精霊さんの放浪録
そこはエルフの集落の地下に作られた牢屋だった。
もともと地下に造られていることから窓などはなく空気は澱みとても生き物が住むのには適さない場所だった。
そこでは今、鉄柵で遮られ普通ならば囚人が監修されているであろう場所より吹雪がまるで竜巻の中にいるように吹き荒れていた。
そんな異常事態に見張りをしていた俺ともう一人が鉄柵の方を警戒しながら覗き込んだ。
すると竜巻の中央付近にふとだいたい十と一、二歳ほどの子どもの形をした影が現れた。
だがそれはおかしくはない。
なぜならもとからこの牢屋には幼女の姿をした癒しの精霊と言われる中位精霊と形のない光の球の姿をした下位精霊がいたからだ。
と、そこで吹雪が弱まりその幼女の姿が見え始めた。
そこに立っていたのはまるで初雪のような白銀の髪と闇に呑み込まれるかのような暗い紫色の瞳をした幼女だった。
おかしい。
さっきまでいた癒しの精霊はたしか金色の髪に群青色の瞳をしていたのではなかっただろうか、それに癒しの精霊は傷をいやす程度の力しか持たず、このような氷属性のような攻撃手段を持ち合わせてはいなかったはずだ。
それが出来るとすればさっきまで一緒に入っていた下位精霊だがそれこそおかしい。
下位精霊がこんな魔力もないところで中位精霊に匹敵する力と肉体を持てるはずがない。
ではなぜこのような事態になったのだ。わからない、わからない、わからない
「ヴぁぁぁヴぁ?」
ふいにそんな音が幼女の方から聞こえてきた。
どうやら何かしゃべろうとしているようだがさずがにそれは無理だろう。
上位精霊ならいざしらず下位精霊や仮初の魔力の肉体を持ったところで中位精霊ごとき家畜にしゃべることはできない。
「おい!! 家畜がおとなしくしやがれ!!」
ガン!!
そう相方が言うと鞘に指したままの剣を鉄柵に打ち付けて命令する。
するとその幼女はギロッとこちらに眼を向けると何か考えるかのように無表情で間を置く。
そして結論が出たかのように腕を組み、頷くと口を半月状にしてまるであざ笑うかのように笑った。
「ごら!! なんだその顔は!! ぶっこ・・」
それは一瞬のことだった。
瞬きをしたちょっとした間に相方は動かなくなっていた。
いやただ動かなくなっているのには語弊がある。正しくは凍っているのだ。
床を見ると幼女を中心として波紋が広がるかのように氷が浸食していた。
どうやら相方は鉄柵まで近づいていたせいで早く氷の浸食が行きつき凍ってしまったのだろう。
しかも氷の浸食は進行が速くもうすでに俺の脚まで行きつきもう逃げられなかった。
「お、おねがいだ! 俺だけでも助けてくれ!! なんでもするから!!」
俺は叫んだ。
どんな見苦しく醜く家畜ごときにこうべを垂れようとも俺は死にたくない!
そんな思いが通じたのか俺の体を腰の所まで浸食している氷は止まった。
「あ、ありがとう」
そうお礼をいうとその幼女の口が動いたような気がした。
「い・や・だ」っと
最後に牢屋に残ったのはエルフと言う種族の氷人形と白い髪をした幼女だけだった
これは少し先のある精霊になった男の物語。
◆
目が覚めた
ぐー、あと5分~
っあ、けど今日は大切な用事があった気がする。
しょうがない起きるかなぁ。
そうして目の前のある光景を見た。
そこは一面見渡す限りの森が広がっていた。
しかもそれはまるで上空から見下すかのよう一つ一つの木々が米粒のように小さく見えた。
『そんな馬鹿な・・』
うん? 今確かに口から声を出そうとしたのに声は響かずにまるで波紋が広がるかのように波打ったみたいだった。
しかもおかしなことに口がないかのように開きもしなかった。いやなぜだし。
そこで視線を下に向けるとそこには体がなかった。
え!! 俺の体どこよ?!
お、落ち着け俺!!
そうだ、昨日寝た時のことを思い出すんだ!!
そうすればなんでこんな状況になったのかわかるかもしれねぇ!
えっと何してたんだっけ?
おい~全然思い出せないんだけど、そういえば俺ってどこの誰だっけ?
ま、まずい! それだけはまずいって?!
え、えっと、そ、そうだ俺の名前は西藤四朗だ。
えっと、ほかには確かそう剣術を習ってた!
あとそれから・・・・あれ?
後は全然思い出せない。
ぐおぉおぉぉぉおおおおぉおおおお
思い出せ! 思い出すんだ!! 俺!
気合があればなんでもできるぅ! 有名な人はそういってたぁ!!
数時間後
あ~なんか落ち着いた。
どうもこうも思い出せないならしょうがないよねぇ。
まぁ、名前だけでも思い出せたんだからいいかなぁ。
とりあえず保留にして現状確認だ。現状確認。
どうにか動けないけなぁと思いいろいろ試してたら首を動かす要領で案外簡単に動くことができた。
しかも首を上下に向けようとすることで上下にも移動することもできるようだ。
この体?首?を思うように動かせるようなので改めて全方向を見渡した。
『・・・・・』
ふむ何回見てもやっぱり広がるのは地平線まである森だけだな。うん。
そういえば真下を確認していなかったことに気が付いて真下を覗き見ると水たまりがあることに気が付いた。
いや、よく考えると俺は上空にいるんだった。
つまりはあそこに見えているのはきっと結構な大きさの泉か湖に間違いない。
よっし! これで今の俺の姿を水面で確認できる!
そう思ったが吉日すぐにあの水場に移動を始めた。
最初こそ飛びなれないこともあり、のろのろとしたまるで亀の移動のようだったけど水場(どうやら泉のようだ)につく頃には急降下急上昇急カーブなんでもござれくらいにはうまく飛行できるようになった。
・・・というかこんな短時間でうまくなるものかな?
まぁできないよりかはいいんだけどね。
そうして泉に着いた俺は野生動物に警戒しながら泉に近づくことができた。野生動物に襲われたくないからね。
そして泉の水面に覗き込むように自分の姿を見るとそこに写っていたのは光の球だった。
はい!?
いやちょっとまてなんだよこれは!
さすがにただの生き物ではないと思ってたけ光の球ってなによ!!
そりゃあ、口はないだろうね! 光の塊にはね!! しかもさ目も耳もないのになんで見たり聞いたりできるんだよ!! 本当に意味わからんは!!
ぐがぁがががががぁががががぁがぁがぁがががぁ!!
数分後。
落ち着いた。
さすがに二回目だと慣れたわ。うん。
はてさてさーて。これからどうしようか。
移動くらいならなんとなるけど手や口がないから何もできないなぁ。
ぐう~
するとそんな音が聞こえるかのように体が震えた。
というかこの体は何食べるんだろうか?
一様はまだ我慢はできるけどお腹が減ってきたし。
試しに目の前の水を飲もうとしても飲めなかった。
どうしたものだろうか。
ていうかさっきから無視し続けているあそこに向かった方がいいのかなぁ
だってなんかあそこからいい匂いではないけど、美味しそうな気配がするんだからしょうがない。
そんな思いもあり振り返る。
そこにあったのは人よりも高い木々と比べても断然大きく、その大きさは雲をつき向けてもさらに大きく雲の間からは青々とした葉を実らせた大木が視界いっぱいに広がっている光景だった。
えーと木で会ってるよね。
これで確信したここ異世界だわ。
といっても記憶がないから絶対といえないけどそれでもありえない光景だなと思う。
とりあえず、手がかりもないし自分の感覚を信じていってみますか!
こうしてこの俺、シロこと西藤四朗の珍妙な物語は始まるのだった。