ソードほめ【こほめ】④
「一福様。私、思いつきましたぞ」
一福とクランエが楽しげに若々しい話をしている中、俯いてじっくり考えていたダマヤが、満を持して手を上げた。
「ダマヤさん。なんですか?聞かせてください」
「ずばり『ヒゲほめ』等どうですかな?」
そう言ってダマヤは自身の顎ヒゲをさわさわと撫でる。
「ほう、『ヒゲほめ』ですか」
一福は面白そうに身を乗り出すが、クランエは苦笑を隠しきれない。
「ダマヤ様、いくらご自分のおヒゲをほめて頂きたいからって……」
「いいや、断じて違うぞ!私自身がどうこうではなく。確かに私のこのプリティなおヒゲがヒントにはなっているが……」
「あはは、大丈夫ですよダマヤさん。アイディアというのはそういった身近な想いから生まれるものですから」
一福はダマヤから積極的な意見が出た事自体を喜んでいるように見えた。
「ですが、登場人物の殆どにヒゲを生やさなくてはなりませんね」
「それは一福様。登場人物をドワーフにすれば宜しいかと」
「なるほど。ダマヤさん冴えてますね」
「うひょひょ」
一福にほめられ、ダマヤは天にも昇りそうな心持ちで、思わず口からうひょひょがこぼれた。
「ご隠居にドワーフのほめ方を教えてもらいに行き『ドワーフはヒゲをほめておけば良い。喜んで酒の一杯でもおごってくれるだろう』と……これは良いですね」
「うひょひょひょ」
ダマヤの口元は緩みっぱなしである。
「はい。『ヒゲほめ』は有力候補にしましょう」
「有難き幸せ!!」
ダマヤは深く頭を下げた。
「ちなみに、根本的な疑問ですが、ターミナルにヒゲをほめる文化はあるんですか?ドワーフのヒゲをほめる文化は?当然あるんですよね」
まさかないなんて事はないだろうと、本当に軽い口調で、冗談のつもりで一福はクランエに訊ねた。
だがクランエはその問いに対して、少々気まずそうに答える。
「……いいえ、ありません」
「…………」
「例えドワーフのヒゲをほめても、彼らは基本ケチなので、何も出てきません」
元も子もなかった。
子供をほめる文化がターミナルにはないから、この世界に見合った『〇〇ほめ』を考えようと言っているのに、同じく慣習にない「ヒゲほめ」文化を推すとは。
ジジイが嫌いだから「爺ほめ」に反対し、自分のヒゲをほめてもらいたいから「ヒゲほめ」を推す。
清々しいまでの公私混同ぶりであった。
そしてダマヤは自ら作り出した気まずい空気の中でも、既に自分には何の関係もない事の様に、素知らぬ顔で空中を眺めている。これぞ最年少視聴者に任命されるまでに至った強靭な精神力であった。
「ええと、クランエ師匠は?何か浮かびましたか?」
場に立ち込める微妙な空気を晴らす為、一福はクランエに話を振る。
「そうですね……『国ほめ』など、いかがでしょうか?」
「国ですか?これまたスケールの大きな話になりましたね」
「ええ、国をほめて酒を頂く。サイトピアを中心に、魔族に対抗する後押しになるかと」
「なるほど。粋で良いと思います」
「うひ……ありがとうございます」
一福に直接ほめられ、クランエの口からも思わずうひょがこぼれる所であった。
「で、国をほめて、誰から酒を頂くのですか?」
「それは勿論、国王陛下からです!」
クランエは自信満々に胸を張って答える。
「国王陛下、からですか?」
「ええ、間抜けな男が近所のご隠居にタダで酒を飲める方法を聞きに行くと『国王陛下の前で国をほめたらいくらでも酒を飲ましてくれるわ』と教えられるのです」
「はあ」
クランエは嬉々として自分の考えた落語を口にする。
「そして、間の抜けた男がそれを実行する為に、王宮へ訪れます」
「ふむ」
そこで、クランエは自分の言葉に少しの引っ掛かりを覚えた。
そしてその引っ掛かりを一福が見逃す訳もない。
「クランエ師匠。ちなみに門番は、通してくれますでしょうか?『国王の前で国をほめにきました。お酒飲ましてください!』なんて男を」
「それは……私が門番なら絶対に通しませんね」
「あはは……そうですね」
そうして「国ほめ」も却下となった。
クランエは一福に頭を下げる。
「スイマセン一福様。私が浅はかでした。落語とはリアリティも求められるのですね」
「いえいえ、大幅に筋を変えれば『国ほめ』も成立するとは思いますよ。大袈裟もデフォルメも落語の華ですし。ですがあたしはね、何より、お二人が真剣に考えてくださっているのが一番嬉しいのですよ。先程からついつい口元がにやついてしまって困ります。本当にご意見、ありがとうございます」
やはり落語は難しい。自分の様なカタブツにはアレンジなど不可能なのだ。だがクランエは一福が喜んでくれ、ホッとしていた。
――よし、無理でも無茶でも、一福様の為に私はもっと考えるぞ。
クランエが前向きな気持ちで新しいアイディアを思案しようと腕を組んだその時、隣から舐める様な視線を感じた。見るとそこには満面の笑みを浮かべたダマヤがクランエの顔を覗き込んでいた。
「かたーい。クランエかたーい。『国ほめなど、如何でしょうか……』だって。スケールでかーい。落語は大衆文化よ。落語の事分かってないわー。ぷぷぷ。私はヒゲをほめる文化こそなかっただけで、それを除けば百点だったのに……。お主ときたら……『国ほめ』……ぷぴぴ」
只々他人の意見を否定し、若い芽を摘みたいだけの、権力という名の妄執に凝り固まった何の役にも立たない物体が、そこにはいた。




