表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界落語  作者: 朱雀新吾
ダマヤ問答【蒟蒻問答】
100/128

ダマヤ問答【蒟蒻問答】②

『いやはや、やりましたぞ!視聴者復活ですぞい!イエーイイエーイ!やっぴいいいい!!!!うっっっひょほほほほい!!ひいいいいいいいいいいいいい!!!』


 次の瞬間、もう笑いが起きた。


 ダマヤが登場しただけで、笑いが起きる。

 ダマヤとはターミナルの人間にとって「笑い」そのものであった。

 人間の醜さと欲にまみれ、それでいてどこか憎めない愛嬌と、何をやっても上手くいかない痛快さとおかしさは、万人に愛されていた。


 そして、何より三代目が演じるダマヤのウザさが素晴らしい。

 初代、二代目は直接本人と交流があった為、思いきってウザさを解放する事が出来なかった。


 だが、それでも当然、それぞれの味が存在する事は特筆しておきたい。

 初代一福のダマヤにはどこか憎めない暖かみが。

 二代目一福のダマヤには屁理屈の中に混ざった絶妙な毒が。

 そして、三代目一福のダマヤは、心底ダマヤを馬鹿にして演じる爆発力があった。


『大臣!!この楽々亭一福様のお力で、勇者ラッカはその命を救われ!聖剣と魔剣を掛け合わせ!聖魔剣なる、真の勇者の証しを手に入れたのです!いまやラッカ=シンブと名を変えた彼の活躍は目覚ましいものがあります。それも全て、この楽々亭一福様のおかげなのです!そして、その楽々亭一福様を召喚したのがこの私、ダマヤでございます!これでも尚、噺家が役立たずだと仰いますか!?召喚が失敗だと言われますか?』

『ぐぬぬ、おのれダマヤ』

 ダマヤの正論に、心底悔しい表情を浮かべる大臣。

『さあ!是非とも私の宮廷視聴者への復帰を願いたいものですな!一福様ともお約束したのでしょう?それとも何ですかな?大臣様ともあろう方が……約束を?……反古に?……すると?……でも?』

 人間の腐り切った、何とも嫌らしい顔でダマヤは大臣に詰め寄る。


 この時点で客は完全に大臣に感情移入する事になる。

 言っている事は幾分ダマヤが正しくても、生理的、人間的に大臣の味方をしたくなるのが、この噺の醍醐味であった。


『……確かにそのイップクと言うハナシカのラクゴで聖剣が見つかり、ラッカも命を救われ、真の勇者の称号を得たと聞く。その件に関しては本当によくやった。イップクとやら、礼を言うぞ』

『いえいえ、あたしは大した事はしてませんよ』

 ダマヤの後ろにクランエと並んでいた一福がにこやかに手を振る。


『ほら、だったら私を早く視聴者に復帰させて下さいよ!』

『だが、それとこれとは話しが別だ』

 ダマヤの勝ち誇った言葉に大臣がきっぱりと言い放つ。

『ハナシカに問題がなくても、お主に問題があるだろうが』

『え?私ですか?私に一体何の問題が?』

 心底不思議そうに聞き返すダマヤを、大臣は怒りも露わに怒鳴りつける。

『パンツ一丁で宮廷内を徘徊しおって!あれはどういうつもりだこの変態!』

『あ、あれには色々と事情がありまして……』

『事情?どんな事情があると言うのだ!宝物庫もグチャグチャだぞ!どれだけの損害を出したと思っているのだ!』

『いや、あれは、その。私にもよく分からない事でして……』

 それには流石にたじろぎながらも、ダマヤは必死に弁明する。

『大臣、信じて下さい。私はこの国の為を思っております。視聴者に復帰したいのです』

『うるさい、貴様は自分が楽したいだけだろうが、業績もモラルもない、このごくつぶしが!』

『いや、本当です。私は国の為に……』

『嘘をつけ。自らの保身の為だけだろうが。義理堅い者かどうかは、私が一番知っておるわ!』

『いやいやそんな筈は……』

『それとも何か?裏があるのではないか?ギルドから金でも貰って、間者にでもなったか?そうなんだな?

『大臣、何を言っているんですか。そんな訳……』

『この裏切者!』

 ダマヤの言葉を遮って大臣が一方的に叫ぶというやり取りが続く。


 初めにダマヤの増長によりたっぷり大臣に同情させておいて、次の場面では大臣の頑ななまでに聞く耳を持たないダマヤへの大仰な拒否反応で、客をダマヤ側に感情移入させる。

 観ている者が主軸をずらされ、気持ちを揺さぶられるネタであった。

 同時に、演者のスキルも問われる、短いながらも奥の深い噺である。


 クランエやミヤビに宥められ、ようやく落ち着きを取り戻す大臣。


『……まあ、ダマヤがどれだけ不適格だと言っても、約束は約束だ。私はサイトピア国の正義をその背に頂く身として、偽りは申さぬ。復帰を許そう』

『ひゃっほほほほほーーい!!やっぴいいいい!』

 とうとう大臣の口から出たその言葉に、ダマヤはピースをしながら飛び上がって喜ぶ。


 だが、話には続きがあった。


『……だが、問題があっての』

 申し訳なさそうに、大臣が言う。

『問題?何ですか?』

 クランエが訊ねると、大臣は一度頷いて、困った様に話し始めた。


『いやな、ダマヤを追放してから視聴者の任務が滞ってはいかんと思ってな、代役をもう用意してあるのだ』

『え、視聴者をですか?私の代わりの?』

『ああ、そうだ。おい、イケよ』

 そして大臣は奥の部屋から一人の人物を呼び出した。


 魔法使いのローブを身にまとい、眼鏡をかけた、痩せた中年男性である。


『ダマヤ君……久し振りだね』

 そう言ってイケは、眼鏡をクイッと上げた。

『イケ……』

 イケを見て、ダマヤは驚愕に顔を歪める。

『大臣……何を考えているのですか?こんな優秀な男に視聴者が務まる訳がないじゃないですか!?』


 そう、イケは異世界落語の登場人物として以外でもよく知られている、サイトピアの天才であった。

 ダマヤの魔法学校の同期であり、成績は首席で「百年に一人の天才」と呼ばれていた。

「百年に一人のクズ」と呼ばれたダマヤとは双璧をなし「百年に一人が二人いる世代」と言われている。


『そういう訳だダマヤ君。残念ながら君の居場所はもはや存在しないのだよ』

 そう言ってイケは眼鏡をクイッと上げる。

 そこへ大臣がにこやかに笑いながら口を挟む。

『まあまあ待て待てイケ。それではダマヤがあまりにかわいそうだろう。どうだろうか。ここは二人で勝負をして、優秀な方を視聴者として戻すというのは』

『ああ、大臣。それは良い考えですね。そういう訳だダマヤ君。僕と勝負したまえ』

 まるで初めから台本があるかの様につらつらと述べる大臣と、クイッと眼鏡を上げるイケ。


 いちいち眼鏡を上げるイケの人物に、客は大喜びであった。

 だが、これは三代目が考え出したアレンジだと言われており、そもそも実在のイケは眼鏡をかけていなかったという説まである。


 ダマヤは急変した事態に脅えながら、大臣に質問する。

『その、優秀とは、視聴者としての優秀さですか?』

『……まあ、その通りだケロ』

『ケロ?』

『イケは魔法学校の首席ケロ。万が一も起こらないケロ』

『どうしたんですか、大臣。突然ケロケロ言い出して』

 突然、情緒不安定になった大臣に、クランエも心配して声をかける。

『まあ、気にするなケロ。ダマヤを相手にすると、色々あるケロ』 

『はあ……』


 イケの「眼鏡クイッ」に続いて、大臣の「語尾がケロ」。これも三代目一福お得意の誇張した人物作りかと思われがちだが、この部分に関しては当時その場にいた初代楽々亭一福も、同じ様に大臣を演じてみせる。つまり、実際にこの時、大臣はこの様な口調だったのだ。

 ダマヤを目の前に、情緒がおかしくなった大臣を現す悲劇と喜劇の絶妙なバランスを上手く表現している。

 風と踵は1パーセントも通じ合う事がない。所謂「風と踵の関係」という、ターミナルに古くから伝わる言葉を象徴した場面でもあった。

「ダマヤ問答」はこの様に勢い重視のカオスな様相が持ち味である。


 大臣の異変を横目に、イケがダマヤに向かって言う。

『ダマヤ君。僕はね、かねてより視聴者に関して考えていた事があってね。もっと出来る筈なんだよ。資料を作り、カテゴライズさせ、異世界の文化をもっと詳細に分析する事がね。現状は何だ?ただ横になってテレビジョンを観るだけの自堕落な生活。先代視聴者からの情報伝達に関しては、全て口伝だと聞く。それでもし視聴者に何かあったらどうするんだい?そう、今回の君の様にね』

 イケはニヤリと笑い、眼鏡をクイッと上げた。


『うぬぬぬぬぬ』

 そんなイケを鬼の様な形相で睨みつけるダマヤ。


 状況はダマヤが完全に劣勢であった。


 その様子を見て、初代一福が首を傾げながらこんな事を言う。

『大臣様。なんだかどうしてもダマヤ様を、いえ、あたしを宮廷に近づけたくない理由がおありのようですね。何か都合の悪い事でもあるのですか?』

 すると、大臣は目に見えて動揺した。

『い、いや、そ、そんな事はあるまい』

 しどろもどろになった大臣に対して、ダマヤも徹底的に追求する。

『な、ななな!んででですかそのた、た、た、態度は。だだ、だだだだ大臣!怪しいですよ!』 

『落ち着いてダマヤさん。貴方も随分怪しいですよ』

 そう初代が突っ込みを入れるシーンで、客は愉快に笑う。

 ちょっとしたくすぐりでもしっかりとした反応が得られる。それは客が落語の世界にのめり込んでいる証拠であった。


『と、とにかく大臣。無茶苦茶ですよ!絶対に勝負なんてしませんから!!おかしい!絶対におかしい!』

 そこで、とうとうダマヤが切れた。

 駄々をこねるように首を降りながら、地団駄を踏む。

『ええい、うるさいうるさいうるさい!!』

 同じく切れ返した大臣が、ブツブツと呪文を詠唱してえいと、ダマヤを指差す。

 すると、ダマヤの姿が一瞬消えて、また現れた。

 ただそれだけの事だが、そこには先程までとは別人の様に焦燥したダマヤがいた。


『ダマヤ…………様?』

 様子のおかしいダマヤにクランエが声をかける。

『…………おい、クランエ。今?どのくらいの時間が過ぎた?』

 ダマヤはクランエに訊ねる。

『え?ほんの一瞬ですが……』

『そうか……。いや、私は別次元に連れて行かれた。そこで私は大臣から説教を喰らって、そのまま一年放置されて、帰って来たんだよ』

『い、一年ですか……』

 一瞬で一年を経過させられるとは……。

 それを聞いて、クランエは大臣のダマヤに対するあまりにもの容赦の無さにゾッとした。


『よし、始めるぞ!』

 ダマヤが弱った隙を突き、大臣は強攻突破で話を進める。


『勝負は勿論、サイトピア問答だ!』

 そう、高らかに宣言した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ