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異世界落語  作者: 朱雀新吾
ソードほめ【こほめ】
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ソードほめ【こほめ】①

 サイトピア王宮の執務室。そこでは大臣秘書官が大臣にサイトピアの近況を報告していた。

「エルフとドワーフの連合軍の各々のリーダーが決まりました。総括者としては兼ねてより大臣が仰られていた通り、サイトピア軍副将軍を付ける意向です」

「ああ、分かった。だが、まさかこう短期間で実現するとはな。勿論、良い事ではあるが」

 秘書官は神妙に頷いて、顔を上げる。

「エルフとドワーフ間の緊張がある日を境に少し和らいだお蔭だろうと、考えております」

「そうなのだ。一体あの種族間に何が起きたというのだ……」

 エルフとドワーフの仲の悪さは有名である。人間と魔族とまでは言わないが「ケンケン(異世界に於ける犬)ウッキャンティー(異世界に於ける猿)の仲」と言われる程である。

「巷の噂では、酒場で話し合いを行ったというのですが」

「まさか、それで意気投合したとでも?共に酒を交わして?」

「はい」

 大臣はにわかには信じ難かったが、現実に事態は進展している為、それ以上は何も追求しなかった。

「だが、この連合軍にはまだ問題がある。完全な一枚岩には成りきれていないのだ。大きな争いは回避出来たとはいえ、エルフとドワーフの小さな小競り合いはまだ起きていると聞く。……まあ、この件は後でじっくり考えよう。次を聞こうか」

「は、次は陛下の御命令でありました、魔法部隊の編成についてですが」

「ああ、その件に関しては大司祭に任せようかの。魔法に関しては大司祭が一番。ペッタンモッチリは(餅は)ペッタンモッチリ屋(餅屋)じゃ。取り次いでおいてくれ。と言いながらもあの方の事じゃ。大司祭は勝手に進めておろうがな」

「はい」

 そしてその後も魔族の城へと渡る為に、どう運河を越えるか、慢性的な水不足、食糧難をどう乗り越えるかをそれぞれ頭を抱えながら、その他の部署へ案件を割り振り、大まかな対処の方針を決めていった。

「さあ、次じゃ」

「は。これは、つい先程入った情報ですが、先日に引き続き、勇者ラッカ=シンサが魔族の砦をまた一つ落としました」

 その言葉に大臣は表情を輝かせる。

「おお、そうか !これで何個目だ?」

「はい、16個目でございます」

「16個!それは凄いな。流石は絶対勇者の名を欲しいままにする男だ」

 絶対勇者ラッカ=シンサ。齢二十そこそこの若者であるが、サイトピアでその名を知らない者はいない。預言師により認められ、勇者になるべく育てられた英雄。

「いや、あやつもとうとう勇者の自覚を持ってくれたという事か。我々の苦労もようやく報われそうじゃ」

 幼き頃から心配ばかりかけられていたラッカが、とうとう勇者として一人立ちしようとしている。大臣は自然と目頭が熱くなるのを感じた。

「それで、あやつは、ラッカは今どこにおるのじゃ?城下まで来ているのなら、たまには王宮に顔でも出せと……」

「いえ、ラッカ=シンサは現在城下にはおりません。聖魔の洞窟に向かっているそうです」

「なんと!聖魔の洞窟か!」

 聖魔の洞窟。その単語に大臣は更に敏感に反応した。

「聖魔の洞窟というと、伝説の剣じゃな。うんうん、最近のあやつの躍進ぶりなら、そろそろ聖剣に挑んでも良かろう。うんうん」

 うんうんと頷く。

「ああ、だが知っていると思うが、あそこには聖剣と魔剣の二つがある。くれぐれも魔剣を選ぶなと、伝えておいてくれ」

「はい」

 そこで大臣は少し頭を傾げる。喜びの中の、一抹の疑問。

「だが、どういう風のふきまわしだ。あの無気力勇者がこんなに働くなど。2年前の魔族の侵攻の際など、王国に魔族が侵入するまで眠りこけていた様なヤツじゃぞ。あの時は魔族軍の将軍シーンダが現れ、あやつの興味を惹いてくれたから良かったものの……。敵に救われるとはまさにあの事じゃ」

 ラッカとシーンダの壮絶なる死闘は、いまだにサイトピアで語り継がれている。

「シーンダ程興味を持つ何かが、あやつの前に現れたとでも言うのかの……」

「失礼します」

 大臣が思案に暮れたその時、執務室の扉が開かれ、補佐官が入ってきた。

「どうした?何事じゃ?」

「大臣にご報告します。只今城門にダマヤ様が参上されており、謁見を望んでおられますが……」

 ダマヤという名前を聞いた瞬間、大臣の顔が苦々しく歪んだ。

「追い返せ!ヤツの顔など見たくもないわ!」

「いえ、ですが、なんでもこの度の砦討ちには救世主が深く関わっているとか……」

「うるさい!ヤツの言う事を鵜呑みにするな!ヤツの連れてきたのは救世主でもなんでもないわ!ただの芸人だろうが!!」

「ですが、ダマヤ様からどうしてもと……」

「ええい、うるさい!会わんと言ったら会わん!」

 大臣の尋常ではない剣幕に補佐官は助けを求めるように同僚の秘書官を見た。だが、秘書官も自分にはどうしようもないと小さく首を振るのみだった。

「それにヤツの事はダマヤ様じゃなくて良い。『様』などつけるな忌々しい!今度からダマヤがやってきたと言え!ワシが許す!」

「は、はあ」 

 ダマヤはここ一週間程、毎日大臣に謁見を求めているが、その度に大臣はこの様に怒り狂うので秘書官からしてみれば、仕事も滞り、大臣の精神衛生上も良くなく、いい加減辟易していた。

「そもそもなんだ。史上最年少視聴者(ウォッチャー)とは!類いまれなる集中力!?ヤツは働きもせずにただボーッと、毎日テレビを見てたいただけだぞ!ただのダメなヤツではないか。羨ましいわ!!」

 大臣がそう吐き捨てる。秘書官はそのタイミングを見計らい、いよいよ口を挟んだ。

「大臣。それではそろそろ次の案件に参りましょうか……」

「お?おお、そうじゃな。いやいかん。あんな役立たずに関わっている時間などないのだ。で、何の話だったかの」

 大臣はそう言うと、幾分落ち着きを取り戻し、秘書官を促した。

「はい。先程大臣も仰られたように、やはりエルフとドワーフの小競り合いは全てなくなったとは言えません。以前よりかは緩和されているとはいえ、連合軍となりますと、更なる連携を重ねなくてはなりません」

 大臣はみなまで言うなと片手を秘書官に翳し、口を開いた。 

「誰か間に立つ者がいなくてはならんということじゃな!仲介人か。誰かいないのか!エルフ、ドワーフ両方から慕われ、仲を取り持つ程、弁の立つ者は!」

「至急、王宮内、城下問わず、適任者を探してみます」

「任せたぞ!」

 その時、補佐官がまだ秘書官の斜め後ろに立っているのを大臣は見た。

「なんじゃ、お主、まだ何かあるのか?」

「は!ラッカ=シンサより伝言があります」

「おう、なんじゃ?それを早く申せ。全く。ダマヤではなく、それだけで良かったのじゃ」

 大臣は破顔して補佐官を促した。だが、その勇者からの伝言を聞くと、明らかに目を丸くした。

「『落とした砦が16個だからって、別に一つ誤魔化してやいないぜ』だそうです」

「……なんじゃ、それは?よく意味が分からんが。それだけか?」

「はい」

 大臣は首を傾げる。それを尻目に秘書官は訳知り顔で頷く。

「ああ、それは巷で噂のラクゴというものでしょう」

「ラクゴ?ふうん、聞いた事がないの。城下ではそんなものが流行っているのか。ふうん」

 特に気にも留めず、大臣は補佐官に頷いてみせた。

「まあ、よかろう。で、伝言は他にないのか」

「あります」

「おお、なんじゃ」

「『大臣、私のお話を聞いて下さい。私はサイトピアで長年視聴者(ウォッチャー)として国の為にそれはそれは辛い任務に精進して参りました……』」

「それは……ダマヤの伝言だろうが!!バカモン!!」


 執務室に叫び声が響き渡った。



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