする。


「旦那、その剣見せて!」

「あいよ」

 ぽい、と魔剣が放り投げられ、イヘブコは両手でキャッチする。

 即答かよ!と言うツッコみを我慢して、イヘブコは咄嗟に駆けた。


 走る。……走る。――走る!! 

 走る!!!走る!!!!とにかく走る!!!!!

 

 路地をジグザグに走りながら後ろを窺う。

 勇者が追いかけてくる気配はない。

――やったぞ!

 イヘブコは勝利を確信した。

「やった!やった!やったぞ!!!オイラは賭けに勝ったんだ!」

 さぞや高値で売れるだろう。これで一生遊んで暮らせる。

 興奮に心踊らせ走っていると、持っている剣が話しかけてきた。

『おいおい、ブコよ。オレをどうするつもりだ?』

「え?」

 忘れていた。そうだ、この剣、喋れるんだった。

「どうするつもりって……決まっているだろう。売るんだよ。」

『はあ、そうかい。ケケケ、それは高値で頼むよ。4444444444444444ヒップとかでね。でも、大丈夫かブコ?武器屋まで、お前一人で行けるか?』

 イヘブコはオクラホマスタンピードが何を言っているのか分からなかった。武器屋には先程も一人で行ったばかりである。ひょっとして、馬鹿にしているのだろうか。

「何言ってんだよ、行けるに決まってんだろう――」

 イヘブコが言い返そうとした――その瞬間である。

 突然、周りが真っ暗になった。

「……え?」

 何も見えない。

 走るのを止め、訳も分からず立ち尽くす。だが、周りを見渡しても同じで、何も見えない。

「……何がどうなった?夜になったのか?」

 イヘブコには何が起きたのか全く分からなかった。凄まじい焦燥感と不安だけが一編に募る。

 そこへニタニタと、誰かが笑う音だけが聞こえる。誰だ。決まっている。

……魔剣オクラホマスタンピード。

『ブコ……お前さ、オレの事どんだけ持ってた?』

「え……」

 心底楽しそうに、その声は訊ねる。

「な、何を……」

『1分程度だよな?いやあ、良かった。やっぱ普通のヤツならそうなるよな。長い間あんな洞窟で封印されていたから、オレの力が弱くなったんじゃないのか、不安だったんだ。つまり……あのラッカという男が、超弩級のバケモノなだけなんだな。いやあ、良かった良かった』

「いや、あの、な、何を言って……るんですか?」

 何も見えない不安で、敬語になってしまう。

『おお、ブコ。すまんすまん、すまんな。びっくりしたよな?教えてやるよ。あのな、オレは魔剣だぜ。普通に触ったり、装備なんてした日には、それ相応の呪いがあるに決まってんだろうがよ』

「の、呪い!」

 軽く放たれた言葉にイヘブコは悲痛の声を上げる。つまり、目が見えなくなる呪いという事か。

『目が見えなくなるだけじゃねえのよ』

 イヘブコの心を先回りする様に、オクラホマスタンピードは説明する。

『オレは別名、魔剣「友喰い」って言うんだ』

「と、友ぐい?」

『ああ、そうさ。喰べちゃうのよブコ。ブラザーをさ……。分かる?ヘイ、ブラザーブコ?』

 その友好的な言葉が、イヘブコの耳には悪魔の囁きに聞こえた。「友喰い」……。

『オレを所有しているヤツをオレは喰う。オレは今お前の「視覚」を喰った』

「視覚を……喰った……」

『最高の恐怖を味あわせるにはまずは五感からさ。視覚から始まり、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。記憶、知識、幸福、不孝、愛、憎、欲、エトセトラエトセトラ……そして最後は……命』

 悪魔の権化がいた。目の前にいるのは……その名の通り、魔剣そのものだった。

……だが何故ラッカは、勇者は特別なのか。ラッカは魔剣を持っても、振るってもなんともなさそうだったのに……。

『いんや、アイツとも同じルールの下でやっているよ』

 再びオクラホマスタンピードは心を先回りする。

『でも、あいつは生命力から何まで、常人とは桁違いだからな。バケモノなのよ。正直オレを持って平然と戦えるヤツがこの世界にいるのかって思ってたけど、いるとこにはいるもんだ。まあ、最終的にはアイツの命を喰えば、オレもあと1000年は何も食べなくて大丈夫だろうよ』

 良いヤツと巡り合ったと、ゲラゲラ笑う。

『さて、だがそれだとオレもちょいとお腹がすいちゃうのよ。で、その前に少しつまみ喰いでもしておこうかと……』

「アレ??何も聞こえない。何も見えないし聞こえない!!ええ!?誰か!助けて!!嫌だ!」

『あら、もう聴覚いっちゃったのかよ。ちょっと早くなーい?』

 いや、まあこれが一般人のレベルなのかね、と笑い、オクラホマスタンピードはじゅるりと舌なめずりをした。イヘブコには見えない血走った瞳は、まさに捕食者のそれであった。


「オクラ、それぐらいにしてやれ」

 ゆっくり後ろから歩いてきたラッカが、笑いながらイヘブコの手からオクラホマスタンピードを取る。刀頭をトンと叩くと、オクラホマスタンピードがげえと白い塊を吐き出し、それはイヘブコの目と耳に自然と入っていった。

 イヘブコに視覚と聴覚が戻る。

「…………うわあ、見える!聞こえる!助かった!良かったよー」

 えんえんと泣きながら、地面に突っ伏すホビット。

「まったく……。恐れ知らずのホビットだぜ」

 ラッカはそれをしゃがみ込んで眺めながら、面白そうに笑っていた。

――おべっかを使って戦士から剣を騙し取ろうなんて……馬鹿がそう簡単に思い付く事でもない。だが、思いついてもそれを実行するなんて……コイツはとんでもない大馬鹿野郎だ。

「お前、ほんの少し、ほんのちびーーーっとだけだが、気に入ったぜ」


 そしてイヘブコは極楽酒場に連れて行かれ、一福達と出会う事となる。


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