山滋高校
☆登場人物☆
・高道 駆
中学チャンピオンになり、鳴り物入りで山滋高校に入学したエリートランナー。
全国高校駅伝(都大路)に、全てを懸けている。
〇ベストタイム
1500m…3分55秒98
・牛尾 貴裕
地元の中学から進学してきた1年生。高道と違い、持ちタイムなども平凡。
〇ベストタイム
1500m…4分25秒50
・東谷 健吾
高校から陸上競技を始めた初心者、1年。気が弱い。
・脇中 健太
山滋高校3年生で、陸上競技部主将。駆と同じく、強い山滋憧れており、再建を狙う。
・田村 龍一
山滋高校2年。一見不真面目なヤンキーに見えるが、実は後輩の事も気にかけたり、結構いいやつ。
第1話「山滋高校」
ー2017年 4月ー
遅咲きの桜も満開を迎え、それと同時に駆は、山滋高校に進学した。
入学して間もなく、体験入部が行われ、駆は早速陸上競技部に向かった。
しかし、駆はそこで衝撃的な現実を目の当たりにする。
新入生が駆を含めて3名しかおらず、ましてや部員が新入生を含めて6人しかいない。
高校駅伝は、7区間を走るため、最低でも7人は必要であるが、なんと今の山滋高校は、そのスタートラインにも立てていない。
「新入生?」
呆気に取られる駆にそう声を掛けてきたのは、脇中 健太。3年生で、山滋高校の主将である。
「高道 駆です!陸上競技部への入部を希望しています!」
「君が高道くんか。全中優勝した子が入ってくると噂になってたが、よく来てくれた。2人の名前は?」
「牛尾 貴裕です!ベストは1500m 4分25秒です。」
「東谷 健吾です!高校から陸上を始めたくて入部しました!」
「そうか。皆、よく来てくれた。ウチは人数が少ないからね。入部を希望してくれて光栄だよ。俺は脇中。ここの主将だ。よろしくな。」
新入生3人は口を揃えて挨拶をし、その後間髪入れずに駆が脇中に問う。
「失礼ですが、これで全員じゃないですよね?部員。」
「……ほぼ全員なんだ。実は、去年までは殆ど当時の3年生でメンバー構成されていたから、卒業と同時にこれだけになってしまって……」
脇中がやり切れない表情で語る。
その後脇中はこう続けた。
「でも俺は、都大路(全国高校駅伝のこと)優勝を諦めてはいない。実は、もう一人部員がいるんだ。2年の奴なんだけど、5000mを14分20秒で走る強者が。」
「ま、来月までそいつ停学なんだけど(笑)」
そう口を挟んできたのは2年の田村 龍一。
「俺、田村。2年な。よろしく!」
「しぁす!!!」
1年生が慌てて挨拶する。
「田村、お前後輩ができて嬉しそうだな。浮かれてるのか?」
「け、健太さん!そんなことないっすよ~」
「とにかく、俺達はそいつが戻ってくるまでの間もひたむきに練習するしかない。これからよろしくな。1年生には、明日の朝練から参加してもらうから、その予定で。」
帰り道。牛尾と東谷は駆に対して尊敬の眼差しを送っていた。
牛尾に関しては、中学時代の憧れのスターが目の前に、東谷も、よく分からないがとにかく凄い奴がいるという感覚だった。
牛尾が聞いた。
「高道さ、なんでわざわざ山滋高校に来たの?府内には天下の鹿鳴館宇治高校があるのに。」
「昔、山滋が優勝した所をみた。強い山滋がかっこいいと思った。」
「それだけ?でも意外だな。ここはもっとゆるい感じで陸上やるんだと思ってたけど、朝練とかあるんだ~。」
「(駆)……。」
「でもさぁ、鹿宇治の場合、府内のトップ選手毎年殆ど取ってるじゃん?正直勝てっこないよね~」
「じゃあやめろよ。」
駆が口を開く。
「え、どしたの高道。」
「牛尾、お前みたいなのがいるから山滋は弱体化したんだ。お前のような心積りで入部しようとしているのは迷惑だ。やめてくれ。」
「なんでお前にそんな事決められなきゃなんないんだよ。第一、全国行きたけりゃ鹿宇治行けばよかったじゃん。お前の実力なら好きなだけ行けただろうよ。」
「ちょっとやめろよ二人とも……」
東谷が泣きそうな顔で2人を制止する。
少し経って落ち着いたあと、駆が牛尾に対して吐き捨てるように言った。
「俺は山滋高校を復活させに来た。強い山滋を取り戻す。お前のように邪魔をするやつは許さない。」
「何熱くなってんだよ。バカじゃねえの。行こうぜ東谷。」
駆は、衝撃を受けていた。
駆にとって陸上競技とは、人生そのものであり、命を懸けてそれに取り組んできた。
それ故に、「ただの部活」感覚で陸上競技に取り組む者の考え方が理解出来なかったのだ。
ましてや、そのような感覚の者が同じチームにいるなんて……
そう、駆の夢「全国高校駅伝優勝」に向けてそれは、予想だにしない壁になっていくー