表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界落語  作者: 朱雀新吾
クロノ・チンチローネ【時うどん】
1/128

クロノ・チンチローネ【時うどん】①

 異世界「ターミナル」の北東に位置する国「サイトピア」。その王宮の執務室。そこには国王を補佐する、国内二番目の権力者である大臣を始め、サイトピアに於ける様々な管轄の、最上位の役職の人間が居並んでいた。

 彼らは揃って、ただある一つの知らせを切望していた。

 もう、何日待っているだろうか。

 ある者は椅子に腰かけ、掌を合わせ机に肘を付き、祈っている。

 ある者は窓の外を眺め、片手で十字を切り、祈っている。

 ある者は静かに目を瞑り、何かを悟った様に、祈っている。

 誰もが皆、等しく祈っていた。ターミナルの滅亡を阻止する為の、重大な使命が成功する事を。


 そして、その時は訪れた。

 外から扉を叩く音が執務室に響く。

「大臣、ダマヤです」

「おお、ダマヤか!入れ!」

 待ちかねたとばかりに叫び、大臣はダマヤの入室を許した。

「失礼します!」

 部屋へと入ったダマヤは、後ろに二人の男を連れていた。

 一人は宮廷召喚士のクランエ。

 もう一人は、見慣れない服を着た、細身の男。

 その細身の男の姿を認めるや否や、大臣を始め、執務室にいる者達から一斉に歓声が上がった。

「おお、ダマヤよ!召喚に成功したようだな!」

「でかしたぞダマヤ!」

「よくやった!!」

「これで、世界が救われる!」

「この者が、救世主……!!」

 見慣れない服を着た、細身の男を見つめ、涙ぐむ者までいる。

 執務室は感動に包まれていた。

「異世界研究の古い文献に書いてあります。私は知っておりますぞ。あれは確か『キモノ』という装備です……」

 国の魔法使いを総べる大司祭が細身の男の衣服を見て、言った。

「おお『キモノ』!!すると彼は『サムライ』か!」

 サイトピア軍を指揮する将軍が興奮して叫ぶとそれに追随して「おお、サムライ……。素晴らしい。一騎当千、伝説の騎士、サムライ……チョンマゲ、ハラキリ、キンチョー……」と感嘆の声が周囲から上がる。

 だが、その反応に対してダマヤは申し訳なさそうに首を横に振る。

「いいえ、彼は『サムライ』ではありません」

 その答えに、大臣が訝しげにダマヤを見る。

「『サムライ』ではない?すると、そうか……『ニンジャ』か?『ニンジャ』だな!」

 大臣の言葉に再び室内に「おお、ニンジャ……。素晴らしい。異世界の、伝説の暗殺者、ニンジャ……。シュリケン、マキビシ、ミガワリノジュツ……」というざわめきが起こる。

 だが、ダマヤの表情は、一向に晴れない。いや、一層曇るばかりである。

「いいえ、彼は『ニンジャ』ではありません」

「『ニンジャ』ではない?なんだ、だったら彼は何なのだ。『ジュウジュツカ』か?『ケンジュツカ』か?はたまた『ボクサー』か?どちらにせよ、異世界でたいそう名のある武芸者である事は間違いあるまい。のう、ダマヤ?いやはや、でかしたぞ!!」

「いや、それが、その……」

 大臣の言葉に対して、とうとうダマヤは苦々しい表情で黙り込んでしまう。

「どうしたのだダマヤ。お主、様子が変だぞ。顔色も悪いし、よく見れば小刻みに震えておる。何かあるのなら、正直に申してみよ」

「……」

 ダマヤはしばらくそのまま黙って下を向いていた。

 だが、意を決した様に顔を上げると――言った。



「ええと、その、いや、あのですね。彼は……『ハナシカ』です」



   

~異世界落語~

挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ