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しゃしょり座なのじゃ!  作者: 桜林路 はぴ
花津色の章
3/66

我が名は光の忍者!<響・彼方登場>

 周が起床する。

『♫S!A!T!UR!DA!Y!NIGHT!S!A!T!UR!DA!Y!NIGHT!』

 まばゆい朝日の中で、周が歌唱式の目覚まし時計を止める。

「目覚めのベイシティー・ローラーズは最高だぜ、金曜日だがな。支度して学校行くかー」

 周が寝床の脇を見下ろす。

「って、こいつが居たか」

 周の隣で、きよが腹を出したまま寝息を立てていた。

「こいつには、昨日の事を喋らせようと思ったが、熱く生き過ぎていて忘れていたぜ」

(俺は気付いてるぜ。霧の日にハンカチを殴った時。昨日あの怪物を退治した時。どちらも、心眼で見る、的の向こうの遠い仮目標の辺りが爆発していた。こいつはその場所を狙えと言っていた。こいつはとっとと追い出して、その点は自分で解明するとして、なんだか面白い予感がするぜ)

「新しい時間を作りに来た?人生のたった一つの思い出を作りに遊びに来たってか」

 先日きよが設えた祭壇から、物音がする。

(?)

「あ、つきえ。きよねがねておるぞ」

「はや。すぐにここのつきがおりる」

(なんだあ!?)

「お前ら!そこ座れ!!こらあ!!!!」

 周が、祭壇の向こうから全てを輝かせながら現れた幼児二人に怒鳴りつける。

「起き抜けに荒々しいをのこよな」

 周がちゃぶ台を鉄拳で叩いて、幼児達を指差す。

「とっととそこ座れコラぁ!」

「かまうかあ!」

 乱髪気味の幼児が、ちゃぶ台を強く叩き伏せ返す。

「なんだコラ!お前ら、こいつの身内だろ!!!」

「いかにも身内だあ!」

「どこから来た!」

「黄金時代!」

「なんだあ!」

「きらきらだ!」

「持って帰れ!」

「ふぱあー」

 周が、寝返りを打ったきよをつつく。

「ううう」

 艶髪の幼児が寝そべり始める。

「つきえ!?ここで?ええい!連れて帰るわ!」

「?」

 周を睨んだまま乱髪気味の幼児が、居眠りを始めた艶髪の幼児をつかんで祭壇へ引きずって行く。

「きっちり片付けろや!」

 祭壇がしばらく光り輝いた。

 きよが布団の上で眠っている。

「何だあ?あいつらぁ???」


「何やら香ばしいのう〜」

「朝食!!この炙り鮎つけ麺は、空きっ腹の鮎にハーブ苔をたらふく食わせて丸焼きにして、全身に香りを回した逸品だぜ!俺が、つけ麺屋・是梅これうめに伝授した特製献立だからな。あと、出し汁で炊いた十六穀米だ」

「おおお、旨そうなのじゃ!」

「大人しく家で留守番してろよ!」

「早く戻るのじゃー」

(またやや子しいのが出て来たな。なんだか、連れて帰らせるのには良さそうだが。あいつらの事は帰ってから、とっくりと説明させるか)

 周は二階の窓から手を降る、きよの声に送られながら、通学路へ赤鸞を走らせる。

(シュウちゃーん)

「お、稀人か」

「さっき、家に誰かいたの?」

「いや」

「そう」

 新生淡路の中心市街の最も高い摩天楼に立って、遥か彼方の周達を鳥瞰する人影がある。

 白い上着、黒い穿き物の人物は、尖った黒髪を風にゆらしながら、サングラスを朝日に光らせている。

(煮卵。よもや、あの様な手段で、ああも容易く、女王の力を鎮めるとは)

「雇い主からの情報以上の傑物。さて。この光の忍者の術中に、どう嵌め込むか。光の忍者に出し惜しみは禁物さ。飛竜!お前の逆鱗にムチをくれていくぞ!」

 光の忍者が姿をくらませた。


「それでは、『青春期と青少年』についての小論文・或いは随筆、まずは周くんから発表!」

「はいはいっと」

(めっちゃ書いてる。目えどころか、顔泳いでまうわ)

(さすがシュウちゃん)

(案ずるより産むが易し。思春期況いわんや青春期には万能感が溢れている。やりたい事は沢山ある。やれそうな事も沢山ある。反面規制されている事も沢山あるが、隠れてやればいいだろうというのは、匹夫ひっぷのやる事だ。ゼロを一にする事が万能の証明であるなら、規制されている事が実は、公徳の許す範疇に属していると証明して社会を変革する事も、万能の証明だろう。新時代の萌芽が従前の聖人君子に対する挑戦となるならば、万能感に基づき青少年は学を以って理を説き、旧社会の包摂を図れ。唸っているだけよりは結果が出易い。やろうと思っていて、今日になって、今出来そうだと思ったら、割と本当に出来るもんだ。喧嘩好きの生徒の意見。以上終わり)

「───新学期、夢の続きに、熱くなれ!終わり」

(そんだけ?)

(ええっ!?)

「周くん、素晴らしいね!」

 響彼方ひびき・かなたが拍手とともに賛辞を贈る。

「それから………」

「!」


「シュウ、さっき褒めてたの誰?」

「窓から、いきなり顔出して来た奴か?三階だぞ、何やってんだあいつ」

「カッコ可愛い顔してたよね。モテそう」

(しかも飛び降りて、足の指先十本を活用して、衝撃を全身に分散させて伝えながら、植込みの土盛りの法面のりめんを利用して、側転宙返りで軽々と着地しやがった。運動場に対しても木を遮蔽物にしていたから、全てが見えていたのは窓際で立っていた俺だけか!正体を隠しつつ腕前を見せつける。何もんだ?奴は)

「隣の組の響彼方(ひびき・かなた)君だって。体育でボールを取りに来てたらしいね」

雨樋(あまど)伝って?マメなやっちゃな」

 周は、笑顔を寄せて来た響彼方の、最後のささやき声を思い起こす。

(神拳高闘連合との喧嘩、凄かったね)

「帰り掛けにまた来るってよ。妙な奴に見込まれたもんだぜ」

「どないするん?」

「髪先尖っていやがるが、超能力者エスパーかよ」

(ふふふ)


「帰ったぜ」

「垂簾の間じゃ!」

「ロフトが!」

(またか、こいつ!)

 周が内改築部を取り壊そうとするが、指が滑るばかりである。

「大人しく留守番してろって言っただろうが!」

「大人というより天才じゃのう!」

「叩き帰すぞコラぁ!!!」

「あ!きよねが起きておるぞ」

「あがねよ、戻られよ」

(こいつら、また来やがった)

「なんじゃお前たち、きよの愛の鵜ヶ屋(うがや)に何をしに来たのじゃ!」

「きよねは、日見の勤めに、巫女の修行に、やる事が山積み!」

(巫女ぉ?こいつ巫女か?)

「きよはもう一人前なのじゃ」

「修行ーー!」

薩満しゃーまん体当たり!」

「ぎえー!」

「ほれ見い!」

「春の日見がもうすぐ!」

「連れて帰ります」

「おう、さっさと連れてけよ」

「お前たちが来るから、周がつむじを曲げておるではないか!」

 周を返り見て、乱髪気味の幼児が目を眇める。

「このおのこがのう」

 乱髪気味の幼児が、広げた両腕先で指をわななかせる。

(?)

「はや、ほどほどに」

「けえええええ!」

「おい」

 周は、乱髪気味の幼児の頭上に渦巻ドドドドドき始めた青白い霧を、分厚い手の平でまさぐる。

「はれ?」

「何だよ」

「ち、力が。つきえ!」

「エイっ!」

「だから何だよ」

「動けると!?」

「きよね!このおのこは一体!?」

「ほっほっほ。お前達と同じ、きよの眷族じゃ」

「ほほう?では高次元こうじげん化生子けしょうしを?」

(したり顔しやがったぞ)

星焱せいえん燚孩いつがいの合体攻撃も、あっさりと倒してしまったのじゃぞ!」

(何話してんだ、こいつら?)

 きよが頬を赤らめて、周の腕に抱き付くと、空で翼を広げたまま停止していた鳥が、再び羽ばたいて飛び始める。

「何ですと」

「まさか!眷属神!?つきえ、こうなったら、ここは全力で!」

「出直しましょう。我らにくみしたのならば」

「つきえ!」

よ、眷愛の者としての眷族なら、ゆめゆめ見極めを確かになされよ」

「もう済んでおるのじゃ!またの!」

 周が、手を振って見送るきよと共に、幼児二人が祭壇の光の中へ歩み去る様子を眺めている。

(おいおいおい。巫女だの何だの。こいつは、どうすんだ!)

 きよが周の腕を抱いて回転している。

(他にも何か言っていたが、まあいい。何であっても、ぶっ壊せばいいだけの事だぜ!)


南淡なんたん高校で待つ?あの野郎)

 あまねは赤鸞で緩重力高速道路を飛び、姉妹校へ向かっている。

 ゆるやかで長大な下り坂に差し掛かり、周は南淡地区の市街地を見下ろしながら継翔する。

「周君!」

「あん?」

 ひびき彼方かなたが髪を乱しながら、周を目掛けて中央分離帯上を大股に駆け寄って来る。

「風が気持ちいいね」

(今、百キロ出してるんだぞ!?)

「おう、忍者っ!なんの用だ!?」

(ベルサーチのモノ・ラップアラウンドのグラサンなんぞ掛けやがって)

「えっ!ばれてた?」

「知るか!早く済ませろよ」

「じゃあ、手っ取り早く、あらためて自己紹介から」

(これも光忍法の術中。ふふふ。話が早いよね)

 周の姿を、陽光に目をかすサングラスに映しながら、大声で響が告げる。

「ぼくは響彼方!光の忍者ホワイトアウト!」

「お前、どっちの名前も抽象的だな!」

(忍者だってよ!こいつ!おいおいおい。ていうか、今、平坦路だぞ!?)

「早速だけど、来るよ!」

「何が!?」

「敵が!」

「敵い!?」

 周は甲高くさせながら疑問の強声を挙げ、歯を剝いて笑う。

「そういうの待ってたぜ。ただし、あくまでもお前の喧嘩だろ!お前、体張れよ!」

「勿論さ!来た!」

「「「「「覚悟せえーーーー!」」」」」

 周達の両脇に、合流車線と反対車線から飛び込んで乱入して来た百台の単車が迫る。

「おらっ!」

 周が赤鸞の車側を敵車へ激突させて体勢を崩させ、操舵を撹乱させて蹴り上げ、他車を巻き込ませて十台を道路外へ弾き飛ばす。

(赤鸞の車体は、金属とセルロースナノファイバー混練ポリカルボナイトとの傾斜濃度配材合板。ユンボの腕をまとめて振り下ろされても、こうして平然と弾き返すぜ!)

「さっすが!」

(謎の遠隔攻撃は空振りか。発動条件は何だ?)

「おう!こいつら何者なにもんだ!?」

「彼らはっ!」


 南淡高校。

「総長」

「続けろ」

 年若い巫女が、薪の炎にの中に平置してべられている亀甲を見つめている。

「・・・・・・」

「総長。何者かが殴り込みに」

「お前らで片付けろ。力尽くでな。今すぐに行け!!」

「はっ!」


平家へいけ一門!?お前何言ってんだ?」

(いやいやしかし、こいつも想像以上の事をしているしな)

 走り抜けながら半数の敵単車を駆逐した周に続いて、響が金色に光る飛び道具で敵車の昴球を破壊し、跳ねる破片を残して全員を路外へ吹き飛ばした。

「やるな!」

「でしょ?周君に助太刀して貰って戦いたい相手は!南淡高校の三年生で総番長、伊藤七郎。仇名あだな悪七兵衛あくしちびょうえ一名いちめいたいらの景清かげきよ信濃守しなののかみ。平家の侍大将さむらいだいしょうにして聖剣『あざ丸』の使い手。その名は、藤原ふじわらの景清かげきよ!」

(伊藤?伊勢いせ藤原氏か?信濃の守?東海の方だな。どっちにしても俺の縄張りの外だった奴だな)

「長えな、おい。強いのか!?」

源平げんぺい合戦かっせん最強の侍!」

「おお!?ならやってやるぜ!」

(うまく導入できたかな?ふふふ)


 景清が見下ろす灼熱の亀甲が、燃える破片を跳ばしている。

(執印周…喧嘩ステゴロ最強との噂を聞く。だが我等、天驤衆の喧嘩は次元が違うぞ。その我等のいくさに執印を引き込んだ、あ奴。忍びの者であるなら雇い主が居るはず)

 巫女が亀甲のひびの意味を看読している。

「どう占う?」

「・・・兵衛ひょうえ殿の身はあやうくとも・・・」

「ふっ。危うく、とも、か。我が身の働き次第よの」

(雇い主か。派手好みとなると見当は付く……ならば、其奴を潰す!)

 景清が立ち上がって、燃える亀甲を手に握る。

「運命など、わが力で打ち壊すのみ!」

 景清は、一息に亀甲を握り割った。

「くくく。『原初の女王』。待って居るが良い!」


「おっしゃ行くぞ!」

 周は、夕景に変わりつつある新生淡路の大空の果てを目指して飛翔する。

(あいつの夕飯、まだだったな。とっとと片付けるか)

(ふふふ。周くんが移動するだけで、こうして情勢が変化して行く。面白くなって来そうだね)


「アマネの事、頼んだよヒビキ」

『令和』ナンバーの単車にまたがっている美青年が呟いて走り去った。

執印 周 (しゅういん あまね):本編の主人公。あだ名はシュウ。単車の名前は赤鸞 (せきらん)

きよ:謎の女の子。メカフェチ少女ライダー


妙義 稀人 (みょうぎ まれひと):周の友達。あだ名はマレト。

源 綺子 (みなもと あやこ):周の友達。あだ名は元気。


響 彼方 (ひびき かなた):周の同級生?自称、光の忍者


【南淡高校】

伊藤七郎:南淡高校の総番長。響曰く平家最強にして侍大将の「藤原景清」

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