強豪高校の驚異
「パン!!」
号砲が鳴り、男子5000mがスタートした。
山滋高校からは、主将の脇中と、2年の田村が出場している。
※ちなみに、6月にインターハイ京都府予選が行われるが、その予選に出るには出場権が必要であり、
それはこの春季大会で6位以内に入ること、
あるいは、各市内ブロックの予選で25位以内に入ることで得られる。
脇中と田村が出ているレースには、去年の全国高校駅伝準優勝の鹿鳴館宇治のエース、大和 勇鳳が出場している。
レースは大和の独壇場となった。
第二集団を形成しているのは、脇中と田村と、鹿鳴館宇治の数名で、そのままレースは最後まで流れ込んだ。
結果、大和は2位に40秒差の大差をつける14分05秒02で優勝を飾り、2位、3位も共に鹿鳴館宇治の選手で、共に14分台をマークしていた。
「脇中さん5位、田村さん6位!二人と京都インターハイの出場権は取れた!」
タイム取りをしていた東谷に、駆が問う。
「タイムは?」
「脇中さん15分01秒33、田村さん15分03秒05!二人ともベストだって!」
「厳しいな……」
駆は、戦慄していた。
全国高校駅伝に出場できるのは府内で1校のみ。
しかし現状を見ると、鹿鳴館宇治の力が圧倒的である。
「なに暗い顔してんだよ。」
牛尾が駆の背中をポンと叩く。
「大丈夫、何でもないよ。」
「まさかビビッてんの?大和さん1500も出るよね?確か。」
「んなわけないだろ。俺は目標への第一歩として、今日はサクッと優勝してくらぁ。大和さんにだって負けねぇ。」
「大和は1500は棄権するらしいぞ。」
声の主は、脇中だった。
「あ、おつかれっしたぁ!!」
続けて駆が問う。
「大和さん棄権するんですか!?」
「いいか高道。大和は天才だ。あいつの強さをお前はインターハイ予選までは知らなくていい。今日は大和は出ないから、優勝して入部条件を満たしてこい!」
ー「ーなにしょぼくれてんだよ!」
田村が駆に声をかける。
「しょぼくれてませんよ」
「いいや、しょぼくれてる。お前どうせあれだろ。大和さんと勝負したかったんだろ。」
「そりゃあ……!」
「あのな、今はやめとけ。時期が早すぎる。あの人には、今の力ではどう頑張っても勝てないよ。」
「……くっ!」
ー15時ー
1500mのスタート地点。各選手が最終点呼を受けている。
駆の横には、付き添いの牛尾の姿。
「お前、本気で大和さんに勝とうとしてたん?」
「当たり前だろ。」
「流石だわwま、扶養家族忘れんなよ。」
「扶養家族?」
「お前の結果次第で俺まで入部ができないかも知れないんだぞ。しっかり走ってくれよ。」
「任せろよ。」
「ーそれでは、男子1500mの出発です。」
会場にアナウンスが入る。
駆は、出場選手中持ちタイムは2番目。
一番は、あの鹿鳴館宇治の準エース。
「位置について!!」
「ーこの静寂だ。俺はここで生きている。これからの戦いに生きるのが俺だ。絶対に勝つ。ー」
駆は、心の昂りが抑えられずにいた。
そしてー
「パン!!!」
駆の高校陸上の扉を開く、号砲が鳴った。
☆登場人物☆
・高道 駆
中学チャンピオンになり、鳴り物入りで山滋高校に入学したエリートランナー。
全国高校駅伝(都大路)に、全てを懸けている。
〇ベストタイム
1500m…3分55秒98
・牛尾 貴裕
地元の中学から進学してきた1年生。高道と違い、持ちタイムなども平凡。
〇ベストタイム
1500m…4分25秒50
・東谷 健吾
高校から陸上競技を始めた初心者、1年。気が弱い。
・脇中 健太
山滋高校3年生で、陸上競技部主将。駆と同じく、強い山滋憧れており、再建を狙う。
〇ベストタイム
5000m…15分01秒33
・田村 龍一
山滋高校2年。一見不真面目なヤンキーに見えるが、実は後輩の事も気にかけたり、結構いいやつ。
〇ベストタイム
5000m…15分03秒02
・大和 勇鳳
鹿鳴館宇治高校3年。驚異的な才能を持ち、2年にしてインターハイ、都大路準優勝を果たした鹿宇治高のエース。
〇ベストタイム
1500m…3分48秒98
5000m…13分55秒62