殴り込み
15時。
号砲が鳴り、駆の高校初レースはスタートした。
駆はアウトコースからスタートしたが、すぐに先頭に飛び出し、一周目(400m)のラップを奪う。
アナウンス「一周目の通過は60秒」
かなりのハイペースのレース展開と、それを創り出しているのが今月高校に入学した1年生であることもあり、会場の注目が集まった。
駆「このレースは、俺にとって京都高校陸上界への殴り込みなんだ。負けられない。」
駆はその想いを胸に一心不乱にペースを上げた。
そのままの勢いで二週目のラップを奪う。
アナウンス「二週目、800m。通過タイムは2分01秒。この一周61秒です。」
脇中「ここまでのペースで行くと、大和のベストすら上回るな。熱くなりすぎてるな、あいつ…大丈夫だろうか。。」
田村「健太さーん。中学チャンピオンの初陣ですよ?これくらい派手にやってもらわねぇと、なぁ東谷!」
東谷「駆、普段の練習から速くてすごいけど、試合でみるとこんなにレベルが高いんだ…!すごい!!」
駆の創り出したあまりにもハイペースのせいで、もはや駆の次点の選手は、駆からすでに10秒ほど突き放されていた。そのままの展開で、ラスト一周の鐘が鳴る。
カランカランカラン!!
三週目のラップも無事に駆が奪う。
しかし……
アナウンス「先頭変わらず山滋高校の高道くん。1200mの通過は3分09秒。この一周68秒です。少しペースが落ちています。」
そう、この日のペースは、駆にとっても限界を突破したものであり、既に限界を迎えていたのだ。
駆「ハァ……ハァ……くっ……」
駆の脚色が鈍る。後ろとの差は5秒ほどまで縮まっている。
その時だった。
牛尾「駆!!てめぇこれまでのビッグマウスはどうしたんだ?都大路優勝が聞いて呆れるぜ!へばってんじゃねぇぇぇえええ!!!がんばれ!」
付き添いの牛尾が、スタート地点から全力の応援をしている。
その声はしっかりと駆にも届いていた。
駆「……ハァ……へっ……お前に言われることじゃねぇんだよ……!!」
残り200mを切って、後ろとの差は更に縮まり、遂に2秒ほどになった。しかし駆は、一気にペースを上げた。最後の、渾身の力を振り絞って。
ー表彰式。
アナウンス「1500mの表彰です。1着、山滋高校の高道 駆くん。タイムは3分53秒86。」
駆は、自己ベストを約2秒更新し、優勝を飾った。
鹿命館宇治高校に、ここ数年は優勝を全て取られていたため、山滋高校の面々が大いに盛り上がっている。
脇中「高道!よくやったな!感動したぞ!!」
田村「かーけるー!お前健太さん泣かせてんじゃねーぞーーー!!」
表彰式を終えた駆が向かったのは、牛尾の元だった。
駆「牛尾。」
牛尾「おつ。お前やっぱすごいわ。流石だな。」
駆「お、お前のサポートのおかげだ、です。ありがとう……」
牛尾「照れてんの?何?告白?」
そして駆と牛尾が取っ組み合う。
今日ばかりは、主将の脇中も目を細めてその様子をただ、優しく眺めていた。
そして、このレースを観ていたもうひとりの人物。
そう、鹿命館宇治のエース、大和と、主将の森島だ。
森島「高道か。あいつクソ強ぇな〜。ウチに来て欲しかったわ。」
大和「あぁ。いい走りだ。」
森島「……勇鷹マジで思ってるそれ?」
大和「……?うん。」
今回のレースによって、高道の注目度は確実に上がった。それは、他校からの研究対象になることも意味していた。
駆にとって今日の快走は吉となるのか、それとも凶となるのか。それは2ヶ月後の京都府インターハイ予選で知ることとなる。
☆登場人物☆
・高道 駆
中学チャンピオンになり、鳴り物入りで山滋高校に入学したエリートランナー。
全国高校駅伝(都大路)に、全てを懸けている。
〇ベストタイム
1500m…3分55秒98
・牛尾 貴裕
地元の中学から進学してきた1年生。高道と違い、持ちタイムなども平凡。
〇ベストタイム
1500m…4分25秒50
・東谷 健吾
高校から陸上競技を始めた初心者、1年。気が弱い。
・脇中 健太
山滋高校3年生で、陸上競技部主将。駆と同じく、強い山滋憧れており、再建を狙う。
〇ベストタイム
5000m…15分01秒33
・田村 龍一
山滋高校2年。一見不真面目なヤンキーに見えるが、実は後輩の事も気にかけたり、結構いいやつ。
〇ベストタイム
5000m…15分03秒02
・大和 勇鳳
鹿鳴館宇治高校3年。驚異的な才能を持ち、2年にしてインターハイ、都大路準優勝を果たした鹿宇治高のエース。
〇ベストタイム
1500m…3分48秒98
5000m…13分55秒62