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吾神祛

魂を捧げなさい。

そうすれば、血と肉を与えましょう。


「嫌な奴だな」

俺は、吾神あがみゆずるは自分を嫌な奴だと分析する。

それには幾つか理由がある。

まず、俺は朝、妹に賞味期限切れの商品を食わせてしまったこと。

さらには、自分は賞味期限が切れていない商品を食べていたこと。

次に、女の子のパンツを合法的に見る方程式を考えるために午後の授業を聞いていなかったこと。

最後。

一番大事なこと。

「午後の緑茶を午前中に飲んでしまった……」

以上のことで、吾神あがみゆずるがいかに嫌な奴かということを認識してくれただろうか。

それを認識したまま。

次の文を読んで欲しい。

「祛〜。お腹空いた〜。私。祛の熱いの、飲みたいな」

放課後。

金木犀きんもくせいの香りのする少女にうるうるとした瞳で口を出される。

俺はため息を吐きつつ、そういえばしばらくこいつに俺のを飲ませていないことに気付く。

「欲しいか?」

「欲しい」

「すごく俺は疲れるんだが?」

「知ってる」

「はあ……」

俺はためらいなく指を噛むと、彼女の口に指先からしたたる俺の熱い『血』を流し込む。

「元気になった」

「そうか」

彼女はいわゆる、吸血鬼……ではない。

彼女は吾神の最高傑作であり、最低の作品であり……

「俺が超えるべき、目標」

「ん?」

「いや、なんでもない」

ごまかす。

彼女は定期的に俺の血を与えなければ、大変なことになる。

俺の血が、彼女の血であり肉になる。

比喩表現的な言い方をするならば、血がなければ、彼女は骨だけになってしまうだろう。

俺は、彼女を、いずれ……


夜。

俺は血を大量に抜いた反動で貧血気味になりながら、ふらふらと倉庫から出た。

倉庫に彼女を近付けたことは、あまりない。

必要ないし。

彼女には、きっと抗えないから。

この時はまだ気づかなかった。

俺の日常が壊れるまで、時間があまり残されていないことに。


「あっ!?」

食事中。

彼女が、いや、霧島きりしま蜜柑みかんが素っ頓狂な声を上げた。

「どうした? まずは口の中の物を全部食べてから話せ」

「……」

無言でコクコクと蜜柑が頷く。

そして。

「学校に忘れ物した……」

はあ。

そんなことか。

「明日取りに行け。……ああ、明日は学校は休みか」

創立記念日、らしい。

もっとも、いわくつきな記念日だ。

創立の際に一人の少女が殺されたとか。

その犯人は不老不死、だとか。

「明後日じゃ遅いよ」

蜜柑が首を振る。

「何を忘れたんだ?」

「……うっ!?」

蜜柑は途端に顔が青くなる。

「……言わないと、またしばらく『血』抜きだぞ」

蜜柑は観念したかのようにしゅんと肩を落とす。

「……お弁当。大根苦手で残しちゃって……」

「お前! この夏の暑い日に腐りやすい汁物がいいとかアホなこと言うから必死におでんとか入れてたのに。弁当忘れたのか!? 明後日行って発酵した弁当見つけたら納豆感覚で食う気か!」

蜜柑の目に、薄く涙が溜まる。

「だって……だって……」

「言い訳は聞かない。学校行くぞ」

日常が壊れるまで、あと少し。


俺の通う刻谷きざみたに学園は少々特殊な学校だ。

昼と夜。

二つの時間に生徒を学ばせている。

昼は普通の学校。

夜は高卒認定を取るためや学び直したい人のために、社会人やその他の人間が通っている。

つまり、だ。

コンビニのように二十四時間フルで校門が開いている。

とはいえ、俺も夜に来るのは久しぶりなので、実は結構緊張していたりする。

校門を通る。

時刻は十二時の少し前。

と、校門に見慣れない少女を見つけた。

白髪の美少女と言えばいいのだろうか。

人形のように整った顔立ちだ。

そしてその手には……


『剣』が握られていた。


「……あなたは?」

女の子が俺に気付き、声を掛けてきた。

あまりにも剣を持っていることが自然過ぎて、俺は隣りに蜜柑がいることすら忘れて答えてしまう。

「吾神祛……」

女の子は「そう」とつぶやき。

「……死んで」

剣を振り上げた。

「ッ!?」

死ぬ!?

感覚で分かる。

この子は、なんのためらいもなく俺を殺すであろうことが。

そして。

俺を守るために蜜柑が身を盾にすることも。

グサリ、と。

身を盾にした蜜柑を剣が貫く。

「……失敗」

剣を引き抜き、次の攻撃をしようとする女の子に俺は剣の先を掴むことで抵抗する。

剣が俺の手を浅く裂き、血が蜜柑に降りかかる。

「……なんのつもり?」

「こういうつもりだ! 蜜柑!」

蜜柑の目が緑色に染まる。

そして、蜜柑の影が漆黒に変色し、蜜柑を包み込む。

俺は漆黒の影にためらわず、手を突っ込む。

「吾神の剣……」

「そう」

漆黒の影から引き出したのは新緑をイメージさせる剣。

切っ先はなく、一番形状が近い武器はクルタナだろう。

「吾神祛の剣、断罪の鎌アルギスト一号オリジン

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